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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第二話「冷酷な殺人狼」
11/12

狼の巣

 結局、事件の夜、忽滑谷は何処にいたのか、黙秘して語らなかった。

「あいつが犯人ね」と明日香。

「間違いないだろう。あの夜、やつは狼男に変身してしまった。高山は彼女のもとに入り浸っていたので、戻って来ないと高をくくっていたのだろう」

「だが、戻って来た」

「彼女と喧嘩をして寮に戻って来た。そこに、狼男になった忽滑谷がいた。やつが言っていた。窓から放り投げたと。あれは、自白だ。証拠がないと安心しているのだ」

 狼男の力を以てすれば、窓から遠い位置まで人間を投げ飛ばすことなど訳がない。

 高山大周の死が自殺ではなく、殺人だということを証明する為には、忽滑谷がWCPであることを証明しなければならない。だが、忽滑谷は血液検査でWCPだと認められていない。

「血液検査をパスすることって、可能なの?」と明日香が聞く。

「血液検査なんて、毎年、やっている訳じゃない。個体差はあるが、狼男への変身が始まる十六歳前後に一度、受けるだけだ。その際に、遺伝子異常が見つからないケースだってあるのだ」

「やつにもう一度、血液検査を受けさせることができれば・・・」

「やつだって馬鹿じゃない」

 血液検査の話を忽滑谷にしてみたが、「それは任意でしょう? だったら、お断りします」ときっぱり断られた。

 八方ふさがりの状況だった。

「ねえ。どうするのよ」と明日香が狼班にやって来た。

「手詰まり――かな」

「何、呑気なこと言っているのよ。あなた、WCPなのでしょう。あいつの気持ちになって考えてみなさいよ」

「ああ、そうだった。そうだな・・・」

 明日香は俺の前の空席に腰を降ろすと、眼を輝かせながら俺の顔を見つめた。止せ。明日香に見つめられると、ドキドキしてしまう。

「ああ、そうだ」

「何? 何か思いついたのね」

「やつが隠れ狼だとすると、満月の夜に人に見つからない場所が必要だ」

「はは~ん」と明日香が直ぐに反応した。

「もう一度、やつの実家に行ってみよう」

 時折、息子が実家に戻って来ると近所の住人が証言していた。

「私が運転する」

 出がけに班長から、「山城。ルールを守れ。使えない証拠は取って来るな」と声をかけられた。

 忽滑谷の実家に向かった。

 忽滑谷の実家は、住宅街にひっそり溶け込んでいた。

「どうするのよ。令状無しに勝手に家宅捜索なんて出来ないわよ」と明日香。

「分かっている。俺に考えがある」

 俺は道端の小石を拾った。

 道路から忽滑谷の実家を見て回った。一階や二階の窓ガラスにはシャッターが下りていた。庭に面した台所の窓だけが、シャッターのない窓だった。

 これだなと思った。俺は小石を窓に投げつけた。

「何をするの!」

 ガシャンと窓ガラスが割れた。

「ほれ、見ろ。あそこ。窓ガラスが割れている。ひょっとして、空き巣が入ったのかもしれない。このままにはしておけないな」

「あんた、滅茶苦茶だね。武藤班長から言われたでしょう。ルールを守れって」

「使えない証拠はいらないと言われたのだ。窓ガラスが割れていて、空き巣の疑いがあったので、部屋に踏み込んだ。それで、何か出て来れば、十分、使える」

「全く・・・」とため息をつきながら、明日香が先に行く。

 警棒で残った窓ガラスを綺麗に取り除くと、鍵をあけて、ひょいひょいと家の中に入って行った。俺が入るには少々、狭い。

「お~い。玄関の鍵を開けてくれ~」と声をかけてから、玄関に回った。

 ところが、待てど暮らせど、玄関の鍵が開かない。

 しびれを切らせて、何度もチャイムを鳴らした。

「やっと玄関の鍵が開く」

「うるさいわね~!」とドアを開けるなり怒鳴られた。

 こいつ、一人で家宅捜索をやってやがった。

「何かあったのか?」

「あった。あった。ここは狼の巣ね」

「狼の巣。何があったのだ?」

 窓にシャッターが下りているので、家の中は真っ暗だった。

「こっち」と明日香は俺を先導して歩き出した。片手に懐中電灯を持ち、もう片方の手には拳銃を握っている。

 俺も懐中電灯を持つと拳銃を構え、明日香の後を歩いて行った。

 台所に一歩、足を踏み入れた途端、直ぐに異変に気がついた。冷蔵庫とは別に業務用の冷凍庫が据えられていた。

 そう大きなものではない。縦横高さ共に1m未満のサイズだ。

「これか?」

「開けてみて」

 冷凍庫の扉を開ける。

「うむ・・・」と声が出た。

 そこにはバラバラにされた人間の遺体が詰め込んであった。人の体がぶつ切りにされ、ジッパー付きの保存袋に小分けにされて冷凍されていた。

「忽滑谷の両親でしょうね」

「・・・」二人分にしては、冷凍庫が小さすぎる気がした。

「冷蔵庫にも保存されている」

 冷蔵庫を開けてみた。

 こちらには、血液らしき真っ赤な液体が瓶詰にされ、保管されていた。

「どういうことでしょうね」

 この惨状を見ても顔色ひとつ変えない明日香にも驚かされた。

「やつの食料なのかもしれない。あいつ、満月の夜に、ここに来て、晩餐を楽しんでいたのだ」

「趣味が悪い」

「全く・・・」

「趣味が悪いのは、あなたよ。晩餐だなんて」

「俺かよ!」

「もしかしたら、両親が生きていることを偽造する時に必要となるパーツや血液検査で必要となる血液を保管してあるのかもしれない」

「その可能性がある。とにかく鑑識を呼ぼう」

 俺たちは鑑識を呼んだ。

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