第31話②
「はぁ~~」
「やけにでかいため息だね。なんかあった?」
バイト中、最近の事を思い出してついため息が出てしまう。
そんな俺を見て、笹川が首を傾げながら聞いてくる。
「いや、別に」
「さすがに嘘でしょ……彼女ができたばかりの幸せ者のため息じゃなかったよ?」
笹川も俺と冬咲が付き合い始めた事は当然のように知っているようだ。
「……まあ、俺にも色々とあるんだよ」
さすがに冬咲の熱量と自分の熱量を比べて、罪悪感が強いとは言えない。
そんな事を言えば、俺が不誠実な奴と思われてしまう。
(いや、実際そうか)
冬咲を傷つけたくないから付き合う。
好きだけど恋かは分からない。
そのくせ、嫉妬だけは一丁前にする。
これを不誠実と言わずして何と言うのか。
考えただけで、より罪悪感が増す。
「でも、正直意外だったなー」
「何が?」
「いや、ケンティーはみゆうとお似合いだなって思ってたから」
それを言われて、今度は俺の方が首を傾げる。
それを見て笹川が説明する。
「なんて言うか、空気感?がすごくお似合いだったんだよね。冬咲さんと並んでるのを見るとお似合いとも思うけど、みゆうとはまた少し違うような……上手く言えないや。ごめん、忘れて」
軽く言ってくれるが、簡単に忘れられるような内容では無い。
笹川が感じているということは、誠あたりも感じてそうな事だ。
「あ!でも、みゆうとケンティーは兄妹なんだよね。だからかも」
「え?」
「え?」
さらっと言われて、俺は目を丸くして驚く。
「なんで、知ってんの?」
「さすがに気づくでしょ。確信した理由はまこっちゃんに聞いたから」
納得してしまった。
考えてみれば、同じ中学だった者は少ないとはいえ居る。
その内バレることである。
「まあ、知ってるなら早いな。多分笹川が言う空気感ってのは、元兄妹だからだよ」
「本当にそれだけ?」
「……それだけだよ」
言いながら、胸のどこかに覚えた引っかかりに気付かぬフリをした。
「三井君!デートをしましょう!」
翌日、教室に入るやいなや、冬咲が目を輝かせながら言ってくる。
「急だな」
「ダメですか?」
「……いや、問題ねえよ。どこか行きたいのか?」
そう聞くと、一枚のポスターを手渡される。
どうやら恋愛系の映画らしく、明日土曜日が公開初日のようだ。
恋愛モノというのが恥ずかしいのか、少し顔が赤い。
「…いいよ、見に行こうか」
「は、はい!」
了承すると、嬉しそうに席に戻って行った。
そんな冬咲を可愛いとは思う。
(でも、これは恋か?)
その境界線が、俺には分からなかった。
「朝からイチャイチャイチャイチャと……羨ましい限りですな~」
「うお!?なんだ、陸斗か」
考えながら立っていると、陸斗が後ろから肩を掴んで話しかけてきた。
セリフの割には、表情は真剣に見える。
「……なんかあったか?」
「ああ、それが……いや、やっぱいいわ」
心配になり聞いてみると、何かを濁すように陸斗は教室を出た。
そろそろチャイムが鳴るのに、どこに行くのだろうか。
気になりはしたが、後をつけるのは野暮なので、俺は自分の席に戻った。
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「叔母と母は歳が離れていて、叔母の事は、姉のように思っていました。」
今日絢也は、以前カフェで話した若い男の家に来ていた。
「僕の両親はとても忙しくて。家で一人な事が多かったんです。そんな時、あの人はいつも遊びに来てくれました。だから、好きだったんです。よくあるでしょ?子供が大人の女の人に憧れること」
若い男は良い思い出を話すように、優しい声音で語る。
「だから、叔母さんがああなった時、本当に怖かった。まるで何かに操られてるんじゃないかって思うくらいに」
少しずつ、男の手が震え始める。
その手を、隣に居る女性がギュッと握る。
すると、男は落ち着き始め、絢也に頭を下げる。
「すみません、取り乱して」
「いや、無理もない。こちらこそ、辛いことを思い出させた」
絢也も謝罪し、話を続ける。
「彼女と出会って、トラウマは少しずつ薄れています。そして、冷静に考えると、僕はあの子に酷い事をしたと思ったんです」
若い男は涙を流し、後悔の言葉を口にした。




