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Blue Blends Brave  作者: しが
3/3

1話(3)


 数日前の盛り上がりは、眉を潜めて静かな平穏を取り戻したルミエール村。

 「なぁ、あの子可愛くね?」

 「ホントだ。あんな子いたっけ?」

 耕筰作業をする若者二人が、一息ついて畑の向こうに目を向ける。

 二人に視線の先には、一人の少女が歩いている。

 正体を隠すように深くフードを被っているが、その隙間から淡いシルバーグレーの髪がこぼれ落ちている。

 肩まで伸びた髪は風に揺れ、白い肌の頬をかすめていた。

 身体つきは細く華奢で、少し大きめの旅用のマントに包まれている。

「顔隠してるみたいだが、話しかけてみるか?」

「よせって、おやっさんに怒られるぞ?」

 という会話が耳に入る。

「なー、今頃ユーリは王都に向かってるのかな?」

「だろうな。いいなー、俺たちもあいつみたいに、なりたかったぜ。」

「無理だろ。俺たち何回負けたと思ってるんだ。」

 

 村の畑は開けていて、声がよく響く。

 少女はフードを深くかぶり直し、両耳を強く塞ぐ。

 そして、すぐにその場を後にする。

 走りながら、腰に差した剣の鞘が小さく揺れる。

 これ以上人に見られれば、ばれてしまうかもしれない。

 自分が『ユーリ』であることに――。




 女になったあの日、父はすぐに魔法医師を呼んだ。

 魔法や呪いを起因とする病を専門に診療する医師である。

 しかし、医師は原因を解明できず、首を横に振る。

「わかりかねます。私にも、見たことがないもので……変身魔法とも違う別種の魔法もしくは呪い」

 医師は気まずそうに告げる。

「本当にユーリは元に戻らないのでしょうか?」

 とエルアは聞くと、医者は首を横に振る。

「現状かなり厳しいかと……なにせ、これまでに例を見ない魔法でして」

 状況は悪化しただけであった。

 元に戻れないという現実を受け入れるしかなかった。


「……」

 医師は役目を終え去った後のクローバー家には、沈黙が続いた。

 外から見られないように、家全体はカーテンで閉ざされたせいか、淀んだ雰囲気が漂っている。

「おかえりなさい。」

「あぁ」

 外から帰ってきたフォールドに、エルアは出迎える。

「どうでした?」

「とりあえず村の者には、ユーリは王都へと旅立った、と言っておいた」

「そう……」

 エルアは腑に落ちない様子に、フォールドは彼女の肩に手を置く。

「仕方ないだろ。これもユーリの為だ。」

 『女になった』という話が広まれば、村中でユーリは悪い意味で注目の的になってしまう。

 元に戻れない現状で、これを公開はユーリの精神状態を鑑みても、隠すことが最善だとフォールドは判断した。

「それで、ユーリは?」

「ユーリは自室で横になってるわ」

 真っ暗なベッドの上に座るユーリ。カーテンで塞がれた窓を正面に、無気力に刻まれた模様を眺めていた。

 コンコンと扉のノック音がする。

「ユーリ、入るぞ」

 ガチャリと入ってくるのは、フォールドだった。

「父さん……」

「大丈夫か?」

 フォールドに対して、ユーリは彼の方を向くことなく、首だけを縦に振る。

 フォールドはため息をつくと、部屋に入り、ユーリのすぐ後ろに立つ。

「……すまなかった。これは俺のミスだ。あの時、お前だけに任せず、何人かで……」

 フォールドは頭を下げる。

「……」

 ユーリは何も答えない。

 ただ、少し身体を震わせているが、頑なに表情は隠そうとしていた。

 しばらくの間、二人は硬直と沈黙を続く。

 やがて、フォールドは顔をあげる。

「だけど、いつまでも、こうしている訳にはいかない。」

 フォールドは、壁にかけられた剣をてにとる。

「勇者は無理だろうが、道は1つじゃない。」

 そして、それをユーリの目の前にそれを置いた。

 「お前だったら、冒険者の道もある。それに、お前は魔力量も」

「嫌だ‼︎」

 そこで、ようやくユーリは口を開く。甲高い叫び声が、部屋中に響き渡る。

 抑えていた感情が爆発する。

「俺がなりたいのは、冒険者でも、魔法使いでもない‼︎俺がなりたいのは……」

「仕方ないだろ。お前は……」

 感情をぶつけてくるユーリに、フォールドも冷静さを失う。

 大人気もなく冷酷な言葉をだそうとして、すぐに言葉をつぐむ。

「仕方なくなんか……ずっと努力してきたのに……」

「わかっているはずだ。勇者は……男しか」

 フォールドはユーリの肩に手を。

「……諦めたくない!!」

 ユーリはそれを思いっきり振り払う。

 ユーリの目には、涙がこぼれる。

「俺は……俺は……!!」

 言いきる終える前に、フォールドがもつ剣を奪い取ると、部屋を走り去った。

「ユーリ!!」

 引き留めようと言葉を出すが、もう間に合わなかった。

「……」

 部屋の外側で立つしかできなかったエルアも、引き留めることは叶わなかった。

 ユーリは、長年手にしていた剣と共に、扉の外へ去ってしまう。

 

 そして、気がつけば村の外までたどりついたユーリは、行き先もなく、森の中にいた。

 既に人の気配はなく、身を隠していたフードをとると、俯きながら歩く。

「……」

 ふと大きな木の前まで来ると、足を止める。

「ち、ちくしょう!!」

 感情のままに、ユーリは剣を引き抜くと力の限り、振りかぶった。

 大きな木は斬撃を受けて、真っ2つに割れる……となることはなく、剣先が幹に少し食い込む程度でしかなかった。

 「……そうだよなぁ」

 すっかりと力を衰えていることは感じていた。

 性別は変わり、見た目こそあまり変わらなかった。体の構造は大きく変わり、戸惑うことも多かったものの――。

 しかし、長年の努力で鍛えた筋肉が丸ごと無くなり、か細い身体になってしまったことがユーリにとって一番のショックだった。

 目の前の大きな木も、本来であれば切れたはずなのに、今はきれなくなったのが衰えの証拠である。

「そうだよなぁ」

 もう一度鍛えるなんて考えはあるが、今のユーリにとってそれだけの精神を持ち合わせていない。

「父さんの言う通りなのかもな」

 冒険者、魔法使い、という職が脳裏をよぎる。

 

 ガサッ


 すると、ユーリのすぐ後ろの茂みから、何かが動く音が聞こえる。

「な、何だ!!」

 村の森には、魔物が棲む。

 とはいえ、現れるのはスライムやゴブリンといった成りたての冒険者が依頼を受けて、狩る魔物ばかりである。

 当然、かつてのユーリの敵ではないが、今の彼で敵うかどうか――。

 ユーリは警戒して、剣を前に構える。

 だが、現れたのはゴブリン、スライムを遥かに上回る巨大な体躯の――。

「メガオーク!!」

 オーク――緑の肌の鬼の形相をした四足歩行の魔物。知性は低い、非常な怪力の持ち主。

 メガオークはその上位種である。

「グルルルル」

 おぞましい唸り声をあげる。

「まじかよ……」

 村の森で、オークはたまに見かけることはあったが、メガオークの出没は稀である。

 ユーリは、剣を強く握りしめるも、微かに身体が震えているのを感じる。

「別に何度も倒してきたじゃないか……」

 余裕だった敵が、あまりにも大きく見える。

 じりじりとこちらへと寄ってくるメガオークに、ユーリは恐怖を覚えてしまっている。

 こんな身体では勝てないと、わかってしまっている。

『逃げる』という選択肢が脳裏をよぎる。

 ユーリは歯を食いしばる。

「今、逃げたら……」

 小さく息を吐き、剣を強く握りしめる。

「本当に終わるじゃないか」

 メガオークは、大きな拳を振り上げ――。

「グオオオオッ!」

 ドンッ!!

 地面を抉るような一撃で、土が舞い上がった。

「クッ!!」

 間一髪でユーリは横へ転がることで、なんとかそれを避けた。

 すぐに体を起こし、距離を取ったが、悪手だった。

「グオオオオオオッ!!」

 メガオークは再び唸り声をあげると、ユーリの方へと突進してきた。

「は、速ッ!!」

 その巨体からは想像しえない速度でとつげきするメガオークに、反応しきれなかった。

 ユーリは急いで剣でガードの構えをとろうとするも、間に合わず――。

 (俺……こんなところで終わるのか)

 メガオークがユーリの身体を吹き飛ばそうとする刹那、脳裏には死がよぎる。

(まだ……)

 その勢いと衝撃に、ユーリは思わず目を瞑った――その時だった。

 

 ザン!!

 

 「ガッハッ!!」

 突進するメガオークを的確にとらえるよう、背後から鋭い斬撃が巨躯の背中を貫いた。

「え……?」

 一ぶつかる者だと思っていたメガオークの巨体は、赤い血しぶきをあげて、ドスンと地面に倒れてしまう。

 あまりにも一瞬の出来事に唖然とする。

 (あのメガオークをたった一撃で……誰が)

 「危なかったな……お嬢さん」

 低く落ち着いた声が前方から聞こえる。

 ユーリが顔をあげると、そこに立っていたのは――長いマントを羽織った一人の男。

 男はボサボサとした長髪をかきあげると、持っていた大剣についた血を振り払う。

「怪我はないか?」

「あ、あなたは……?」

 彼の手をとるユーリが首を傾げると、男はフッと笑ってみせる。

「俺か?」

 かっこつけたいのか、少し間をもたせてから、無償髭を撫でる。

「依頼を受けてやってきた――君の英雄・ローヴェルだ!!」

 

 しばらく沈黙が続く。

 決まったとどや顔を晒す男・ローヴェルだったが、ユーリはポカンと口を開けて呆然とする。

 それは、決して自分を『英雄』と名乗る変人が目の前に現れたからではない。

 「ロ……ローヴェル……?」

 ユーリはその名前に聞き覚えがあった。

「おっと、礼はいらねぇぜ。これも仕事なんでな」

 ローヴェルは、わざとらしくかっこつけてみせる。

「あ、あの……!」

 ユーリは思わず、慌声を上げた。

「もしかして、ローヴェルって……あのローヴェルですか?」

「え……?」

 ローヴェルは片眉を上げる。ユーリの目には羨望の眼差しが映る。

「……ほう。俺のこと知ってるのか?」

「もちろんです!!」

 ユーリの表情は一気に明るくなる。

「王国一、いや世界一とも言われる最強の勇者・ローヴェルですよね!!その実力は、一人で魔物の大群を撃退したり、巨大な竜に剣一本で倒すほどで――!」

 「お……おう」

 あまりにも、勢いにローヴェルは少しだけたじろぎばつが悪そうに眼を逸らす。

 しかし、ユーリは止まらない。

「それに……」

 興奮のあまりに、それまでひどく落ち込んでいたことすらわすれるくらいに、夢中になっていた。

 我に返った途端、俯き顔を赤らめる。

「す、すいません」

 心臓が止まらない。

 それは憧れを前に、今の自分を晒してしまったことの恥ずかしさからである一方で、それ以上に――。

 「いやー、こんな可愛い女の子言われると、さすがにむず痒いな……」

 ユーリの表情が一瞬固まる。

「あ……いや」

 とっさに今の自分を隠そうと、手で覆ってしまう。

 「にしても、どうしてこんな森の中に?さっきのメガオークみたいなのが、まだいるかもしれねぇからな」

 ローヴェルは、そんなユーリを気に留める様子もなく、微笑んでみせる。

「近くまで送ってやるよ。君、ルミエールの村の子だろ?」

 

「あ、あの!!」


 それはあまりにも、思わずだった。胸の中で握りしめていたことを、無意識に声を張り上げる。

「ん?」

 それはあまりにも真剣に、純粋に。

 今目の前にいるのは――自分がずっと夢にみた存在。

 ユーリは震える声で言った。


「お、俺本当は『男』で……」


 ローヴェルの目が大きくなる。

 ユーリはまっすぐ彼を見つめた。


「それでも、勇者になれますか?」

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