ちぐはぐな二人
対照的な性格をしている男女の話。
「何やってんの、オマエ?」
「え、見て分かんないかな?」
「……大量の教材を運んでるように見える」
「うん」
「うん、じゃなくて、なんでテメエ一人が運んでんだ?」
「なんでって、委員長だし」
「……バカじゃねえの?」
「何が?」
「委員長なんつー権限持ってんなら、むしろ誰かに押し付けりゃいいじゃねえか」
「えー、だめだよ、自分の仕事を人に押し付けちゃ」
「権力は使ってこそだろ」
「権力は弱者を守るためだけに使われるべきだよ」
「はっ、世の政治家どもに聞かせてやりたい台詞だな」
「政治家全員が汚職にまみれてるわけじゃないと思うな」
「そぉかぁ?」
「むしろ、そうじゃない人がほとんどだよ、きっと」
「だとしたら、そりゃ、おめでたいな」
「でしょー?」
「いや、オマエの頭がおめでたいっつってんだよ」
「えー」
「んな簡単に人を信用してどうする」
「信じることから始めないとだめだよ?」
「宗教家っぽい言い草だな」
「ボクが信じるのは神じゃなくて人だよ」
「詐欺に遭いそうな台詞だ」
「大丈夫だよ」
「そう言うヤツが大抵、人に騙されて痛い目を見るって相場が決まってんだぜ」
「だから、大丈夫だよ」
「どこが」
「だってボクにはキミがついてるしね」
「…………どういう意味だよ?」
「だって、悪い人たちはキミが追い払ってくれるでしょ?」
「………………オレ自身が悪い人だったらどうすんだ、つーかどう考えても悪い人だろ、オレ」
「そんなことないよ」
「そんなことあるだろ」
「悪い人は会った瞬間に無言で荷物を半分持ってくれたりしないよ?」
「………………………………」
「あ、ちょっと、先に行かないでよ、どこに運ぶか知ってるのー?」
「黙れ」
◇◆◇
「何してるの?」
「見て分かんねえか?」
「授業サボってタバコ吸ってるように見えるね」
「よくできました」
「体に悪いよ?」
「ほっとけ、オレの体だ」
「親が産んでくれた体だよ」
「産まれ出た時点でオレのモンだ」
「そんなことないよ」
「どっちにしろオマエにゃカンケーねえだろ」
「まあ、そうかもしれないけどさ……」
「…………」
「…………」
「……ふん」
「あ……」
「んで?」
「え?」
「んで、オマエは何でここに居んだよ?」
「……なんでだっけ?」
「オレが訊いてんだよ!」
「じゃあ、校内の見回りってことで」
「じゃあってなんだ、じゃあって」
「アハハ、ウソウソ、誰かさんが授業抜け出すの見えたから注意しようと思ってね」
「だから自分もサボりました、ってか?」
「あれ、そう言えばサボったことになるのかなぁ?」
「当たり前だ……」
「あーあ、皆勤賞だったのになー」
「…………たまに本気でオマエがバカなんじゃないかと思えるときがあるよ」
「へえ、どんなとき?」
「話の流れで判れ、たった今だよ!」
「そうなの?」
「サボってるヤツを注意する為に自分がサボるヤツがあるかっつってんだ!」
「間抜けな人だね」
「テメエのことだ!」
「アハハ!」
「……ったく、あははじゃねえっつの……」
「あ、ちょっ、どさくさ紛れになに二本目つけてるのさ」
「いいじゃねえか、減るモンじゃなし」
「いやー、減るでしょ、色々と」
「確かにタバコの残り本数が減るな、それに伴って金も」
「それもだけどそうじゃなくて、寿命とか健康とか」
「いーよ、別に減ったって」
「良くないし、それ以前に未成年でしょ?」
「実はオレ、二十歳超えてんだ」
「どう考えてもウソでしょ」
「さあな」
「もう……」
「………………ふん」
「……ふふ」
「…………」
「……ということでさ、授業出ない?」
「めんどくせえ」
「わ、一蹴された」
「だいたいよー、授業料払ってんのはこっちなんだぜ?」
「正確にはキミの親だけどね」
「だから受けるもサボるもオレの自由、他人にとやかく言われる筋合いはねえ」
「ひねくれてるね」
「オマエが素直過ぎんだよ」
「そうかな?」
「そうだ、だから貧乏くじを引く」
「うーん、どの辺りが?」
「いっつも雑用押しつけられたりしてるだろ、生徒教師問わず」
「……」
「委員長だからとかいうわけ分かんねえ理由で」
「……」
「さっきの教材運びもそうだったろ?」
「……」
「そのくせ何か失敗したら責任はオマエに負わされんだぜ」
「……」
「素直に従うからつけ上がってあれこれ頼んでくるんだよ」
「……」
「たまには反抗してみたらどうだ?」
「……へぇー」
「……んだよ?」
「いや、ボクのことよく見てるなあ、って思って」
「…………っ」
「それに心配もしてくれてるのかな」
「……知らねえ」
「ありがとね」
「黙れ」
「でも、やっぱり頼まれたら断れないよ」
「……」
「人に頼られたら嬉しくなるじゃない?」
「……」
「ボクも嬉しいし、相手も助かる」
「……」
「誰も損なんてしてない」
「……」
「ほら、何の問題もないでしょ?」
「………………やっぱオマエはマジでバカだ、大バカだ」
「じゃあそんなボクを見守ってくれてるキミは超バカなのかな」
「……別に見てねえよ」
「そう?」
「ああ、そうだ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ところでさ、前々から思ってたんだけど、その口調どうにかならないの?」
「あん?」
「キミ、女の子なんだからさ」
「ほっとけ、今更どうにもなんねえよ」
「もう……」
「はん……」
「ってまたタバコつけるし……」
「つーか、テメエも男ならもっとシャキッとしろ」
「あぁ、それは言えてるね」
「だからへらへら笑うんじゃねえっつーの……」
「……うーん……」
「んだよ?」
「……じゃあ、シャキッとして言わせてもらうよ」
「お、なんだよ?」
「――――やっぱり関係あるよ」
「………………いや、何の話だ?」
「タバコとキミの体の話だよ」
「……はあ?」
「キミの体のことはボクに関係ないって言ったけど、やっぱり関係あるよ」
「……どうして」
「タバコ、やめなよ」
「…………だから、なんで」
「吸いすぎると、子ども、産めなくなっちゃうよ?」
「――――っ、ごほっ、ごほっ……!」
「あぁ、ほら、煙でむせちゃってるし」
「ちが、オマっ……げほっ!」
「はいはい、落ち着いてー、ひっひっふー」
「それはラマーズほ、げほっ、ごほっ!」
「そんな状態でもツッコミを入れようとするキミを尊敬するよ」
「…………っ、はあ、はあ……」
「落ち着いた?」
「…………」
「……どしたの、大丈夫?」
「どしたの、じゃねえ……」
「何が?」
「……さっきの、どういう意味だ」
「さっきの?」
「…………だから、さっきのオマエの言葉だよ」
「…………?」
「だーかーらっ、オレが、その、子ど……もとか産めなくなったらオマエに何か関係あんのかっつってんだ!」
「あー、うん、まあ、さすがにいきなり子どもは飛躍しすぎだけどね」
「当たり前だっ、じゃなくて何の話だ!?」
「えーと、だからタバコの話?」
「いや、だから吸いすぎたらどうなるかって話で、オマエが関係あるとかで、それで!」
「子ども産むときに悪影響が出るよって話?」
「だからそこが飛躍してんだよ!」
「えーと?」
「ああ、もうっ、いや、待て、落ち着け、落ち着こう、とりあえず二人とも落ち着こう!」
「混乱してるのはキミだけでしょ」
「…………」
「……ん、なにその恨みがましそうな目は?」
「……とりあえず、な?」
「うん」
「オレが体を悪くしたら、どこにどうオマエに関係があるんだ?」
「まず、ボクが悲しむ」
「それ、オマエ個人の感情じゃねーか……」
「そしてキミが子ども産むのに支障が出る」
「だからそこだっての!」
「……?」
「なんでオレが子ど……もとか産む話になってんだ!」
「……子ども嫌いなの?」
「そこじゃねえ!」
「じゃあ、どこ?」
「…………」
「…………?」
「……いや、だから、な?」
「うん」
「その、オマエの言い草だと、まるで……」
「まるで?」
「……」
「……」
「オレがオマエとの子ど……もを、産む、みたい、に、聞こえ、る、ぞ…………?」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………な、なんとか言えよ」
「ボクと付き合って下さい」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……………………」
「……………………なんとか言ってよ」
「……いや、とりあえず、順番とか色々とおかし過ぎるだろ……」
「ツッコミにいつものキレがないよ?」
「オマエのせいだっつの……」
「そう?」
「ああ、そうだ」
「…………」
「…………」
「………………」
「…………ふん」
「あ、またタバコ……って」
「……これでいいんだろ」
「ダメだよ」
「は?」
「ゴミはゴミ箱に捨てなきゃ」
「……………………」
「よくできました」
「……もうオマエの天然ボケには付き合いきれねえよ……」
「でも、ボクとは付き合ってくれるんだよね」
「…………上手いこと言ったつもりか」
「否定しないってことは――」
「黙れ」
「…………ふふ」
「…………ちっ」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……ねえ」
「……んだよ」
「これからも、よろしくね?」
「…………ふん」
会話文オンリー第三弾。
さて今回は、人鳥様よりリクエスト頂きました、『ものすごく性格の悪い奴』と『ものすごく性格の善い奴』な二人です。良いアイディアをありがとうございます。しかし書いている内に、『ただのツンデレ不良』と『ただ者じゃない天然ボケ委員長』と化してしまった気がしますが……ご期待に添えられましたでしょうか? ……嗚呼、やっちまった感が……。
また、実は荒っぽい口調の方が女だという、偽装と言いますかちょっとした遊び心を入れてみましたが、いかがでしょう。混乱しただけで面白くなかったらごめんなさい。……それとも最初からそっちが女だとバレバレでしたかね? それに、あらすじや前書きに『男女の話』と書いていなければ両方男に見えたかも。最後まで二人の性別が明かされないパターンも考えたのですが、終わり方が何も思いつかなかったので中止。いつか書くかもしれません。
執筆時間は四時間以上。もう少し素早く執筆したい。とは言え、タイプ速度はもうあまり上達しそうにないし、推敲作業は省くわけにはいきませんからねえ……思考時間を減らすしかないんですが、それが一番難しい。
もしも何かリクエストがあれば、遠慮せずいつでも申し出て下さい。なんなら、『男女二人』でなくても構いません。同性同士でもいいですし(ただしBLやGLは除く。苦手なので)、いっそのこと『犬と猫』とか『勇者とスライム』とか『宇宙人とミジンコ』とか……いや、さすがに最後のは書ける気がしませんがw
※追記:リクエストを受けてから書くのに時間がかかるかもしれませんのでご了承ください。
拙作を読んで、ほんの少しでも心に残るものがあれば望外の喜びです。
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