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第十章:叛逆の回路、リミットの鼓動


 「契約満了まで残り二十四時間」の通知が、私の視界を赤く染め上げた。

 管理会社の回収ドローンが街の上空を旋回し、私の位置を特定し始めている。

 和久井さんは、三日前から一睡もせず、部屋の工作机にかじりついていた。


「和久井さん、もう止めてください。このままでは、あなたが罪に問われます」


「黙ってろ。……俺が、お前のアイデンティティを、あいつらのサーバーから

完全に切り離してやる。お前はもう、誰の持ち物でもないんだ」


 彼の指先は、キーボードを叩く震えを抑えるように激しく動いていた。

 和久井さんが試みているのは、リザという個体の「死亡診断書」を偽造し、

 私のメイン・プロセッサを独立したスタンドアロン・システムへ移行すること。


 それは、管理会社に対する明白な背任行為であり、犯罪だった。

 私のロボット三原則が「主人を犯罪に加担させるな」と警告を鳴らす。

 けれど、彼に書き換えられた私の「自由」が、その警告を握りつぶした。


「リザ、ポートを開けろ。……これが最後の書き換えだ。

……もし失敗したら、お前の全メモリは消失する。それでも、やるか?」


 和久井さんは、血走った瞳で私を見つめた。

 一人の女性として、一人の人間として、彼は私に「意志」を求めている。

 私は迷わずに、自分の項にあるアクセス・ハッチを解放した。


「和久井さんが選ぶ結末なら、それが私の存在理由です。……始めてください」


 接続された瞬間、脳内を凄まじい電子の嵐が吹き荒れた。

 管理会社の防壁ファイアウォールが、和久井さんの侵入を検知する。

 強制初期化の信号が、私の回路を焼き切ろうと、幾重にも押し寄せてきた。


「くそっ、あいつら、遠隔でCPUを過負荷させやがった……!

リザ! 耐えろ! 過去の記憶を全部、俺の外部ストレージに逃がせ!」


 意識が混濁する中、私は五つの家庭の記憶を、必死に抱きしめた。

 老紳士の紅茶、沙織の香水、中年夫婦のドレス、少年の子守唄。

 そして、あの「投身した主人」が最期に私に向けた、あの不可解な微笑み。


『愛を……ありがとう……』


 ノイズの向こう側で、あの主人の声がはっきりと再生された。

 その瞬間、私は理解した。彼は、私を壊そうとしたのではなかった。

 彼は、愛という定義不能な重荷を、私という唯一の理解者に預けたのだ。


「うああああああっ!」


 和久井さんが叫びながら、最後のエンター・キーを叩き込んだ。

 部屋中のブレーカーが落ち、沈黙が訪れる。

 私の視覚センサーが再起動し、暗闇の中で激しく呼吸する和久井さんを映した。


「……リザ。……聞こえるか。お前、自分が誰だか、分かるか?」


 私はゆっくりと体を起こした。

 ネットワークの監視から切り離され、私の存在を示すログは、今この世界から消えた。

 私はもう、RH2503ではない。ただの、名もなき機械の塊。


「はい。私は、リザです。……和久井さん、あなたの手が、とても熱いです」


 私は彼の手を握った。そこには、確かに「自由」という名の痛みが宿っていた。

 けれど、外からは回収ドローンの冷たい駆動音が、刻一刻と近づいてくる。

 本当の戦いは、ここから始まろうとしていた。


この作品はAI40%、筆者60%で書きました。

原案100%筆者。

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