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CASE1. 彩華と誠②

 「……ただいま」


 「おかえり彩華……どうかした?」


 「……別に」



暗い顔をして帰宅した私を見て、ママが心配そうに聞いてくる。

それを軽くあしらって、私は自分の部屋のベッドに飛び込む。

学校から帰ったままの制服でベッドに寝転がるなんて、普段の私ならしない事だ。

けれど、今はそんな事どうでもよかった。



 「……私って、いつも遅れてるな」



ボソリと呟き、思い出す。

家族の関係が壊れるのが怖くて、素直になれなくて、結局気持ちを伝えずいつしか薄れた絢士郎への恋心を。

この2年間、近くに居たのに自分の気持ちに気づけなかった事を。



 (……あんな可愛い子からデートに誘われたら、絶対に行くよね)



唐沢君に気持ちを伝えていた子を思い出す。

素直そうで、フワフワと可憐で、私とは真逆の可愛い子。

私が男でも、自分よりあの子を選ぶ。



 「……私も、もっと素直になれたらな……」



そんな事を呟いて、私は目を閉じた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「彩華、飯だぞ」



そんな声が聞こえ、私は目を覚ます。

どうやら眠ってしまっていたようで、時刻は既に夜の7時を回っていた。

声をかけてきたのは絢士郎で、いつものように気だるげな顔をしている。



 「こんな時間に寝てて、勉強しなくていいのか?」


 「……うるさいな、夜やらるから大丈夫だし」


 「そうかよ。なら、ちゃんと飯食わねえとな」



そんな可愛らしい言い合いをしながら、2人でリビングに向かう。

かつては罵詈雑言を吐いていたこの口も、今では丸くなったものだ。



 「……ねえ、唐沢君から何か聞いた?」


 「はあ?」



口に出てから、私は口を塞ぐ。

無意識に出てしまった言葉だからだ。

絢士郎も突然そんな事を聞かれて首を傾げている。



 「別に、何も聞いてないけど……」



不思議に思いながらも、絢士郎は答える。



 「そ、そう……ならいいけど……」


 「あ、でもそういえば……」



何かを思い出したかのように絢士郎は言う。



 「あいつ、クリスマスに─」


 「言わなくていい!」



絢士郎の言葉を遮り、彩華は叫ぶ。

突然声を上げたことで、絢士郎も驚いた表情をする。

それでも、変に思われたとしても、その先を聞きたくなかった。



 「……早く行こ。ママも待ってるし」


 「あ、ああ……」



私はその話から逃げるようにリビングへと向かった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



翌日、いつもと変わらない日常が始まったけれど、私はどこか上の空だった。



 (何を気にしてんだろ……私には関係ないのに……)



唐沢君がどこで誰と何をしようと、私には関係ない。

唐沢君にとって私はただの、親友の妹なのだから。



 「よっ!おはよう彩華」



そんな私の気持ちなど知らない唐沢君はいつものように話しかけてきた。

その笑顔を見て、妙に怒りが湧く。



 (何平然としてんの?あんな可愛い子にクリスマスデートに誘われたってのに、他の女子に慣れなしくしない方がいいでしょ)



 「……何?」


 「何か怒ってるか?」


 「別に、怒ってないけど?」


 「怒ってるじゃねえか……何かあったのか?」


 「誰のせいだと……」



私の悪態は唐沢君の耳には届かず、彼は首を傾げている。

私は深呼吸をして落ち着く。

ここで怒りを顕にするなんてかっこ悪くて理不尽だ。

唐沢君に悪気はないのだから。



 「それで?何の用?」



どんな事でもいつものように軽口を叩けばいい。

何も変わらない、いつものやり取りをすれば終わる。



 「ちょっと相談なんだけどさ……クリスマスの事なんだけど─」



その単語を聞き、私は勢いよく立ち上がった。



 「うおっ!?ど、どうした?」


 「……何?自慢?」



私の口から、怒気の籠った声が出る。



 「はぁ?何の話だ?」



何を言っているのかと唐沢君は首を傾げる。

その態度が、より私をイラつかせる。



 「……私に相談なんてしても、意味無いでしょ」



イラつきながらも、冷静に答える。



 「……いや、彩華にしか頼めないんだよ」


 「……何で?」


 「何でって……女の子だから?」



その言葉に、私の糸が切れた。



 「……何それ」


 「いや、何でって聞かれると困るって言うか……」


 「クリスマスデートの相談なんて、受けたくないんだけど」


 「クリスマスデート?何の話を─」


 「うるっさい!」



その声に、さすがのクラスメイト達も反応する。

教室に居た人達が皆私と唐沢君を見る。



 「お、落ち着けよ彩華…」


 「落ち着け?落ち着けないような事言ってきたのはそっちでしょ!相談なんてせずに、勝手に楽しめばいいじゃん!こっちの気も知らないでさ!」



私は、昔のように喚いていた。

何も出来ない自分に苛立って、周りに当たっていたあの頃のように。



 「何で私が、あんたと知らない女のデートの相談を受けなきゃいけないの?何で私が、あんたと別の女の背中を押さなきゃいけないの?意味わかんない!」



子供のように吐き出した。

言いたかった事を、唐沢君に理不尽に叫んだ。

ふと顔を上げると、唐沢君が驚いた表情を見せていた。

当然の反応だ。

こんな面倒くさい女を前にしたら、みんなそんな顔をするだろう。



 (……何も変わってないじゃん、私……)



失恋して、3年生になって、部活で部長にもなったのに、根本的に変わってない。

気に入らないから声を荒らげて、他人に当たって、本当に最低な女だ。

私は鞄を持って教室を出ていく。



 「あ、おい!彩華!」


 「うっさい!ついてくんな!」



私は唐沢君を拒絶して、学校を後にした。

もう、以前のようには話せない。

そんな確信があった。

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