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第29話①

 「どうせなら、好きな人と一緒に居たいじゃないですか」


 言えた。

 無意識にとか、咄嗟にじゃない。

 自分の意思で、言おうと思ったタイミングで。

 今までにないくらい緊張しているのが分かる。

 言ってすぐ、顔を逸らしてしまった。

 彼の顔を見るのが怖い。

 困らせてしまった。

 もしかしたら、気持ち悪いと思われたかも。

 心臓の音が聞こえていないか不安になる。

 でも、後悔はない。

 もし、関係が終わるとしても、今言わなければならないと思った。

 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 以前話したように、私の父はろくでもない男でその影響か、お母さんが再婚してすぐの頃は私は人間不信だった。

 お母さんと私達を助けてくれたお義父さん以外の人のことは拒絶していた。

 それは義兄も例外では無い。

 話しかけるなと言って、最初から関係を絶った。

 そんな私が、小学校で馴染めるはずもなかった。

 1年生なのに転校してきて、みんな話しかけてくれたのに、私は拒絶した。

 次第に話しかけてくれる人は居なくなって、私は一人になった。

 でも、家の中は楽しかった。

 お母さんはよく笑うようになったし、お義父さんは陽気な人で、私を笑顔にしてくれた。

 でも、義兄は違った。

 学校では楽しそうな彼は、家では静かだった。

 私と義兄は対象的な性格をしていた。

 だからなのか、あまり兄という感じはなく、他人だった。



 そんな彼の事を意識し始めたのは、3年生になってすぐの頃だ。

 その日、教室に忘れ物をした私は、放課後に学校に戻ってきた。


 「三井さんって、なんかキツイよな」


 当時、共働きの人のために用意された放課後に子供を預かるクラブがあった。

 そこに居た子達が私の陰口を言っていたのだ。

 咄嗟に隠れて、聞き耳を立てた。


 「わかる!話しかけても無視されるんだよね!」


 「それに、何か睨んできてる感じしてよー」


 それは違う。

 ただ怖いだけで、睨んでいるわけではない。

 無視に関しては、否定出来ないけれど……

 何を話していいか分からないだけ……


 「家でもあんな感じなの?三井君」


 その名を聞いて、クラブの部屋を覗き込む。

 そこには、何故か義兄が居た。

 家にお母さんは居るのに、何故かクラブに入り浸っていた。

 きっと酷い事を言われる。

 そう思った。

 けれど─


 「いんや、家では自分のお母さんの手伝いとかしててめっちゃいい子だよ!」


 まさかの言葉に私は目を見開いた。


 「睨まれてるってのは多分怖がってるんだ。父さんが言うには、何か色々大変だったらしいし。無視に関しても、恥ずかしいだけなんじゃないか?」


 「そうなのかな?」


 「そうそう!だから、これからも諦めずに話しかけてやってよ!」


 彼は、私を見てくれていた。

 私は拒絶していたのに、彼は私を気にかけてくれていた。

 私の居ない所で、私のことを褒めてくれた。

 たったそれだけの事が、幼かった私が彼を信頼する理由になった。

 

 その日から、私は兄と仲良くなろうと思った。

 けれど、話しかけるなと言った手前、自分からは話しかける事が出来ず、付きまとう形になってしまった。

 それでも、いつかは話せると思っていた。


 「お母さん、お義父さんと別れることにしたの。ごめんね、麗奈」


 その日は突然訪れた。

 お母さんとお義父さんの離婚。

 お母さんは、もう積極的に会うことはないと言った。

 私はその日、泣き続けた。

 家族が離れ離れになることに、彼ともう会えないと思ったことに。



 お母さんが離婚した後、私達は小さなアパートに住んでいた。

 中学生になった私は、泣き虫ではなくなり、将来少しでもお母さんを楽させるためにとにかく勉強をしていた。

 友達は多くなかったけれど、悪くない日常だった。

 けれど、心のどこかで寂しさがずっとある。

 それが何なのか、当時は分からなかった。



 中学2年生になり、私は進学校としても有名な甲真高校のオープンスクールに行った。

 スポーツの名門だが、進学校としても有名で、試験で1位を取れば特待生として学費の免除制度がある高校だ。

 その帰り、駅近くのモールで買い物をしていた。

 楽しかった私は少し浮かれていて、途中1人の男の子とぶつかってしまった。


 「っ!すみません!─え……」


 「ああいえ、こちらこそ」


 4年ぶりの再開(再会)だ。

 成長して、顔も大人っぽくなっていたけれど、直感した。

 私の兄だった人だと。


 「?もしかして、どこか怪我しましたか?」


 驚きのあまり固まってしまった私を見て、彼はそんな勘違いをする。


 (……気づいてないの?)


 私は気づいたのに。

 そう思ったけれど、気づかなくて当然だ。

 当時の私は、眼鏡をかけていて前髪も長く、誰か判別しづらい見た目をしていた。

 

 (言わなきゃ、後悔する!)


 「あ、あの─」


 「何してんの?」


 自分は三井 麗奈だ、と言おうとしたところで、別の人の声がして、私は止まる。

 そして、その声の主を見て絶句した。

 綺麗な金髪で美人な人と彼は一緒に居た。


 この時、私は初めて花野井 みゆうの存在を知った。

 

 

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