第32話①
デート当日、集合時間5分前に映画館のある近くの商業施設に到着した。
冬咲は既に来ているという事で、申し訳ない気持ちになりながら待ち合わせ場所に向かう。
(い、行きづれェ……)
待ち合わせ場所に到着すると、周囲の人がチラチラと一人の少女を見ている。
長袖のワンピースを着た一際目立つ冬咲の元に自分が行くことを考えると、少し恥ずかしい。
(しかしまあ、やっぱ冬咲は可愛いんだな)
目の前の光景を見て、改めて冬咲の容姿は整っているのだと実感する。
今までもそういう認識ではあったが、隣で感じるのと遠目から見るのとではまた違ったものを感じる。
そんな風に眺めていると、冬咲が俺に気づく。
眠そうだった表情がパァーっと明るくなり、俺の所に駆け足で来る。
「おはようございます!三井君」
「おはよう。悪いな、待たせて」
「気にしないでください。ほんの数分ですから」
「なんか眠そうだけど、大丈夫か?」
「大丈夫です!楽しみすぎて、少し寝不足なだけですから」
はにかみながら言う冬咲を可愛いと思ってしまった。
いや、思っても別に問題ないのだが……
「それじゃあ、早速行きましょう!」
俺達は二人並んで最上階の映画館に向かった。
休みの日ということもあり、映画館には大勢の人が押し寄せていた。
女の人の比率が高く、皆俺達が見る恋愛映画のチケットを持っているようだ。
「そんなに人気なのか?今日の映画って」
「話題の俳優さんが出ているですよ。私は物語が気になる派ですけど」
つまりは俳優目当ての人も居るということか。
「それにしても、これ買えるのか?」
「公開初日ですから、上映スケジュールも多く確保されてるはずです!」
冬咲の言う通りで、俺達の見る映画は30分事に時間が割り振られており、たくさんのスクリーンで上映するようだ。
その甲斐あって、俺達は昼過ぎの時間の席を確保することに成功した。
「この時間なら、昼飯食べても問題なさそうだな」
「そうですね。三井君は何か食べたいものとかありますか?」
「俺は特に。冬咲は?」
「私、行きたい所あります!」
「オッケー、じゃあそこに行こうか」
昼飯を食べる店に向かおうと歩き出した所で、見覚えのある姿が俺達の視界に入った。
「あれ?梓さん?」
俺が呼ぶ前に冬咲が話しかけて、加瀬が肩を跳ねさせ振り向く。
「れ、麗奈ちゃん……と三井君」
俺は軽く手を上げて答える。
「梓さんも映画ですか?」
「ま、まあ、ね。二人は……デート?」
「え、えっと……」
加瀬の質問に冬咲は顔を赤くする。
「……まあ、そんなところだ」
恥ずかしそうにしている冬咲が答えないので、代わりに俺が答える。
しかし、何故か冬咲は頬を膨らませている。
「加瀬は一人か?」
そう聞くと、加瀬はギロリと俺を睨んでくる。
(やば、聞いちゃいけなかったか)
「そうだけど、何か問題でも?」
「いや、別に問題は─」
「何?一人で寂しい奴だって?一人映画は内容に集中できて、それはそれで楽しいんだからな!」
地雷を踏んでしまい、加瀬の口調がいつもより悪くなる。
落ち着かせようと考えていると、加瀬の持っているチケットに目が行く。
「それ、俺達も見る映画だ」
時間は違うようだが、俺達の見る予定の映画であることは間違いない。
それを言うと、加瀬は顔を赤くして早口で言う。
「一人で恋愛映画見たっていいでしょ!べ、別に、これを見て、冨永君へのアプローチのヒントないかなとか思ってないから!」
言い切った所で、加瀬はハッとして、さらに顔が赤くなる。
「そ、そろそろ行かないと……じゃあね二人とも」
恥ずかしさで我慢出来なくなったのか、加瀬は俺達と別れて下の階へと降りていった。
「なんか、加瀬にも色々あるんだな」
「そうですね」
普通に話しかけたら、冬咲の声が少し怒っているようだった。
「何か、怒ってる?」
「別に、怒ってませんけど」
そう言いながらスタスタと冬咲は歩き出す。
俺はその後ろを着いていく。
「……やっぱり、怒ってるよな?」
「怒ってませんよー」
そう言いながらも歩くスピードが早いので、怒っているのだろう。
理由は分からない。
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(すんなりデートとか言えちゃうんですね)
「……私ばっかり」
そんな麗奈の独り言は絢士郎に届くことはなく、麗奈の心境を絢士郎は知る由もなかった。