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月にほえろ!  作者: 西季幽司
第二話「冷酷な殺人狼」
10/12

得体の知れない狼

 WCPのデータベースを確認したが、忽滑谷弘文はWCPとして登録されていなかった。

「変だな。彼は血液検査を受けている」

 血液検査を受けた結果、WCPではないという結論が出ていた。

「ふ~ん。じゃあ、一体、誰が高山を殺したのかしら?」

「またお前か」

 今日も明日香が狼班に来ていた。

「合同捜査に決まったのだから、来るに決まっているじゃない」

「俺一人で十分だ」

「言ったでしょう。相手は知能犯、あなたには荷が重い」

「またか。りりぃちゃんには言われたくないな」

「誰がりりぃちゃんだって――!」

 明日香が怒りのこもった眼で俺を睨みつける。

「山城」と班長が呼ぶ。

「はい」

「一課との合同捜査に決まったのだ。多門君に協力して差し上げろ」

「そうよ。協力して差し上げなさい」と明日香。

「ちっ!」と俺が舌打ちをすると、後ろからぺしっと頭を叩かれた。

「さあ、捜査に出るよ」

「出るって何処に?」

「忽滑谷の実家に決まっているじゃない。やつの両親に会ってみよう」

「ああ、そうだな」

 立ち上がって班長を見ると、「よろしく頼む」と一言。俺たちが部屋を出ようとすると、「ところで多門君」と班長が明日香を呼び止めた。「はい?」と明日香が返事をすると、「りりぃちゃんって何だ?」と聞いた。

 明日香が俺のこと、抹殺しそうな眼で睨みつけた。

 東京の郊外、埼玉県との県境にある市に忽滑谷の実家があった。

 住宅街にある一戸建てが忽滑谷の実家だった。呼び鈴を鳴らしてみたが、反応が無かった。人がいる気配がない。近所で聞き込んで回ったが、「もう長いこと、忽滑谷さんご夫婦をお見かけしていませんよ」、「転勤で地方に行ったと聞きました」、「たまに息子さんが家に出入りしています」という返事だった。

 招知大学より提供してもらった情報から、忽滑谷の父親の名前と勤務先が分かっている。市内に本社を置く、繊維メーカーに勤務していた。早速、そちらに向かった。

 人事部の課長という人間が応対に出て来た。

「忽滑谷さんなら退職されていますよ」と言う。

「退職⁉」

「はい。三年前です。突然、奥さんの実家を継ぐことになったと言って、退職されました」

「奥さんの実家?」

「和歌山だそうです。詳しいことは存じませんが」

「突然のことだったのですか?」

「はい。退職の連絡が電話であり、息子さんが退職届を持って来ました」

「息子さんが⁉ そんなこと、あるのですか?」

「いいえ。息子さんが退職届を持って来るなんて、聞いたことありませんでした。だから、よく覚えています。もっとも今じゃあ、お金を払って業者に頼んで会社を辞める人間だっていますからね」

「ああ、まあ・・・」

 俺たちは会社を出た。

「怪しいな」と俺が呟くと、「少なくても私たちに嘘をついていたことになる」と明日香が答えた。

 事件の夜、母親の見舞いに実家に戻ったと言っていた。その母親は都内にいなかった。母親を見舞ったのなら、和歌山に戻ったと言うことになる。

「事件の夜、やつは寮にいたのかもしれない」

「調べてみる必要がありそう」

「大学に行ってみるか」

 俺たちは招知大学に向かった。

 寮生に聞き込んで回ったが、「さあ?」、「分かりません」と忽滑谷が部屋にいたかどうか知っている人間はみつからなかった。

 寮の入り口には防犯カメラが設置されているが、非常口から出入りする学生がいる。非常口は内側からしか開かないが、学生が出て来た時に、すれ違いざまに中に入ることが出来る。学生寮だ。一階の学生などは、面倒だと窓から出入りしているようだった。

 防犯カメラの映像は当てにならなかった。

「ダメですね」

「直接、やつに当たってみるしかないな」

「そうしましょう」と忽滑谷が部屋に戻って来るのを待った。

 明日香がやたらと周囲を見回す。今日香の姿を探しているのだろう。見つかると面倒だが、ちゃんと講義に出ているかどうか心配だ――といった感じだ。

「お前にもお姉ちゃんの顔があったんだ」と言うと、「警告しておくぞ。余計な詮索は止めろ」と怖い顔をして言う。

「おお~怖い。嫁の貰い手がなくなるぞ」

「セクハラだな。それ」

「大変、失礼しました。りりぃちゃん」

「・・・!」

 明日香が俺の尻を蹴り上げた。

 忽滑谷が戻って来た。

「あれっ! 刑事さん。また来たのですか?」

「忽滑谷さん。嘘は困りますね~」

「嘘?」

「ご実家に行ってみましたけど、お留守のようでした。お母さんの実家がある和歌山に戻られたとか?」

「ええ。言いませんでしたか?」

「いいえ~あなた、事件のあった夜、お母さんの具合が悪くて、実家に戻っていたとおっしゃいました。和歌山に行っていたのですか?」

「ああ、そのことですか。すみません。嘘をつきました。偽証罪で逮捕しますか?」

「まさか。本当のことを教えて頂けませんか? 事件の夜、部屋にいたのではありませんか?」

「部屋にいた? あの夜、僕は部屋にいて、帰って来た大周を窓から放り投げた――とでも言うのですか?」

「違いますか?」

「はは。もし、そう思うのなら、それを証明してください。僕が大周を殺したという証拠があるのなら、それを見せてもらえますか?」

 挑発的だ。だが、忽滑谷の言う通りだ。現時点では、何の証拠もない。

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