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第37話②

 みさきさんの件が片付いたあの時、親父に言われた言葉を思い出す。


 「絢士郎、お前今一番会いたい人って誰だ?」


 「なんだよ急に」


 「いいから思い浮かべてみろ」


 言われるがままに俺は会いたいと思う人を思い浮かべる。

 正直、自分でも想像出来ない。

 友人なのか家族なのか、それとも……

 俺が思い浮かべた人物は、思ってもみなかった人だが、納得できる人だった。


 「思い浮かべたか?」


 「……まあ」


 「これは自論だけどな、何かをなしえた時や、決着をつけた時、真っ先に会いたいと思う人が自分にとって一番大切な存在だと俺は思う」


 奇しくも、その親父の自論には俺も納得出来た。


 「それだと、あんたは何人も思い浮かんでそうだな」


 「ご名答」


 「……まじで最低だな」


 この時、俺は自分の気持ちを自覚した。

 だから、目の前の少女への返答は決まっている。


 「俺は……お前の気持ちには応えられない」


 遠回しな優しい言葉は言わない。

 それはよりみゆうを傷つける。


 「俺は─」


 「それ以上はいい」


 途中でみゆうが言葉を遮る。

 彼女の表情は、悲しいものではなく、むしろ清々しいほど晴れやかな表情をしている。


 「予想はしてたんだ。でも、一縷の望みに賭けたかったの。はっきり言ってもらえて良かった」


 彼女にかける言葉が見つからなかった。

 俺は黙り込んでしまう。


 「ほら、学校に行こ。あいつも来てるだろうし」


 あいつが誰を指しているのかは明白だ。


 「……ああ、そうだな」


 結局、何も言えないまま歩き始める。

 

 「あ!そうだ」


 しばらくしてみゆうが立ち止まって言う。


 「私、家に忘れ物したんだ、ごめん!先に行ってて」


 嘘だということは分かった。

 けれど、振ったばかりの子とずっと一緒には居られない。


 「分かった」


 俺は一人歩き出す。

 何か言った方がいいのだろうか。

 

 「みゆう」


 「ん?」


 「……何かあったら頼れよ」


 考えて出した答えは、在り来りな言葉だった。


 「……うん。ありがとう」


 それ以上は何も言えず、俺は学校へと向かった。

 

 (これで良かっただろうか……)


 そう思った自分の頬を俺はパチンと叩く。

 こんな風に全てをすくい上げようとするのはいけない。

 その道を行けば、全てを失うと知っている。

 そうして失った男の背中を誰よりも近くで見た。


 「……よし!」


 気を紛らわせるように、俺は学校まで走った。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 「頼れ、か」


 走って行くケンの背中を見ながら、私は一人呟く。

 ずっと、助けられてきた。

 あの母が居ながら、正気を保ち続けれたのは、彼のおかげだと思う。

 近くに居てくれるだけで安心した。


 「……もう、頼らないよ」


 これが私なりの覚悟。

 これ以上頼ってしまったら、私は前に進めない。

 壁にぶち当たった時、ケンが居なくても乗り越えられるようにならなければならない。


 (いや、少し違うか)


 頼らないでは無い。

 ()()()()()()()()

 ケンには、大切にしなければならない人が居る。

 私なんかに、気持ちを割いて欲しくはない。


 「……さよなら。ケン」


 2年生に上がる前に、私は甲真を去る。

 それをケンに伝える事はない。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 麗奈の叫び声を聞いて、俺は少し後ずさる。


 「そ、そんなに驚くか?」


 「だ、だって!私はてっきり─」


 「てっきり?」


 何か言いかけた麗奈だが、ハッとした表情をした後顔を赤くする。


 「な、なんでもないです……でも、本当に私でいいんですか?」


 「何が?」


 「花野井さんですよ!彼女の事、見ていなくて」


 麗奈の言いたいことも理解出来る。

 けれど


 「前にも言ったろ?あいつは妹だ。それに、俺が居たら、邪魔しちまうだろ?」


 あえて何の事かは言わなかった。

 あの母親の件が片付いたなら、俺達の間に歪な関係はない。

 だから


 「これからは、ただの友達だよ」


 「友達ですか?妹ではなく?」


 「……どっちもかな。それより、早く準備手伝うぞ。クラスの奴らに怒られる」


 「あ!ま、待ってください!」


 俺達は二人並んで歩く。

 ふと麗奈の手を握る。


 「ど、どうしたんですか急に!?」


 麗奈は顔を赤くしながら慌てている。

 だが、手を離そうとはしない。


 「……いや、何でもない」


 そんな彼女を見ながら、俺は笑って気恥しさを誤魔化した。

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