第34話②
「みゆう、悪いんだけど1週間くらい家を出ておいてくれる?お母さん家で大事な用があるの」
そう言ってお母さんは私にお金を渡す。
こういう時、お母さんが何かよからぬことをしようとしていることは分かっている。
けれど、それを咎める勇気が私にはない。
「……うん、分かった」
できる限り笑顔で答える。
こうなった時、私はホテルには行かず近所のネットカフェに滞在する。
24時間営業で、フリータイムにしておけば10時間に一回会計することで何日も滞在できる。
ホテルの方が綺麗で、寝心地もいいけれど、ネットカフェなら飲み物は飲み放題だし、食事も済ませる事ができるので、ホテルよりも充実している。
今日で既に3日滞在している。
喉が渇いたのでドリンクバーの場所へと向かうと、
「お!やっと見つけた」
「お義父さん……」
「元気そうだな、みゆう」
お義父さんは笑顔でそう言った。
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「ど、どういうことだ?」
学校から帰宅すると、何故かリビングに花野井が居た。
親父も居るところを見るに、十中八九親父が連れてきたのだろう。
「おう、おかえり絢士郎」
「呑気な事言ってる場合か!なんで花野井がここに居る?」
そう聞いてはいるが、予想はできる。
あの女が絡んでいることは間違いない。
「それを聞いてどうするんだ?」
「いや、どうすも何も─」
「お前には関係ないことだ。この件は俺がどうにかするから、お前は何もするな。いいな」
有無を言わさず親父と花野井はリビングを出る。
取り残された俺は、とりあえず笹川に連絡を入れる。
安堵したクマのスタンプが送られてきたのを確認してスマホの画面を閉じる。
胸の奥がザワつく。
花野井がウチに居て、和道の弟がどこに居るか分からなくなっている。
この2つの繋がりがあるというのは確定だろう。
このことを親父は知っているのだろうか。
せめてこの情報だけでも…
そこまで考えて、俺は自分の額に拳を当てる。
「何関わろうとしてんだ!」
今親父に言われたばかりだ。
俺は関係ないと。
自分から花野みさきの案件に踏み込んで、またトラウマが再燃したらどうする。
元を辿れば俺も被害者。
この件は親父に任せるのがベストだ。
そのはずなのに……
(なんで、こんなにイラつくんだ……)
結局、俺は何も決断できず、時間がすぎるばかりだった。
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「だから!俺は大丈夫だから!」
そう言って少年は母親からの電話を切る。
「これでいいのか?みさきさん」
少年の視線の先には、優しく微笑む花野井 みさきが居る。
「ええ、良い子ね。そんな蒼太君にはご褒美」
そう言って、花野井 みさきは和道 蒼太を優しく抱きしめる。
蒼太は顔を赤らめながらも、少し嬉しそうな表情をする。
「で、でも本当にいいのかな……母さん、すごい怒ってたけど……」
「大丈夫、これはゲームなんだから」
「そ、そうだよな!」
「ええ、だから心配しなくても大丈夫。ほら、私と楽しい事をしましょう」
花野井 みさきと蒼太はリビングを出た。




