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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第三話「暴走狼」
15/20

WDD

 中学校の卒業生、特に弘中が卒業し、校舎の改装が終わってから卒業した人間の中にWCPがいると俺は予想した。

「データベースに載っていないんでしょう? 中学校の卒業生と言っても数が多過ぎる。とても調べ切れない」と明日香。

「状況から見て、町中で変身したようだ。と言うことは、恐らく犯人は自分がWCPであることを知らなかった。知っていたら、満月の夜に薬を飲まずに出歩けば、どうなるか分かっていたはずだ。普通、十六歳から十八歳くらいの、少年から青年へと成長する時期に、遺伝子疾患が発現するのだが、ごくたまに成人してから遺伝子疾患が発現するものがいる。WDD(Werewolves Developmental Disorder)と呼ばれている。まあ、狼男の発達障害みたいなものだ。突然、狼男の変身が始まったとすると、このWDDだろう」

「へえ~」

「体の発育が人より遅い場合に、WDDとなるケースが多い。だから、血液検査をパスした可能性がある。だが、それでも大抵の場合、二十歳になれば、遺伝子疾患が発現する。だから、卒業生の中で、先ずは二十歳までの人間を探せば良い」

 五年分の卒業生が対象だ。

「大分、搾れそう。その中で、体の発育が遅かった人間を探せば良い訳だ」

「そうだ。それに女性は除外することができる」

 遺伝子疾患があっても狼男に変身するのは男だけと考えて良い。

「半分になる。都内在住でないものも除外できそうね」

「そして、屋上だ。やつは屋上に思い入れがある。そういう人間が犯人だ」

 それでも対象者は百名を超えるだろう。

「分かった」

「手分けして当たろう」

 捜査方針が決まったところで、武藤班長に呼ばれた。

「静岡県警から報告が届いている」と言う。

「静岡県警から?」

「例の中学校の卒業生の中に二人、WCPがいたが、内一名は都内を離れていただろう。現住所が静岡になっていたので、問い合わせてみた」

「ああ~助かります。で、どうでした?」

 流石は武藤班長だ。捜査に抜けがないか、きちんとチェックしている。

「事件の夜、浜松にいたことで確認取れた」

「容疑者から除外して良さそうですね」

「ああ。犯人は恐らくWDDだろう。その線で捜査を進めてくれ」

「分かりました」

 順調だったのも、ここまでだった。

 対象者が搾れたとは言え、百名を超える人数だ。その一人一人を調べなくてはならない。見かけからWCPであることを見抜くことなど出来なかった。事件当夜にアリバイの無い人物をピックアップし、真犯人をあぶり出す――という地道な捜査を続けるしかなかった。

「もう少し簡単に犯人にたどり着けると思っていた」と明日香は言う。

 事件当夜、アリバイが無い人間が多過ぎた。

「世の中、寂しい人間がくさるほどいるってことだろう」

「そうだな」

「まあ、俺もその一人だ」と自嘲気味に言うと、「私がいるじゃない」と言われた。

「お前が?」

「班長だっている」

「そりゃあ、そうだが、四六時中、一緒にいる訳じゃない」

「当たり前だ。私と四六時中、一緒にいたいのか?」

「馬鹿なことを言うな」

「家族だって四六時中、一緒にいる訳じゃない。要は絆よ」

「絆?」

「そうよ。絆を感じて生きていれば良い。リョーキ、あんた、私に感謝しなさい」

 その通りだ。俺は明日香に感謝しなければならないのかもしれない。

「だから、呼び捨てにするな」

「じゃあ、変態臭いフェチって呼ぶぞ」

「止めろ! そんなことより、怪しいやつは見つかったのか?」

「ああ。見つけた」

「誰だ?」

「そうだな~何人かいたんだけど、一番、怪しいのは、こいつかな」と明日香が手元のファイルから一人の男のファイルを引っ張り出して、見せてくれた。

 柴輝臣(しばてるおみ)という男だった。ぼざぼざの髪に小さな眼、薄い唇、人相に目立った特徴はない。中学・高校と目立たない生徒だったようで、本人は言わないが、中学時代は虐めに遭っていた形跡がある。発育不良と言え、未だに小柄で痩せているようだ。

「条件的にはぴったりだが、何故、この男が怪しいと思うんだ?」

「彼、中学校の時に虐められていたようなの。それで、休み時間になると屋上に上がって、一人で過ごしていたらしい。何人か、そう証言した同級生がいた」

「益々、ぴったりじゃないか。そいつで決まりだよ」

「それが・・・」と明日香が当惑する。

「何かあるのか?」

「事件当夜にアリバイがあるのよ」

「アリバイがある⁉」

「そうなの」明日香が説明することによると、柴は事件当夜、行きつけの大衆食堂で夕食を取っていたと言うのだ。

「ほとんど毎日、その食堂に夕食を食べに来るそうで、事件があった日も食堂にいたと御主人が証言しているのです」

「アリバイがあるとなると、容疑者から外さざるを得ないな。他にいないのか?」

「彼が第一容疑者だったんだけどね。他にもいるけど、あんたの方はどうなの?」

「ああ、二、三、疑わしいやつがいるが、大竹瑠偉(おおたけるい)っていうやつが、一番、怪しいかな。中学生の時は、大人しくて目立たない生徒だった。同級生から虐めを受けていた疑いがある。やはり逃げ場所として屋上に通っていたようだ。柴という生徒とそっくりな境遇だ」

「悲しいかな、全国に似たような境遇の子がごまんといるんでしょうね」と明日香が嘆いた。

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