序章
深海 麗子。高校二年生。16歳。
高校1年生の夏。突然私は幽霊が見えるようになった。
新入生を迎え入れ始まった新年度の学校生活。
始業式から早二週間。
新しいクラスになったことによって浮き足立っていた気持ちが、ようやく落ち着いてきたところだった。
しかし、悲しきかな…そんな束の間の平穏も、今日もらったこの進路希望調査と書かれた紙によって消え去ってしまう。
私には夢がない。
中学生まではそれに対して焦りなんてものはなかった。なぜなら自分はどちらかというと消極的なタイプだし、色々経験してる内に勝手に夢は生まれてくると思い込んでいたから。
過去の自分は夢を見つけることがこんなに難しいことだとは思ってもみなかっただろうし、私の周りにいる人たちだってこんなこと思ったことないだろう。
高校二年生ということもあり、周りは自分の夢を確立し、それを叶えるために真剣にこれから歩んでいく進路について考えている。
しかし、ここまできても夢のない自分にとってそれは全くの他人事のように思えた。
こんな調子なので進路希望調査票が配られると憂鬱な気持ちになる。
まるで自分の考え無しなところが浮き彫りになっている気がしてくるから。
「麗子。早く帰ろ。」
彼女は美沢明美。
中学生のころからの友達で高校一年生のときクラスは離れてしまったが、新年度になった今、私と明美は現在クラスメイト。
美しい黒髪と、切れ長の目が特徴のクラス一の美人である。
「何?進路悩んでるの?」
「そう、私何になりたいのかもまだ分かってないのに…」
「まあ、まだ提出期限まで時間あるし、ここに書いた事が最終決定ってわけでもないから。」
何もそんなに一生懸命紙を睨まなくても…
と明美に言われてしまった。
完全に無意識だった…
「ていうか、今日塾あるの忘れてないよね?」
あ…
「え、そうじゃん…しかも私、学級日誌書いてない!」
「まったく、 遅れるとまずいから先行っとくよ!」
塾も学級日誌もすっかり忘れていた。
中学に上がったと同時に、私が授業についていけるかどうか心配した母は私を学習塾に通わせた。
1人では不安だからと、勇気を出して仲良くなったばかりの明美を誘ったことをよく覚えている。
(あの頃が1番楽しかったな)
ふと思い返した記憶に懐かしみを抱いていると、何者かに突然声をかけられた。
「れーいーちゃん。」
(……この声は。)
「また来たの。」
「そうだよ。嫌だった?」
この声の持ち主は、私が人生で初めて見た幽霊。
名前は、篠宮雅。幼稚園時代からの付き合いで、要するに幼なじみと言うやつだ。
実は彼女も一緒に学習塾に通っていた。
「だって、死んでから家族や麗ちゃん以外の友達とか見に行ってみたけど、私の事見えないからつまんないし。」
(それは当たり前のことでは…)
「でも、もともと幽霊が見えてなかった麗ちゃんが私が死んでから急に見えるようになっただなんて。何だか運命的じゃない?」
「たまたまでしょ…」
つれないなぁ。 なんて言う雅は放っておいて。
雅は高校1年生の夏、交通事故にあって帰らぬ人となった。そう、ちょうど私が幽霊を見えるようになった時期と同じ。
偶然とも言いきれないが、だからといって運命的とは言い過ぎな気がする。
「今日は前みたいに3人でデート出来ると思ってたのに。」
「塾までの道がデートって」
たしかに中学生の時は、塾までの道のりをお喋りで夢中になっていたことを思い出した。
本人は至って普通。でも、この世にいる時間が長いほど成仏しずらくなるのではないか。
最悪、悪霊化とか…
それが今、私が不安に思うところ。
(それと、本人じゃなくて本霊か…?)
雅を成仏させるには私がどうにかしないといけないのか…
「……ねぇ、それ叶えたら成仏できそう?」
「麗ちゃん最近それしか言わない。私泣いちゃうよ??」
そう言いながら泣き真似をする雅に冷たい視線を送る。人の心配なんてつゆ知らずになんて活気なんだ。
でもさ、と彼女が言葉を続けた。
「三人でデートってすぐに叶いそうじゃん?だから私、前から少し考えてたことがあるんだけどー」
なんだか嫌な予感が、、、
「私、幽霊のお悩み相談やってみたくなっちゃった!」
「……」
まあ、そんなこんなで
雅の『対幽霊 お悩み相談室』は幕を開けた。