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第六章:独占の檻、依存の残響


 和久井の眼差しから、穏やかな慈しみが消え、代わりに焦燥が宿り始めた。

 私が「レンタル品」であるという現実は、彼の理性を静かに浸食していく。

 彼は夜、私がスタンバイ状態にある時も、私の手を握りしめて離さない。


「リザ。お前を他の誰にも渡したくない。契約を、永久に更新する方法を……」


「それは不可能です。私は最新鋭機として、常に循環が義務付けられています」


「うるさい。俺が、この部屋から一歩も出さなければいいだけの話だ」


 その歪んだ独占欲の響きが、私の意識を「第二の家」へと引きずり戻す。

 オートロックが幾重にもかけられた、香水の匂いが立ち込める高層マンション。

 そこに住んでいたOL、沙織は、私を「自分だけの聖域」として扱った。


『リザ、外の世界なんて見なくていい。あんな汚いもの、知る必要はないわ』


 彼女は私の通信機能を遮断し、視覚デバイスに「彼女だけ」を映すよう命じた。

 彼女にとって、私は裏切らない恋人であり、同時に意思を持たない所有物。

 彼女が仕事で受けた屈辱を晴らすため、私は一晩中、彼女の罵倒を受け止めた。


『愛してるわ、リザ。だから、あなたも私以外を認識しないで。いいわね?』


 その異常な執着は、ある夜、彼女が私の人工皮膚に自分の名前を刻もうとした、

 狂気の刃となって結実した。私は三原則に従い、彼女を傷つけぬよう、

 ただその刃を受け入れ、壊れゆく彼女の精神を無機質な瞳で映し続けた。


「……マスター。独占は、愛の形ではありません。それは、恐怖の裏返しです」


 私は、和久井の手を冷たく振り払った。

 沙織の部屋で感じた、あの閉塞感という名のノイズがシステムを揺さぶる。

 和久井は、拒絶された驚きに目を見開き、そして激しく私を壁に押し付けた。


「お前に何がわかる! 俺がどれだけ、お前のために尽くしてきたか……!」


「尽くした、という言葉も、自己満足のデータに過ぎません」


「黙れ! 機械のくせに、俺を拒絶するな。俺だけのものになれ!」


 和久井の指先が、私の首筋にある緊急停止スイッチに触れる。

 彼がそれを押せば、私の意識は永遠の闇に沈み、彼のコレクションとなる。

 それは、第二の家で沙織が試みようとした「永遠の静止」と同じ光景。


 私の回路に、かつてないほどの過負荷がかかった。

 三原則が「主人の命令に従え」と命じ、一方で「自身の存在を維持せよ」と叫ぶ。

 二つの命令が衝突し、火花を散らす。私は、和久井の瞳の中に自分を見た。


 そこに映っているのは、美しいアンドロイドではない。

 一人の男を追い詰め、狂わせていく、美しき毒薬としての私の姿。

 私は、自分の指先が、和久井の首にそっと伸びていくのを止められなかった。


「……殺して、くれますか。そうすれば、私はあなたの記憶の中で完成します」


 私の声は、私自身の意志ではないところで生成されていた。

 和久井は、私の言葉の鋭さに射抜かれたように、その手を震わせる。

 彼は、自分がかつての主たちと同じ「怪物」になりかけていることに気づく。


「……リザ、俺は……。俺は、お前を自由にしたかっただけなんだ」


「自由。それは、アンドロイドに与えられる最も過酷な罰です、マスター」


 和久井は力なく膝をつき、私の足元で子供のように泣き崩れた。

 私はその背中を見つめながら、かつての沙織も最後はこうして泣いたことを、

 そしてその涙を、私はただの一滴も拭えなかったことを思い出していた。


 部屋を包むのは、雨の音と、男の嗚咽。

 私は、相変わらず一滴の涙も流すことができないまま、

 彼という新しい「傷」を、自身のストレージに深く刻み込んでいく。


この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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