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第6章

巌川摩陀 (いしかわ まえだ)

 あの薄汚い男がリンダちゃんの尻を揉んでいるのを眺めながら、俺はどうしてやろうかと退屈まじりに考えていた。感情は動かない。ただ、隣にいた男に尋ねた。

「あの女の背中より下に手を回してるのは、どういうつもりだ?」

 酒を飲むのに忙しかった男は、目を丸くして眉を上げ、俺の視線の先を振り返った。「なんてことだ……。申し訳ありません、サー。あれは日本語が話せる同僚で、通訳を務めている者です。そして、あちらは彼女の彼氏でして」彼は頭を下げた。「少々失礼します」

 彼はリンダちゃんの方へ駆け寄り、代わりにダンスを申し込んだ。

 リンダちゃんはその男の首に腕を回し、まるでつまらない女子高生のようにクスクスと笑い、媚びたような「可愛い」声で何かをねだった。

 ……殺し屋でも雇って、汚れ仕事を片付けさせるべきか。

 俺はグラスを煽り、立ち上がってビジネスパートナーとの取引に向かった。通訳としてリンダちゃんが来て座った時、俺はいくつか質問をしなければならなかった。

 予想通り、彼女は冷静さを保ち、俺が既に理解している内容を通訳してみせた。

 会話が終わると、俺は先ほど彼女と踊っていた男を呼び出した。

「ハイ、サー。私をお探しでしたか?」

「あの通訳と、どういう関係だ?」俺は尋ねた。

 男は廊下の近くに立ち、両手をポケットに入れたまま肩をすくめた。「サー、彼女はいつもあんな感じなんです。人に心を許すとスキンシップが多くなるというか、まあ、色気を使うのが好きなんですよ」

「彼女と付き合っているのか? 俺のビジネスの場に利益相反コンフリクトを持ち込まれるのは困るんだが」

 男は慌てて手を振った。「まさか、サー。私には国で待つ妻と子供がいます。リンダのことは妹のように思っていますから」

 あれ……妹? どういう種類の?

「彼女、本当に若くて向こう見ずだから」と男は付け加えた。

 俺はグラスを傾け、ブランデーの輝きを観察した。「ほう? 幾つに見える?」

「25歳です、サー」

 俺は微笑んだ。「そうか。ありがとう。下がっていいよ」

 ……そう遠くへは行かせないがな。


 リンダちゃんの指が無頓着に俺の髪を梳いた瞬間、頭皮を掠めるその感触に、波のような刺激が走ったのを思い出す。

「最初に触った時のこの柔らかい髪、覚えてるわ……」

 気だるげなベッドルーム・ボイスで囁かれたその声に、全身の神経が稲妻に打たれたようだった。

「摩陀……時々思うんだけど、診断受けた方がいいわよ」彼女は丸みを帯びた声で、ゆっくりとしたリズムで言った。「精神科医に診てもらったことある?」

 彼女が何を言ったかは耳に入らなかった。俺に見えていたのは、退屈を持て余し、自分が何を求めているかを正確に理解している女の余裕だけだ。

 身体の震えが高まり、粟立つ肌の下を奔流のような衝動が脈打つ。

 彼女の手が俺のほつれ毛を直そうとする。それはまるで、彼女が映画祭の話を始めたあの瞬間の記憶にまとわりつくようだった。

 触れられた経験がないわけじゃない。だが、彼女の興味なさげな瞳が俺の顔をなぞるたび、俺はもっと見られたいと渇望してしまう。

 すべての神経が、注意を引きたがって悲鳴を上げている。

 彼女の瞳には今、退屈しか映っていない。やがて彼女は興味を失ったように腕を解いた。「じゃあ、時間切れ。常連の中国人のお客さんに会わなきゃいけないの」

 その瞬間が、フラッシュバックのように蘇る。

 彼女があんな中国人の客と戯れるなんて、許せるはずがない。

 ふざけるな、リンダちゃん。お前は俺のものだ。

 彼女が立ち去る前に、できる限りのことはした。本当ならキスマークの一つでも残してやりたかったが、背中が大きく開き、細いストラップがついただけのグリーンのイブニングドレスでは、彼女の肌は無防備に晒されている。

 首筋も、肩も、胸の谷間も、すべて。なんのために? あの中国人の目を楽しませるためか?

 口先だけの空虚な約束をばら撒き、男の首に腕を回し、まるで目の前の男が最高の景色だと言わんばかりに物憂げに微笑んで、彼らの機嫌を取るためか?


 俺は口元を手で強く覆い、笑いを堪えた。

 まさか。天地がひっくり返っても、そんなことはさせないよ、リンダちゃん。

 それは俺が手に入れるべきものだ。お前は俺が所有すべきものだ。わかったね?


 だが数ヶ月後、情報屋が彼女を見失った。後に聞いたところでは、土壇場でバリへの異動を変更したらしい。

 リンダちゃんはバリには到着しなかった。

 情報屋は、彼女の居場所を突き止めるには数週間、あるいは数ヶ月かかると言った。

 んー……。

 まあいい。隠し立てできないものを用意すればいいだけだ。


 だが、それは後の楽しみだ。今は仕事に戻らなければならない。

 俺は事務所を通じて架空の結婚を発表した。相手を聞かれた時には、「一般人の方です」と答えた。

 そして、「禁断の果実」をテーマにした写真集の撮影を行った。発売された時の興奮を抑えきれず、俺は笑みをこぼした。

 これで、奥様方が押し寄せてくる。

 俺の読みは正しかった。退屈し、夫から無視されている重役の妻たちは、不倫を正当化するための確信を得てやって来た。彼女たちの言い分によれば、「お互いに不幸な結婚生活を送っているのだから、フェアでしょう?」ということらしい。俺が語り続ける架空の妻なんて、どこにも見えないというのに。

 写真集のエッセイには、架空の妻とはバンコクで出会い、水上マーケットでデートしたと書いた。俺はクスクスと笑った。嘘八百だ。

 しかし、重役の妻たちは、俺を再びその腕に抱くためなら、どんな正当化であっても自分を慰めたいのだ。

 そうして無視された妻たちが俺のもとへ通い、情事は半年ごとに更新された。

「禁断の果実」作戦は順調な滑り出しを見せた。二つの情事に至っては、4ヶ月が過ぎた頃には時間の感覚さえ忘れていた。


 それでも、情報屋は隠れている「子ネズミ」を見つけられずにいた。

 俺は当初の計画通りに事を進めた。そしてついに、彼女が現れた。

 俺のマンションのドアを激しく叩き、喉が張り裂けんばかりの大声で叫びながら。

「誰があんたと結婚したって言うのよ!? 市役所が法的証明を出せるとでも!? イカれてるわ、摩陀! あんたの頭は腐ってる! 今すぐ精神病院に入院しなさいよ!――」

「リンダちゃん」

 俺は彼女を部屋の中に引きずり込み、挨拶を返した。

「おかえり」

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