第37話①
その言葉を聞いて、目の前の少女を見る。
顔はほのかに赤くなっていて、勇気を出して言ったのだろう。
冗談で言ったようには見えない。
「俺は─」
思い出す。
あの時の親父の言葉を。
そして、俺の気持ちを。
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「麗奈!いつまで寝てるの!今日は文化祭の準備に行くんでしょ?」
時刻は9時を回る頃、部屋の扉は開かれ、お母さんの叫び声が聞こえる。
「またこんなに散らかして!昨日までは綺麗だったじゃない!」
昨日までは彩華さんがウチに居たため、部屋はある程度片付けた。
片付けたと言っても空いているスペースに詰め込んだだけなので、一日経てば元通りだ。
「お母さん、用事で出かけるから。ちゃんと学校に行くのよ!準備だからサボっていいなんて思っちゃダメよ!ただでさえ、昨日も一昨日も休んだんだから」
「う~ん……」
力ない返事を聞いて、お母さんは出かけて行った。
扉が閉まる音を聞いて、私も体を起こす。
(……行きたくないなー)
お母さんが言ったように、私はこの2日間学校を休んでいる。
理由は明白で、絢士郎君と会うのが怖いからだ。
同じクラスなのだから、行けば必ず会うことになる。
(絢士郎君は、今頃…)
大きな事を乗り越えたであろう二人だ。
今頃仲良くやっているかも。
もしかしたら、付き合っているかもしれない。
そんな二人を見たいとは当然思わない。
(でも、みんな心配してるし……)
スマホにはクラスメイトからのメッセージが大量に来ている。
人気者なのはありがたいことだけれど、圧というのを感じる。
(……さすがに行くか)
ベットから立ち上がり、足の踏み場のない部屋を抜け、顔を洗う。
朝ごはんを食べて、制服に着替える。
そして靴を履いたところで
(やっぱり、行きたくなーい)
またも足が重くなる。
やっぱり休もうか。
そんな考えがよぎった時、新しいメッセージが届く。
差出人は花野井さんだ。
『あんたの勝ち』
メッセージはその一言だけだった。
全く意味は分からず、首を傾げてしまう。
「なんだか、気持ち悪い」
モヤモヤが続くのは嫌なので、本人に直接聞かなければ。
そんな目的ができたからか、私は玄関の扉を開け、学校に向かった。
「お!やっと来たか」
「え!?」
学校に到着すると、門の前で絢士郎君が待っていた。
時刻は既に10時前なので、準備はとっくに始まっている時間だ。
「な、なんでここに!?」
「なんでって、麗奈を待ってたんだよ」
「ま、待ってた!?花野井さんは!?」
「ああ、その事な。麗奈が背中を押してくれたおかげで、みゆうの件は一段落ついたよ。ありがとう」
「……そうですか」
いつの間にか下の名前で呼んでいる。
(やっぱり、そういうこと)
「良かったです。お役に立てて」
溢れだしそうな涙を堪えて、なんとか笑顔で言う。
「それで、この前のケーキ屋にいてなんだけど、明日でいいか?」
「……はい?」
この人は何を言っているのだろう。
「いや、だから、みゆうの件で無くなったケーキ屋だよ。行きたいって言ってたろ?」
「……えっと、絢士郎君は花野井さんと付き合ってるんですよね?」
「は?何言ってんだ。俺の彼女は麗奈だろ?」
「……え?」
「どうし─」
「えーーー!?」
いきなりの言葉に、私は周囲を気にせず叫んでしまった。




