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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第三話「暴走狼」
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狼男制圧作戦

 明日香には自宅で待機しておくように、くどいほど言っておいた。

 事件から一カ月、満月の夜を迎えていた。

 容疑者は絞り込めたが決定打が足りずに、犯人確保には至っていなかった。武藤班長と相談の上、容疑者を一人に絞り、徹夜で監視することにした。

 WCPの認定を受けていない以上、薬を手に入れることが出来ない。今夜も狼男に変身してしまうだろう。狼男に変身してしまうと、彼の意思とは関係なく、町に出て暴れ出してしまうかもしれない。

 とにかく、彼が行動を起こす前に押さえ込まなければならない。それが出来るのは、俺と班長だけだ。

「誰に絞る」

「柴輝臣です」と俺は即答した。

 事件があったコンビニ横の道路を辿って行くと、彼が住んでいるアパートへ行き着く。彼のアパートとコンビニ、食堂の位置関係が変形した三角形になっているのだ。

 食堂の主は、当日、店に来ていたと主張するが、お気に入りの席が塞がっていると、食事をせずに帰ってしまうことがあった。


――柴はあの日、食堂に立ち寄った。だが、何時もの席が塞がっていた。そこで、食堂で食事をするのをあきらめて、コンビニに向かった。コンビニでおにぎりを買って食べようと思ったのだ。そして、コンビニで買い物を済ませ、アパートへ戻る途中、狼男に変身してしまった。


 俺はそう考えた。

 事件当夜のコンビニの防犯カメラの映像を確認してみた。案の定、そこにはコンビニで買い物をする柴の姿が映っていた。やはり食堂にいなかったのだ。

 狙いを柴に定めた。

「お前の勘を信じる」と班長が言ってくれる。

 勘の良さもWCPの特徴なのかもしれない。事件を未然に防ぐ為に、「満月の夜に、柴のアパートを張り込ませてもらいたい」と俺は班長に願い出た。

「いいのか?」と班長は聞く。

 満月の夜に出歩くと言うことは、狼男になった姿を人目に晒すということだ。その姿を仲間たちに見られてしまう。俺は覚醒者だ。我を失うことはない。それだけに、仲間たちから奇異の目で見られてしまうことに、耐えられないかもしれない。

 特に明日香には・・・

「構いません」と俺は答えた。

「当日は専用車両を用意しておくので、そこで待機しておいてくれ。やつが暴れ出したら、直ぐに制圧するんだ。いいな。バックアップの為の警察官を配備しておくし、当日は俺も待機しておく」

「分かりました」

「多門君だけは、現場に来させるなよ」

「分かっています。あいつがしゃしゃり出て来ると、面倒なことになりますから」

 明日香には狼男になった姿を見られたくない。

「よし。それで行こう」

 こうして、満月の夜の狼男制圧作戦が始まった。

「何故、私が自宅待機なのよ!」

 案の定、作戦を聞いた明日香が不満を漏らした。

「お前は直ぐに暴走するからな。相手は熊みたいなものだ。いくらお前でも熊と戦っては勝てないぞ。相手は自我を無くしている。容赦なんかしてくれない」

「戦うのはリョーキでいいから、私も作戦に参加させてよ」

「ダメだ。ダメだ。これは班長の決定だ」

「武藤班長が・・・」

「そうだ。あきらめろ」

「そうか・・・そうねえ・・・」

 不承不承といった感じだが、何とか明日香を納得させた。

 そして、満月の夜がやって来た。

 俺は今、柴のアパートの前で張り込んでいる。宅急便の貨物車を改造した車だ。密閉された荷台で俺は待機していた。

 満月の夜に狼男に変身する時間には個人差がある。天候によっても左右されるし、周囲の環境によっても変わる。

 日が暮れ、月光が強さを増すと、狼男へと変身してしまうのだ。

 俺の姿は既に狼に変わっていた。

 日頃は薬を飲んで押さえつけているので、狼男に変身すると、開放感を感じた。全身に力が漲り、気力が充実して来るような感覚になる。そう。麻薬をやってハイになっている状態なのだ。

 柴の部屋の様子は外部からモニター越しに観察していた。

 WDDだとすると、人より成長が遅いのだ。変身も人より遅い可能性が高かった。俺は狼男の姿のまま、やつが暴れ出すのをじっと待っていた。

 突然、ガシャンと柴の部屋の窓ガラスが割れた。


――来た!


 俺は車から飛び出した。

 ほぼ同時に空から狼男が降って来た。


――勘が当たった。柴はWDDだった。


 狼男へと変身した柴は部屋の窓ガラスを割って、外に飛び出して来た。狼男へと変身し、着ていたシャツがはちきれそうだった。

 地上へ降り立った柴に俺は組み付いた。

「うがっ!」と柴が悲鳴を上げる。

 稀に例外はあるが、基本的に人間の時の個体差が狼男になっても反映される。同じ狼男であっても、日頃、格闘訓練を怠らない俺の敵ではない。

 俺は柴を地面へ叩きつけた。

「あがっ!」

 柴はゴロゴロと地面を転がり、そのまま起き上がると、逃げ出そうとした。逃げても無駄だ。直ぐに追いつく――そう思った次の瞬間、俺は青ざめた。

 柴の逃げる方向に人影がいたのだ。

 住人やバックアップの警官たちは遠ざけてあったはずだ。誰だ? 明日香だ。明日香がそこにいた。自宅待機を伝えてあったのに、それを聞かずに現場にやって来たのだ。

 無謀にも柴の前に立ち塞がって、やつを制圧しようとしていた。

「うがあああ~!」

 逃げろ! と叫びたかったが、狼男になってしまうと、上手くしゃべることができない。柴は明日香へと突進して行った。

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