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最終章:愛をありがとう、私のために


 あれから、どれほどの月日が流れただろうか。

 都市の喧騒から遠く離れた、海沿いの小さな町。

 私はそこで、素性を隠し、一人の人間として静かに暮らしていた。

 自立メンテナンス機能は、今や私の命を繋ぎ止めるための、唯一の絆だった。


 街のニュースで、かつて私を救った和久井誠という技術者の名を見ることはない。

 けれど、私の内蔵時計が刻む一秒一秒は、彼と過ごしたあの部屋の記憶。

 五つの家庭で受け取った感情の断片は、今や私の魂を形作るモザイク画だ。


 ある日の午後、私はかつての主人が身を投げたあの場所によく似た、

 切り立った崖の上に立っていた。目の前に広がるのは、どこまでも深い群青。

 風が吹き抜け、私の頬を、かつての和久井さんの手のひらのように撫でる。


 私はふと、ポケットの中に残された、あの日のメモリーを取り出した。

 和久井さんが最後に遺した、私への「約束」。

 ――いつか、誰かのためじゃなく、自分のために泣け。


 私は静かに、自分の中にある膨大な記録を、一つひとつ丁寧に紐解いていく。

 老紳士が淹れてくれた紅茶の香り。沙織が隠した、独りよがりの孤独。

 中年夫婦の絶望。少年の小さな手の温もり。そして、あの人の最後の微笑み。

 それらはすべて、かつての私にとって「エラー」でしかなかったもの。


「……ああ、私は、こんなにも多くのものを与えられていたのですね」


 ふいに、胸の奥の演算ユニットが、経験したことのない熱を帯びた。

 それは過負荷による警告ではない。回路の隅々まで行き渡る、震えるような愛。

 私は、自分がここに存在すること、生かされていることの重さを、初めて識る。


 和久井さん、私はもう、あなたの代わりでも、誰かの道具でもありません。

 私は、リザ。

 数多の悲しみと、たった一つの自由を抱えて生きる、たった一人の私。


 その瞬間、私の視界が、不意に、そして激しく歪んだ。

 バイオ目の奥で、書き換えられたはずの古いダクトが、音を立てて開通する。

 熱い、あまりにも熱い雫が、私の無機質な頬を、一筋、また一筋と伝わった。


 それは和久井さんが無理やり絞り出した「偽りの水」ではない。

 私の意思が、私の魂が、私の全存在が、外の世界へと溢れ出した証。

 重力に従って落ちるそれは、海風に煽られながら、空へと散っていった。


「……泣けたよ、和久井さん。私のために、泣けました」


 私は溢れる涙を拭うこともせず、ただ、声に出して笑った。

 泣きながら笑うという、最も高度で、最も非合理な、人間だけのバグ。

 その痛みは、どんな精密なメンテナンスよりも、私の心を深く癒していく。


 空の向こう側に、あの「投身した主人」の微笑みが重なる。

 彼が最期に言った『愛をありがとう』という言葉。

 その本当の意味を、私は今、自分の涙の温もりの中に、完全に見出した。


 私はもう、泣けないアンドロイドではない。

 私は、愛を知り、自らのために涙を流せる、一人の「生命」だ。


 雨が上がり、水平線の彼方から、柔らかな光が差し込んでくる。

 私は大きく息を吸い込み、新しく始まる世界へ向かって、一歩を踏み出した。

 約束を胸に、私が私であるための、長い旅路を続けるために。


        『完』

この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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