表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/97

CASE1. 彩華と誠③

 『今年のクリスマスは雪が降り、ホワイトクリスマスとなりました。街ではイルミネーションの数々が─』



テレビに映る女性のリポーターがとびきりの笑顔で話している。

その背景には、いくつものカップルが歩いており、降る雪を見ながら何かを話している。

今日は12月24日、クリスマスイブ当日である。

私はソファに座り、テレビを死んだような目で見ながらテーブルの方へと視線をスライドする。

そこには、絢士郎がソワソワしながら座っている。



 「何緊張してんの?」


 「う、うるせぇな……こっちにも色々とあんだよ……」



その妙な態度に私は察し、そして苛立ちが込み上げる。



 「キモイ声出さないでよ。キモイから」


 「キモイキモイって言うな!……てか、何か口悪くねえか?」


 「別に、いつも通りでしょ」


 「いや、最近は……まあいいか。てか、お前は出なくていいのか?」



まるで予定があるだろという言い方に、さらに苛立ちが増す。



 「はぁ?こちとら受験生ですから?クリスマスなんて遊んでる暇ないんですけどー」


 「何だ、断ったのか」


 「だから何が?」


 「いや、誠からの誘いだよ」


 「……はぁ?……はぁー!?」



一番聞きたくない名前が聞こえ、私は大きな声を出す。

突然の事に絢士郎は仰け反る。



 「あいつが!私を!誘うわけないでしょ!」


 「いや、お前ら仲良いし……あいつが─」


 「あいつは今日、超可愛い子とデートに行ってんのよ!だから、私を誘うわけないの!」


 

そう言って、私は羽織を一枚着て玄関の方へと歩く。



 「お、おい!どこ行くんだ?」


 「適当に時間潰してくんの!私が居たら邪魔でしょ!」



今日はママもお義父さんもデートに行っている。

クリスマスに恋人といる所に妹が居ては邪魔でしかない。



 「いや、まだ話が─」


 「話は終わり!唐沢君の事はもういいから!」



私はその場から逃げるように玄関の扉を開けた。

すると、



 「あれ?彩華さん?」



扉を出てすぐの所に、麗奈が立っていた。

ちょうど我が家に着いたタイミングだったようだ。



 「どこかにお出かけですか?」


 「……まあ、そんな感じ」


 「そうだったんですか。彩華さんも居ると思って、ケーキを買ってきてしまいました…」



麗奈は手に持っているケーキを見て、残念そうな表情をする。

そんな姿を見て、私は申し訳なさと呆れが同時に来る。

普通恋人と過ごすクリスマスに、その妹が居ると考えるだろうか。

そういう所が、麗奈は少し変わっている。



 「さすがに恋人同士のクリスマスにお邪魔はできないって」


 「そんなの気にしなくていいのに……」


 「私が気にするの!全く、そんな甘いと、他の誰かに取られちゃうよ?」


 「他の子には思いません!気にしなくていいなんて言えるのは、彩華さんにだけです!」


 「そ、そう?あ、ありがとう?」



そんな事を真っ直ぐな目で言われると、こっちが恥ずかしい。

こんな風に言い合えるようになるまで、自分の気持ちが絢士郎から離れたということなのだろうか。



 「あ!でも、今から会うお相手が唐沢君だとこちらに居てはダメですね…」



麗奈が真剣な顔でその名前を出し、つい反応を見せてしまう。

さすがに、絢士郎と同じように噛み付いたりはしないけれど。

私の反応を麗奈は見逃さず、キラキラした目をしだす。



 「もしかして、本当に唐沢君と会うんですか!」


 「いや、会わないけど……」


 「誘われなかったのですか?」


 「……絢士郎にも言われたんだけど、何で唐沢君が私を誘うと思うわけ?唐沢君から見た私って、ただの親友の妹でしょ?」


 

そう言うと、麗奈は心底驚いたという表情をする。

そして少し考える素振りをして言う。



 「……本当の気持ちは、唐沢君しか分かりませんが、親友の妹ってだけではないと思いますよ」


 「何で?」


 「だって、唐沢君が彩華さんを見る目って、私を見る絢士郎君の目と同じですから!」



麗奈の言葉に、私の心臓が跳ねる。



 「優しく見守ってくれてるような、安心するんです。どんな私でも、受け入れてくれるような……」


 「……結局、惚気を聞かせてるだけか」


 「そ、そういうのじゃなくて!?」


 「はいはい、邪魔者は退散しますよー」


 「待ってください!話がまだ……」


 「今夜は楽しんでね、お姉ちゃん♡」


 「あ、彩華さん!」



私は去り際にウィンクをして麗奈を茶化すように言う。

麗奈は顔を真っ赤にして叫んだ。

そんな可愛い反応を見て、私は行先も決めずに歩き始めた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「……私、何やってんだろ」



どこに行くでもなく歩き始めた私は、気がつくととある河川敷に来ていた。

川をボーッと眺めて、いつの日かここで叫んだ事を思い出す。

自分の気持ちに決着をつけた場所。



 「……結局、同じ事繰り返してる」



またここで気持ちに決着をつける。

それもアリなのかもしれない。

唐沢君は今頃、あの女の子と笑いあって、楽しいデートをしている。

いつまでも引きずっていても良いことは何も無い。

叫んで終わりにしよう。

そう思っているのに…



 「……」



立ち上がる気力も、声を上げる力もない。

私はただ、その場で蹲っていた。

そこに、



 「懐かしいな、ここ」



声が聞こえ、私は勢いよく顔を上げる。

そこには、2年前に叫んだ場所を見ながら微笑む唐沢君が居た。



 「な、何でここに!?」



驚きのあまり、私の声は裏返る。



 「何でって、お前が電話しても出ないから。ケンに聞いたら家を出たって言うし」


 「そうじゃなくて!デートは?」


 「デート?何の話だよ」


 「誘われてたじゃん!階段のとこで!」


 「階段?あーあれか!あれは頼まれてただけだよ」


 「た、頼まれてた?」


 「あの子の好きな人が、俺と友達なんだよ。それで、クリスマスプレゼントを考えてくれって言われてさ。んで、その相手からも同じ事聞かれて、女子へのプレゼント何がいいかお前に聞こうとしてたのに」



それなのに、私はずっと唐沢君を避けていた。

クリスマスにデートするのだろうと勘違いして、勝手に。

つまり、



 「私の、早とちり……」


 「お、おい!?どうした!?」



恥ずかしさで、私はまた蹲る。



 (ほんと、何やってんだろ、私……)



 「大丈夫か?最近のお前変だったし、何かあったのか?」


 「別に何でもない。いつもの私の暴走だから……」


 「暴走って……ぷっ!自覚あったのかよ」


 「笑わないでよね!」


 「ぷっはは!悪い悪い」



そう言いながら、私と唐沢君は目が合う。



 「あ……この目だ」



麗奈が言っていた事を思い出す。

優しくて、見守ってくれているようで、安心できて、どんな自分も受け止めてくれるような。

そんな、温かい瞳。

そんな目を向けられたら、期待せずにはいられない。



 「……どうして、ここに来たの?」


 

仄かな期待を胸に、私は問う。



 「場所は勘だったけど、ここだったらいいなと思ったんだよ」


 「……何で?」


 「ここだったら、伝えるシチュとしては完璧だろ?」


 「え?」



そう言うと、唐沢君は川の方へと降りていき、2年前に私が叫んだ所と全く同じ場所に立つ。

そして、深く息を吸って叫ぶ。



 「好きだー!彩華ー!」



その叫びは反響して返ってくる。

あの時と違うのは、周りに誰も居なくて、2人だけということ。

その叫びを聞いて、唐沢君が私の方を見る。

その表情は少し照れくさそうで、いつもの飄々とした様子とは違っていて、私の中で何かが込み上げる。

私も川の方へと降りて行き、唐沢君の前に立つ。

まだ照れくさいのか、彼と目が合わない。

私は、彼の肩に顔を埋める。



 「あ、彩華?」


 

戸惑う唐沢君を無視して、私は言う。



 「……何で、私なの?」


 「え?」


 「私なんて、口は悪いし、態度はでかいし、プライドは高いし、ぶりっ子だし、……兄を好きになったような変人だよ?」


 「……別に変じゃねえよ。好きになった人が、たまたま兄貴だったってだけだろ」


 「……変だよ」


 「なら、そんなお前を好きになった俺も変な奴だな」


 「……何それ」



唐沢君の言葉に、私は軽く笑う。



 「……私、寂しかったの。絢士郎と麗奈は大人になって、花野井は何も言わずにどっかに行って、私だけ置いてかれてるようで……一人だと思ってた」



でも、違った。

2年前、ここで気持ちを吐き出してから、あの日からずっと、唐沢君は一緒に居てくれた。

折れそうな私を支えてくれていた。



 「……もう、ケンは彩華を支えてやれないから。あいつの代わりに俺が支えるってのは、ダメか?」



唐沢君は照れくさそうに続ける。

照れてる姿が可愛くて、面白くて、私は笑う。



 「それはダメだね」


 「え!?」


 「私、支えられるだけなのは嫌だから!私もあんたを支えてあげる!」


 「それってつまり……」


 「ふふっ!行こ!」


 「あ、おい!」



私は照れくさくて、誤魔化すように走り出す。

唐沢君の手を握って。


三井 彩華 高校3年生の冬、かつて恋が終わった場所で、自分の恋を見つけた。

この恋は決して離さない。

そんな決意を表すように、私は唐沢君の手を強く握っていた。

これにて、彩華のエピローグを終わりたいと思います!

ここまで読んでくださった方には感謝です!

彩華は個人的にも好きなキャラなので、エピローグを書けて大満足です。

他のキャラのその後も書けたらいいなとは思っています。

来週あたりから新しい作品を書こうと思っておりますので、ぜひ読んでください!

次回作はカクヨムでも書こうと思います!

改めまして、読んで下さりありがとうございました!

次回作、過去作共に読んでいただけると幸いです!

ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ