穏と本と俺
「はふぅ~…このご本は最高です~…」
「げ…の、穏…読書してるのか…?」
「あ、玄助さん~。はい~。こちらの本が最高なんですよぅ~」
「そ、そうか…んじゃ、俺は仕事に…」
「逃がしませんよ~?」
「しまった!回り込まれた!」
「うふふ~…玄助さんも一緒に読みましょうよぅ~。」
「ええい…くっ付くな。どうせまたあの悪癖が出てるんだろうが!」
「アレは克服しましたよ~?」
「嘘つけ、ンなこと言って、俺を篭絡するんだろうが!」
「篭絡はされてるじゃないですか~?」
「う…。そうだった…穏も俺の奥さんだから…」
「そうですよ~?もう篭絡済みです~」
「おのれ…」
「ねぇ~?玄助さんも一緒に本を読みましょうよ~。」
「はあ…仕方ない…どんな本だ?」
「これは、冥琳様からお借りした本で~。歴史書です~。」
「ああ、前買ったヤツか…てか歴史なんぞ何が面白いんだ?」
「それはですね~。私たちに戦の情報も載ってるんですよ~。」
「ふむふむ…それで?」
「炎蓮様のお亡くなりになった時期なども載っていて中々詳しく書いてあるんです~。」
「ほう?」
「なので、私たちの詳しいことも載ってるんです~」
「なるほど?天の御使いの記載は?」
「ありますが、こちらは現実的では無いとされてますねえ…」
「そりゃ天の御使いなんて眉唾モノだし…」
「私たちも最初は信じてませんでしたよ~?」
「そりゃそうだろうよ…天から人が降ってくるなんてあり得んからな…」
「ですよね~」
「でも、それでも、みんなは信じてくれた。」
「はい~。それも玄助さんの努力の賜物かと~」
「それはそうかも知れんが…」
「しかし…俺が怪しい人間だったらどうしてたんだ?」
「それは捕らえられてたでっしょうね~」
「おお、怖いな…」
「それはそうですよ~怪しい人間を放置すると思いますか~?」
「いや、思わんな…」
「そうでしょう~?特に炎蓮様はお厳しい方でしたから~」
「確かに…」
「もしかしたら首を刎ねられてたかもしれませんね~」
「ホントに、俺よく生き残ったな…」
「炎蓮様のお気に召したんでしょうね~」
「ホントに良かった…」
「それで玄助さん?」
「ん?」
「本を読みましょうよ~」
「断る。穏と読んでたらいつ襲われるか分からん。」
「もう、本当は嬉しいんじゃないですか~」
「真昼間からンなこと出来るか!」
「大陸ではシてたじゃないですか~」
「アレは特殊だったの!」
「え~?玄助さんも喜んでたじゃないでかぁ~」
「そりゃ嬉しいけども…今はダメ。」
「そんなぁ~」
「全く…そんなんじゃ、また雷火さんに怒られるよ?」
「今、雷火さまはいらっしゃらないので~」
「バレたら怒られるわ!」
「バレないですよ~」
「バレる可能性があるだろうが!」
くわ!っと怒る
「分かりましたよぉ~…でも読書はさせてください~」
「いや、それはいいけど…」
「では玄助さんのお部屋で…」
「何故、俺の部屋で読もうとする…」
「1人で楽しむのも良いですが、誰かと一緒ならもっと楽しめるかと~」
「読書は自分の集中できる場所でしなさい。」
「いいじゃないですか~どこで読もうが私の自由です~」
「はあ…仕方ないな…でも、俺の仕事の邪魔はするなよ?」
「分かってますよ~」
そうしてルンルンな穏を自室に入れる
「おお~玄助さんのお部屋にもそれなりのご本が~」
「そりゃな。俺だって本くらい読むさ。」
「では、私は読書をしますので玄助さんはお仕事を~」
「はいよ。」
そうしてPCに向かい作業を始める。
「ふむふむ…なるほど~」
「早速、本に夢中だな…」
「素晴らしいです~…はふぅ…」
「良かったな…」
カタカタとPCで作業をする…が何故、みんなして俺の部屋に来たがるのだろう…前回は粋怜が来たし…
「やっぱりこちらの本は読みやすいですねぇ~」
「分からない意味とかあったら聞いてこいよー?」
「は~い」
「まあ…穏のことだからある程度の日本語はマスターしてるだろうけど…」
「そんなことないですよ~?まだ漢字の音読み訓読みで困る時がありますし~」
「そうか…アッチでは読み方なんて一つだけだもんな…使い方で意味も変わるし…」
「そうなんですよ~…今まで使ってきてた文字もこちらでは意味が変わってる場合もありますし~」
「そう思うとやっぱり日本語は難しいんだな…」
「でも学んでいて楽しいですよ~?」
「なら良いんだけど…」
「それよりも、よくお喋りしながら別の文字が書けますねえ~」
「んー…慣れ?」
「私には無理です~」
「なんでだよ…大陸でもお喋りしながら仕事はしてただろうが…」
「それは文字が一種類だったからですよぉ~玄助さんは今、日本語を話しながら英語という言語で文字を入力しているではないですか~」
「まあ…そうだな…」
「そんな複雑なことできません~」
「まあ…確かにPCは基本ローマ字入力だからな…」
「覚えることが多すぎですよぉ~」
「まあ…そうかも知れんが…これが早いんだわ…」
「それが凄いんです~」
「俺はこれで慣れてるからなあ…」
「でも早い人はもっと早いんですよね~?」
「そうだな…基本、キーの配置を覚えて画面見ながら打ち込んでるから…」
「それも慣れですか~?」
「そうだな…基本的に、ホームポジションって言って、指を置く場所を身体が覚えてるから、触っただけで分かる。」
「それが素晴らしいですね~…私たちが文字を書くのより早いですし~…」
「そうだねえ…」
「大陸にいた頃でも早かったですが~」
「アレは俺の中では遅い方だな…のんびり仕事してたし…それに店やら孤児院やら同時進行の作業もあったから…」
「でしたら、今は大陸に居た頃よりもお早いと~?」
「んー…幾分か早くなってるとは思うけど…」
「お酒飲んだり、タバコを吸ったりしてましたもんねぇ~…」
「うん。でも家ではタバコは庭か、キッチンでしか吸わないから…」
「あの頃の玄助さんを知る者としてはタバコを吸っていない玄助さんが不思議です~」
「そんなに俺、タバコ吸ってたかな?」
「軍議の時も吸ってたじゃないですか~」
「あー…確かに…でも、みんなも吸ってたよな…特に炎蓮さん…」
「そうですねぇ~…あの方はお酒も鬼のように飲まれてましたから~」
「なんでも規格外なんだよな…あの人…」
「そんな方でも戦で亡くなってしまうんですよ~?」
「ああ…ホントにな…」
「玄助さんも私たちが亡くなった時はさぞかしお辛かったでしょうねぇ~」
「そりゃな…笑顔で見送ってから泣いてたよ…」
「でも、お1人ではなかったでしょう?」
「ああ、子供も孫も居たからな…でも、愛した人を失なうのは嫌だな…もし、このままの生活が続くなら…そうだな…今度は…俺が先に逝きたいな…」
「そんな悲しいことを言わないでくださいよ~」
「もう辛い思いはしたくないからな…」
「今度は私たちを悲しませる番ですか~?」
「ふふ、愛する人を失う悲しみを味わうが良いさ。」
そうしてイタズラっぽく笑う
「イジワルな人ですね~」
「皆して俺のことを置いて逝ったからな…」
「でも、私たちの子も孫も、玄助さんを失った悲しみは凄いでしょうねぇ~…孫呉の重鎮で天の御使いですから~」
「多分、民たちも悲しんだだろうさ。間違いなく、国葬だな…」
「遺言は残しましたか~?」
「さて、どうだったかな?」
「何も残さないで逝ったんですか~?」
「何か残してそれが新しい戦の火種になったら嫌だろうが。子供が残せたからそれで充分だ。」
「それもそうですね~」
2人して遠い目をする…残されたあの子たちはどうしたのだろうか…親としては気になるが…それはもう過去のこと…
「さて、仕事も終わったし、一服するか…下に降りるぞ穏。」
「は~い」
そうして、2人が階段を降りる音だけが誰も居なくなった玄助の部屋に響くのであった。




