歩むくんと歩みちゃん
とある街に、家がお隣同士の男の子と女の子が住んでいました。
男の子の名前は歩むくん、女の子の名前は歩みちゃん。
二人は、小さい頃からの腐れ縁、つまり幼馴染と云うやつですね。
あれから15年、ダラダラ続いていた幼馴染の関係が、ようやく恋人関係に発展しそうな歩むくんと歩みちゃん。
そんな二人が、日課にしている深夜の電話の最中、歩むくんは奇妙な事件に巻き込まれてしまいました。
歩むくんが、スマホ片手にノートの片隅に無意識に落書きしていた図柄が偶然にも、悪魔を呼び出す魔法陣と合致してしまったため、彼の前に突然ツンツンつるぺたロリータのツインテール悪魔娘が現れてしまいました。
\ボワ〜ン‼︎/
そして、あたふたしている歩むくんに、ツンツン悪魔娘がこう言いました。
「ちょっと人間!!」
「アンタね、チョー忙しいこのイビル様を呼び出しといて」
「呼んだ覚えは無い、帰ってくれですってぇっっ!!」
「ムカつく~!!」
「アンタ消滅したいわけぇ~!?」
ツンツン悪魔娘は、いきなり上から目線でもの申す。
「願い事、思いつかないんだったら、このイビル様が直々に考えてあげるわ!!」
「そうね、男なんてみんないっしょよ!!」
「願い事は大抵、女とHしたいってコト一択なんでしょ!!」
「だったら、アンタを理想の彼女にしてあげるわ!!」
「イビル・ロリロリ・ツインテツンツン・つるぺった~ん!!」
笑っちゃ失礼だが、これはツンツン悪魔娘の呪文のようです。
「目の前のヘタレ男子よ、理想の彼女にな~れ~!!」
\ポワ~ン/
ツンツン悪魔娘の魔法の呪文が炸裂、思いっきりピンク色の煙に包まれた歩むくん。
「ウハハハハァ!!」
「どうよ!!」
「大きなオッパイでしょう?」
「もちろん、下はちょんぎっといたからっ!!」
「まずは、首から下を理想の彼女の躰にしてやったわよ!!」
「ありがたく思いなさい!!」
「これでアンタは3日後の深夜0時に、全身が理想の彼女になるわ!!」
「ほら、その理想の彼女の躰を今のうちに思う存分」
「好きに弄びなさい!!」
「誰も困んないから!!」
「んじゃ、イビル様はチョー忙しいから、魔界に帰るけどね!!」
「おっと、もちろんアンタが死んだら魂は頂くから、そのつもりで~!!」
「ウッハッ・ハ・ハ・ハァー…」
\シュン!/
そう云うと、ツンツン悪魔娘は、慌ただしく消え去ってしまいました。
「何これ!?」
「理不尽すぎる…」
愕然とする歩むくん。
「と、いうハプニングが昨日起こりまして」
「私めは巻き込まれてしまった次第ですが…」
「ご理解頂けたでしょうか、歩みさん?」
怒りの歩みちゃんの目の前で、裸にひん剥かれた歩むくんは、彼女のベッドの上で正座をさせられたまま、彼女に言い訳をしていた。
「ほほ~う」
「それが私に黙って勝手に秘密裏に性転換してた、その体の言い訳なんだ?」
歩むくんの目の前で仁王立ちになり、上から目線で彼を見下す歩みちゃん。
「あれぇ~歩みさんは、恋人のオレの云う事、信じてくれないの?」
上目遣いで歩みちゃんを見つめる歩むくんは、これでもかと瞳をウルウルさせながら懇願しましたが…。
「信じられる訳ないでしょうがっっ!!」
当然、そんな戯言、信じるわけがない歩みちゃんです。普通はそうです。
\プンスカ!!/(怒)
「あ~もう、歩むにそんな変態趣味があったなんて…!!」
とうとう呆れ果てしまう歩みちゃん。まあ、当然こうなるわな。
しかし、歩むくんは諦めません。いや、納得がいきません。
納得いかない歩むくんは、しつこく昨日の状況説明を、更に詳しく弁明しまくります。
「本当だって、昨日イビルってツンツン悪魔娘がな〜」
「なにげに書いたオレの落書きから現れてだな~」
「忙しいからって、そいつが勝手に」
「オレの魂と引き替えに理想の彼女にしてやるって〜」
「強引にこの体にされたんだよぉ!!」
両手で大きな胸を隠しながら、繰り返し言い訳をする歩むくん。
しかし、言い訳は何一つ増えてはいません。歩くんは、同じことをただ繰り返しただけでした。
歩くん、から回っていますね~。
「まだ言うか、このヘタレ男子はっ!!」
「おっと、今は女子だった」
「じゃあ、歩むの理想の彼女って」
「そんなナイスバディの、ばいんバインなんだ?」
残念な胸をした歩みちゃんが、更に歩むくんに詰め寄ります。
ズンズンズン‼︎
部屋の天井にあるLEDライトからの光を背中で遮って、歩むくんに影を落としながら、無言で迫り来る歩みちゃん‼︎
歩むくんの顔の真ん前に彼女の顔が迫っている、そしてピタリと止まった。
その距離わずか10cm以下である。
「…」
か、完全に彼女にマウントを取られた歩むくんは、声も出せない。
が、頑張って声を絞り出してみせる歩むくん‼︎
頑張れ男の娘‼︎
「ち、違う、そんなことないって!!」
「オレの理想の彼女は、歩みさんなんだから」
「これは、ツンツン悪魔が間違えたんだよ!!」
「ホント、神に誓って絶対だから!!」(汗)
自分の豊満な胸に左手を当て、右手を顔の横に上げて誓いを立てる歩むくん。
必死になって弁明する歩むくんを見て、一歩だけ下がって譲歩する歩みちゃん。それでも腰に手を当てたまま、マウントを譲る気のない彼女は、ジト目になって、更に歩むくんにマウントを取りにくる。
二人の間に、目に見えない圧倒的なパワーバランスが、ここに存在していた。
「ふ~ん どうだかね~」
「でも明日になったら、その顔も歩むの理想の彼女の顔になるのよね?」
「ああたぶん…」
「あ~明日が楽しみですこと」
「歩むの理想って当然、私の顔よね?」
「も、もちろんだよ、オレは歩みさんの顔も体もぜ~んぶ理想そのものだもん!」
「それじゃあ、今日からウチにお泊まりしてよね」
「明日の0時になったら、その顔がどう変化するか確認するから‼︎」
「えイイの?」
幼馴染を卒業して何となくお付き合いを始めてから、初めてのお泊まりに嬉しそうな歩むくん。
「何か問題でも?」
(-.-)ジト目で歩むくんを見る歩みちゃん。
「えへへ、間違いとか起こらないかな?」
ほっぺを赤くしてちょと恥ずかしそうな歩むくん。
「ハ~ア? そのおんなの躰で、どんな間違いが起こるっていうのよ!!」
両手の平を上に向けて肩をすくめ、歩むくんを小バカにした態度をとる歩みちゃん。
「で、でもオレ、体は女だけど心は男のまんまだぜ!!」
「ついムラムラして歩みさんを襲っちゃうかもしれないじぇ?」
精一杯、男らしいところをアピールしようと頑張る歩むくん。少し噛んでしまった最後が実に惜しかった。
「だったらその理想のナイスバディの自分の躰でも恥辱してればいいわ!!」
歩むくんのナイスおっぱいを、鷲掴みにモミモミする歩みちゃん。
め、目が恐い…。
「キャ~ン」
歩みちゃんに胸を揉まれ、思わず変な声を漏らすヘタレの歩むくん。
あ~歩みさん、まだ胸のこと気にしてるよ~。(汗)
そして、夜も更けていき…そろそろ夜の0時になりますよ。
ぴっ、ぴっ、ぴっ、ぴぃぃぃー、0時になりました。
\ポワ~ン/
時報と同時に、ピンク色の煙が歩むくんの頭を覆ってしまった。
「ぎょわっ!! 前が見えないっ!!」
「どうなったオレの顔?」
歩むくんは、目の前の煙を両手を左右に振って追い払った。
「そ、そんなぁ」
頬を染めた歩みちゃんが愕然とする。
「どうなったんだよオレの顔!! 」
「鏡、見せてくれ!!」
歩みちゃんから手鏡を受け取った歩むくん。
「誰だこの顔?」
「全然理想でも何でもないぞ?」
「ほら、やっぱりツンツン悪魔娘が間違えたんだよ!!」
「理想って男全般の理想って事だったんだよ!!」
「だから胸もデカくしたんだな」
「あのオチョコチョイのツンツン悪魔娘め!!」
「オレがツルペタ・ロリ萌えなのを知らないからさ!!」
疑いが晴れたと言わんばかりに、勝ち誇った顔で鏡から歩みちゃんの方に視線を移した歩むくん。
「お…お姉様ぁ~♥」
眼が(♥o♥)の歩みちゃん。
「な!?」
「お姉様、お姉様ぁ~♥」
きょとんとした歩むくんに、いきなり抱きついてきた歩みちゃん。眼がヤバイ!!
「なに~っ!?」
明らかに、今までと違う歩みちゃんの態度には、さすがにトロい歩むくんもピンと来た。
「ちょいと歩みさん」
「これってもしかして、あなたの理想なんですか?」
「そう♥」
目を閉じ、ピンクに染めた頬を手で押さえ、恥ずかしそうに打ち明ける歩みちゃん。
「このデカイ胸も、美人だがオレにはピンとこないこの顔も」
「歩みさんの理想だったんですかぁ?」
今までの人生の中で、一番大きな声で歩ちゃんに問いただす歩むくん。
これは、二人のパワーバランスが逆転しそうですよ。
「そうですぅ!!」
「アユは、お姉様みたいな人にずっと憧れていましたぁ♥」
「おい、待て!!」
「オレを、男のオレを今まで好きだったんじゃなかったんですかぁ?」
完全に、パワーバランスが逆転したぁ‼︎
おめでとう歩むくん。
「あ~あれはウソです」
初めてマウントを取った歩むくんに、躊躇いなくすっぱり言ってのける歩みちゃん。
「ウソだったのかよっっ!!」
歩ちゃんの〝ウソです〟を聞いて、相当ショックを受けた歩むくん。
頭ん中がぐらんぐらんになってっしまった!!
これ、立ち直れるのか?
歩むくんファイトっっ!!
「もっとほら、ちゃんと言い訳ぐらいしろよ、聞いてやるからさ~」(T_T)
ショックのあまり少し涙目になってしまうヘタレな歩むくん。
これは、パワーバランスそのものが壊れてしまったぁ〜。
「そう、アユが本当に好きだったのは…」
「お姉様みたいな、女の人だったのですぅ♥♥♥♥♥ 」
「今までこっそりと封印していましたが…」
「アユは、お姉様好きのユリっ娘だったんです♥」
「ウフ♥♥ 」
歩むくんに流し目でウインクする歩みちゃん。
「がーん!!」
オレ…石化。とうとう歩むくんは、フリーズしてしまいました。
「お姉様ぁ~♥」
急に甘えた声で品を作り、歩むくんに迫ってくる歩みちゃん。
「お姉様にだったら、アユの全てを捧げる所存ですわ♥」
目を閉じて、キスをせがむ歩みちゃん。
完全に女体化した歩むくんは、Yシャツ一枚で両手ブラリ、女の子座りをしたまま動けなくなっていた。
そんな歩むくんに魅せられた歩みちゃんは、両手を歩むくんの頬にそっと添え、そのまま歩くんの唇に自分の唇をベロベロに重ねた。
\むちゅ~っっ♥/
歩むくんは、歩みちゃんの濃厚高粘度ディープキスで石化の呪縛から解放された。
歩ちゃんの大量のよだれで、ベッチョベッちょにされてしまった歩くんの口周り。
後で、ちゃんと拭いておかないと、美人が第無しである。
「なんか腑に落ちないが、まあいいか」
「歩みさんが今まで以上に、オレを好きでいてくれるんならそれでも…」
ヘタレのくせして、意外と環境への順応性の高いスキルを持っていた歩むくんであった。
これこそが、ヘタレ少年が皆持っていると言われるスキル、どんな環境でも流れに逆らわないで生きていれば、大抵のことは何とかなってしまう処世術なのである。
「お姉様ぁ~オレなんて言葉遣い、なさらないでくださいっっ!!」
「アユは、ショックですぅ!!」
「私って、もしくは、わたくしって名乗ってくださいまし!!」
「そう云う歩みさんも、さっきから言葉遣い変じゃないか?」
\うるうるっっ!!/
歩みちゃんのうるうるした瞳が歩むくんの顔を見ている。
これには逆らえない歩むくんであった。
パワーバランス復活‼︎
マウントを取ったのは、やはり歩みちゃんだぁ‼︎
「んじゃぁ、わたくしでいいか?」
「 これなら、サラリーマンみたいでなんか格好いいし」
「ハイ、それで結構ですわ♥」
「それから、私のことはアユと呼んでくださいまし♥」
恥ずかしそうに、もじもじ品を作る歩みちゃん。
「ああ、わかった アユね、了解…」
ああ面倒くせぇ~。
心の中では悪態を突く歩むくん。
ここで、この言葉を口にできさえすれば、パワーバランスがひっくり返るかもしれないのにね。
残念、これは、歩むくんの悲しいサガ…。どうにもなりません。
こうして、歩みちゃんと歩むお姉様の恋人関係が正式にスタートするのでした。
「何か、思ってたのと違う~っっ!!」
おわり