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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第三話「暴走狼」
17/20

避難場所

 事件当夜、何をしていたのか尋ねた。

「アリバイってやつですよね? ぼ、僕、何かの事件の犯人じゃないかって疑われているんですね。ええっと・・・その夜は・・・」

 考え込むが出て来ない。よほどのことが無い限り、覚えているのは昨日、一昨日くらいまでだろう。

「陸上部の練習が終わって、それから・・・友人と一緒に飯を食って・・・ああ、そうだ。彼の家に行って、ゲームをやっていました。なんか、毎日、そんな感じなので、違っているかもしれませんけど」

 学生なんて、そんなものだろう。友人の名前と連絡先を聞いておいた。

「陸上を続けているんだね?」

「はい。高校から始めて、大学生になったら、もうやらないつもりだったのですが、友だちに誘われて入部してしまいました。大学で友だちをつくるなら、クラブ活動が一番ですからね。友だちと疎遠になるのが嫌で続けています」

 高校では、ちょっとした選手だったが、大学では成績が伸び悩んでしまっているらしい。

「中学生の時、よく校舎の屋上に行っていましたね?」

「屋上ですか? ええ、まあ。中学生の時は、身長が伸びる前で、クラスでも背が低いほうでしたから、よく虐められました」

「それで屋上にいた」

「はい。うちの学校、屋上が僕みたいな生徒の避難場所になっていたみたいです。先生から、いいか。何があっても飛び降りたりするなよって、言われたことがあります」

「ほう~その先生は?」

「村田先生です。僕の担任でした。たまに屋上を見回ったりしていました」

 大竹からの事情聴取を終えた。

「違うみたいね」と明日香。

「本当に何も知らない様子だったな。あれが演技だったとは思いたくない」

「村田先生を当たってみましょう。学校を訪ねた時に、話を聞いた記憶がないから、転任してしまったのでしょう」

「そうだな」

 大竹の担任だった村田智也(むらたともや)という教師の転任先を調べた。幸い、大学から遠くない中学校に転任していた。平日の日中だ。学校にいるだろう。

 村田を尋ねると、授業中だということで、校長室で待たされた。

 やがて、痩せて背が高く、メガネをかけた中年の男性が現れた。太い眉毛が特徴的だが、全体的に印象の薄い顔だ。

「村田です」と男が名乗った。

 今年の春から今の中学で教鞭を取っているらしい。

「前の中学で教鞭を取っていらっしゃった際、校舎の屋上を見回りしていたとお聞きしました」

「見回りなんて大袈裟な。時間が空いた時に様子を見に行っていただけです」

 村田が言うには、校舎が全面改装され、屋上に高い金網の柵が出来、生徒たちに開放され憩いの場となった。村田も天気が良い日には、昼休みに太陽を浴びに屋上に行くことがあった。

「それが、ある日、授業が無かったので、一息入れに屋上に行ってみたのです。そしたら――」

 驚いたことに金網に上っている生徒がいたと言うのだ。

「止めろ! そんなことして何になる。君はまだ若いんだ。これから素晴らしい未来が開けていると必死に止めました。生徒が金網から降りて来てくれた時には、ほっとしました。後で生徒に聞いたら、飛び降りる気なんてなかった。ただ、金網に上ってみたかっただけだと言っていましたが、どうでしょう。私には生徒が飛び降りようとしていたように見えました」

 それから、ちょくちょく屋上を見回るようになったと言うことだった。

「私自信、虐められたというほどではありませんが、中学生の時、父親が学校で教師をやっていましたので、私に知られると父親にチクられると噂になって、友だちがいませんでした。屋上ではありませんが、校庭の隅にあったうさぎ小屋の前にいつも座っていましたから、屋上に逃げて来る生徒たちの気持ちが分かるような気がします」と言う。

「そうですか」

「結構、いたんですよ。仲間外れになって、屋上を避難場所にしていた生徒が。毎年、一人くらい、いましたね。大竹君もその一人です。彼が高校生になって陸上の選手として有名になったと聞いた時は嬉しかったですね。男の子なんて、あっという間に成長しますからね。高校生になって背が伸びる子なんて、いくらでもいます。そうですか。招知大学に通っているのですか。それは良かった」

 村田はそう言って笑った。

「なるほど。で、先ほどおっしゃられた屋上から自殺をしようとしていた生徒の名前を教えてもらえませんか?」

「そうですねぇ・・・彼、大学を出て社会人になったと聞きましたので、名前を言っても構わないかもしれませんね」と前置きしてから、「柴君と言います。柴輝臣君」と答えた。

 柴輝臣。明日香が怪しいと言っていた人物だ。アリバイがあると言うことで、一旦、容疑者から外していた。

 他にも何人か屋上を逃げ場にした生徒がいたそうだが、「まだ高校生ですからね」と名前を教えてくれなかった。

 村田に礼を言って、学校を後にした。

「柴の名前が出るのも二度目だな」

「そうね。もう一度、調べてみましょうか」

「先ずはアリバイだ。食堂の主がアリバイを偽証するとは思えないが、アリバイを確かめることにしよう」

 捜査は振りだしに戻ってしまった。

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