第4章
巌川摩陀 (いしかわ まえだ)
日本に戻ったのは、それから3週間後だった。
相変わらずの日常だ。散々楽しんでおきながら、最後に俺の唇を噛み切ったあの女とは、あれ以来連絡を取っていない。
もっとも、気にしていないわけではない。情報屋の報告によれば、彼女はバンコク周辺で働いているらしい。あの男とはまだ続いていて、バリへの異動を画策中だとか。
勝手にすればいい。
……今のところはな。
スケジュールを確認する。俺の個人的なアシスタントが、芸能活動以外の予定を読み上げていく。そしてまた、あの重役連中との会合だ。
「タキくんはこの事務所でも一番の古株になったな。ご苦労」
料亭の個室で、彼らは勤続10年の祝い酒を俺に勧めてきた。
そこには、いつのことだったか忘れかけたスキャンダルの種を撒いた、あの「夫人」も同席している。
俺は畳の上で正座をし、浅礼をした。「長きにわたり、お世話になっております」
……若く無知だった俺から、骨の髄まで金を搾り取っておきながら。
彼らはその後、10代の新人女優の発掘だの、次の稼ぎ頭になるホストの品定めだのを話題にした。
旬を過ぎたベテランホストをB級映画に回すか、あるいは昼の帯番組に新人をねじ込んで利益を生むか。その程度の話だ。
その後、俺は新作の宣伝用写真の撮影に向かった。撮影は長引いた。
セットにいる間、俺はスタイリストの早苗さんに、あの時の非礼を詫びるような笑みを向けた。早苗さんはプロに徹し、冷静だった。
それでいい。俺は早苗さんが好きだ。彼女は打たれ強いから。そこには、この有能なスタイリストへの敬意以外の不純な動機はない。
ただ最近、俺は人生があまりに退屈すぎて、時折、クラブの共同経営者に軽口を叩いてしまうことがある。
「この退屈を紛らわす、いい案はない?」
俺は引き出しから出したラム酒をテイスティングしながら、端田さんに尋ねた。予想通り、軽い味だ。
「結婚でもしたらどうだ」と彼は言った。
俺はその提案に笑った。「メリットは?」
端田さんは肩をすくめた。「社会的な信用が得られる。ファンも、お前の人生に一区切りついたと諦めがつくだろうしな」
「あるいは、『禁断の果実』として売り出すか」俺の口元にゆっくりと笑みが広がる。「それもいいな。金を持て余した人妻たちが、不倫という名の火遊びを求めてドアを叩くだろう。『既婚者』となれば対等な立場になったと勘違いしてな」
端田さんはそれには答えず、こう言った。「あるいは、本当の意味で支えになる相手を見つけるとか?」
脳裏に、故郷である兵庫の風景がフラッシュバックした。
時間はゆっくりと流れ、風に揺れる草原の中、俺は自転車で丘を駆け抜けていた。
両親がいて、友達がいて、先生がいた。だが、あのスキャンダルが起きた後、彼らが俺に向ける眼差しはすべて「哀れみ」に変わった。
哀れみなど、欲しくなかった。
「支えなんて、探すのは簡単だよ」俺は答えた。「無尽蔵の金さえあれば、喜んで身を投げ出してくる連中には事欠かない」
例えば――俺たちが商談で忙しい最中に、品性のかけらもなく部屋に怒鳴り込んできた、あのリンダちゃんという女のように。
あの友達と一緒に。
そう考えると、いくつか面白いアイデアが浮かんでくる。
俺はテーブルをコツコツと叩いた。「いいことを思いついた。俺が結婚したという情報を流すんだ。『禁断の果実』を演じて、さらなる投資を呼び込む」
端田さんはグラスを拭く手を止め、俺を見つめた。「まだそんなサイクルを続ける気か?」
「端田さん、金だよ! 富だ! なぜ興奮しない?」
「どこから? お前にはもう十分すぎるほどあるだろう」
俺は彼を見つめ、少しだけ首をかしげた。「……じゃあ、長いバカンスなんてどう?」
その言葉は、彼を安心させたようだった。「それなら現実的だな」
俺は頷き、フライトの準備を始めた。




