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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第二話「冷酷な殺人狼」
8/12

若者の苦悩

 被害者、高山大周の部屋を訪れた。

 明日香の妹、今日香は女子大生とあって、男子寮に入ることができない。門前で別れた。

「お姉ちゃんをよろしくお願いします」と丁寧にお辞儀しながら言った。

「はい。よろしくお願いされます」

「ふふ。面白い人」と今日香は言うと、俺の耳元に顔を近づけて、「お姉ちゃんの秘密を教えてあげます」と言って、早口で明日香の秘密を教えてくれた。

「何をやっているのよ!」と明日香の怒声が飛ぶと、「おお~怖い。じゃあね。お姉ちゃん」と今日香は走り去った。

「いや~良い子だね~」と俺が言うと、「変な目で見やがったら、撃ち殺してやるからな」と明日香が言う。

 怖い、怖い。こいつなら本当にやりそうだ。

 管理人によると、二人部屋で、忽滑谷(ぬかりや)弘文(ひろふみ)という若者と同室だと言う。忽滑谷は講義に出ていて、不在だった。

 部屋は半分、綺麗に片付いていた。一人は几帳面な性格のようだ。高山はテニス・サークルに所属していて、活動的な若者だったらしい。雑然としている側が高山の生活空間で、整っている側が忽滑谷の生活空間のようだ。

「どう?」と明日香が聞く。

「WCPの仕業だな」

「分かるの?」

「昨日は満月だった。狼男の臭いがぷんぷんしている」

「鼻が利くのね。犬みたい」

「狼だ」

「そうだった。失礼。被害者がWCPでなかったのなら、別にWCPがいるってことね」

「大学にWCPが一人、いるようだ。先ずは、彼を当たってみよう」

 警視庁のデータベースによればWCPとして登録された学生がいた。小野蒼汰(おのそうた)、二回生。一般市民の安全を守る為――という名目で、WCPの個人情報はかなり細かくデータベースに登録されている。人権を蹂躙していると言える。だが、それがまかり通っているのだ。

 小野の居場所は直ぐに知れた。大学で講義を受けていた。

 講義が終わるのを待って、小野から事情聴取を行った。

「あの事件ですね」と直ぐに事情を察した様子だった。

 流石に大学生だ。察しが良い。WCPはどちらかと言えば運動能力に優れているが、知能は高くない傾向にある。

「昨晩、どちらにいらっしゃいましたか?」という質問には、「僕は実家から大学に通っています。昨晩は満月でしたので、家にいました。家から一歩も出ていません」と答えた。

「それを証明できる方はいますか?」

「家族だけです」

 まあ、そうだろう。

「家から出ていないのですね」

「薬を飲んで大人しくしていました。満月の夜の苦しさは、理解できないでしょうね。体が反応するのを薬で無理に抑え込んでいるのです。気分が悪くて、外に出かける気になんてなれませんでした」

 確かに、薬の副作用はきつい。

「亡くなった高山さんをご存じですか?」

「三回生ですよね。一つ上ですし、知りません」

「寮生に知り合いはいますか?」と聞くと、「友だちはいません」と小野が答えた。

「友だちがいない?」

「僕と友だちになろうなんて人間、いませんよ。僕の苦悩なんて、あなたたちには分からないと思いますけど――」とすねたように言う。

「それが分かるんだよね」

「えっ⁉」

「俺もWCPだから」

「あなたもWCP? WCPでも刑事になることができるのですか?」

「そうだ。君は頭が良い。まだ若い。これから、何にだってなれるさ」

「・・・」小野が嬉しそうな顔をした。

 小野からの事情聴取を終えた。

 明日香が俺の顔をしげしげと見つめ、「あなた――」と何事か言いかけた。

「止せ! 同情なんていらないぞ。そんな暇があったら、捜査だ」

「そうね」

「そろそろクラブ活動の時間だ。テニス・サークルに行ってみよう」

「自殺だとしたら、その原因が掴めるかもね」

 学生に聞きながらテニス・サークルの部室を尋ねた。

 先ずは部長から話を聞いた。

「明るく、面白いやつでしたよ。残念です」と言う。

「何かに悩んでいた風ではありませんでしたか?」

「悩みですか・・・まあ、端で見ていただけでは分からないものですが、それでも寮の窓から飛び降りるような悩みは無かったと思います」

「クラブ活動はどうです? 熱心でしたか?」

「彼、高校時代からちょっとした有名選手でした。熱心でしたよ。個人戦でも団体戦でも、頼りになる選手でした」

「人間関係はどうです?」

「人間関係ですか・・・そうだなあ~それは僕よりも麻友ちゃんに聞いた方が良いかもしれませんね」

「麻友ちゃん?」

 杉原(すぎはら)麻友(まゆ)、一回生。テニス・サークルに所属しており、亡くなった高山の恋人だと言う。

「昨日、一緒にいたみたいです。大学に来て、高山の死を知ったようで、彼女、ショックを受けてしまって、広瀬の部屋で休んでいます」

 広瀬理沙(ひろせりさ)は、テニス・サークルの副部長、大学に近くに下宿しており、高山の死を知って倒れた杉原を下宿に連れ帰って、付き添っているということだった。

 住所を教えてもらい、広瀬の下宿を尋ねた。

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