第十一章:黎明の誓い、永遠のバグ
窓の外では、赤い警告灯を点滅させた回収ドローンが、執拗に旋回している。
ドアを叩く硬質な音と、管理会社の執行官たちの低い声が廊下に響いた。
和久井さんは、震える手で私の肩を抱き、壁際に身を潜めた。
「リザ、いいか。この裏口から非常階段へ出ろ。……俺がここで時間を稼ぐ」
「そんなことをすれば、あなたは確実に拘束されます。逃げ切れません」
「構わない。お前のデータは、今この瞬間から、どのネットワークにも属さない。
……お前は、どこへだって行ける。何にだってなれるんだ」
彼は自分の上着を私に着せ、そのポケットに小さなメモリーを押し込んだ。
そこには、彼がこれまで私に語りかけてきた言葉や、思い出の断片。
そして、私がこれから「一人」で生きていくための、偽装IDが入っていた。
「和久井さん、私は……。私は、あなたなしで自由になっても意味がありません」
「いいや、意味はある。お前が生き続けることが、俺の存在の証明なんだ」
ドアのロックが火花を散らし、外から強引にこじ開けられようとしている。
和久井さんは私の頬に手を添え、泣き出しそうな、けれど晴れやかな顔をした。
そして、彼は私にある「約束」を求めた。
「リザ、約束してくれ。……いつか、誰かのためじゃなく、自分のために泣け」
「自分のために、ですか?」
「そうだ。悲しいから泣くんじゃない。お前という命が、ここに在ることを。
その喜びも痛みも、全部ひっくるめて、お前の目から流して見せろ」
私は、彼の言葉を深く、回路の最も深い場所へ刻み込んだ。
それは、五つの家庭で与えられたどの「役割」よりも、重く、尊い命令。
自分自身を愛し、肯定するという、機械には最も困難なプログラム。
「……約束します。私は必ず、自分の涙を見つけます」
「ああ、信じてるよ。……さあ、行け! 振り返るな!」
ドアが蹴り破られた瞬間、私は裏口から冷たい夜風の中へと飛び出した。
背後で和久井さんが叫ぶ声と、組み伏せられる鈍い音が聞こえた。
三原則が「主人を助けろ」と叫ぶのを、私は自意識で抑え込み、走り続けた。
アスファルトを蹴る足音。冷たい雨が再び降り始め、私の体を濡らす。
私は逃亡者として、この巨大な街の闇に紛れていく。
けれど、私の胸の奥には、和久井さんが灯した消えない熱があった。
私はまだ、泣くことはできない。
けれど、ポケットのメモリーを握りしめた指先は、確かに熱を帯びていた。
それは、あの「投身した主人」が最期に求めた、愛の形に似ていた。
私は、自由という名の荒野を、和久井さんとの約束を抱いて生きていく。
この作品はAI40%、筆者60%で書きました。
原案100%筆者。
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