表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/95

第28話②

 色々とあった体育祭だが、いよいよ残り競技もわずかとなり、今行われている女子スウェーデンリレーが終われば、後は男子スウェーデンリレーと借り物競争のみだ。

 既に入場門で待機していた俺は、隣で震えている陸斗を見ながら呆れていた。


 「お前、何をそんなにビビってるんだ?」


 「そりゃビビるだろ!相手は誠だぞ!」


 陸斗が言うように、誠もかなりの運動神経を持っている。

 短距離に関しては俺よりも速い。

 けれど、俺の相手に比べればマシだと言いたいが、ここで言い合いをしても得がないので黙っておく。


 「三井 絢士郎、少しいいか?」


 ストレッチをしていると、徳松が真剣な表情で話しかけてきた。


 「何だ?また煽りにでもきたか?」


 「いや、もうそんなことはしない」


 そう言うと、徳松は頭を下げる。


 「お、おい!」


 「数々の無礼な発言、すまなかった。お前を見ていれば分かる。お前は人をおちょくるような奴では無い」


 分かって貰えたようで良かったと思う反面、勝負を意識していた身としては、少し拍子抜けである。

 そう思ったが、上げた徳松の顔は諦めた顔ではなかった。


 「勝った時の件は無かったことにしてくれ。自分勝手だが済まない」


 「いや、それはいいんだけど、決闘はやめないのか?」


 そう聞くと、徳松は口元を緩める。


 「それは俺のプライドの問題だな。お前に負けたままではいられん。最後のリレーは意地の勝負だ」


 「そっか。OK、なら俺もただお前に勝つために走るよ」


 「ありがとう。お互いいい勝負をしよう」


 俺達はその場で握手をして和解した。

 徳松は変な奴だが、悪い奴ではない。

 ただちょっと真っ直ぐすぎるだけだ。

 ただ……


 「でもお前、告白12回はやりすぎだと思う」


 和道から聞いた告白魔伝説である。


 「む!仕方ないだろ。好きになったらすぐに告白してしまうんだ」


 そんな徳松とは上手くやっていけそうだが、これ以上仲良くなりたいとは思わなかった。

 リレーの結果は、3走の誠が他クラスを寄せ付けない圧倒的な走りを見せ、1年4組が優勝した。

 俺達は4位という結果で幕を閉じた。




 俺の出場する種目は全て終わり、残すは借り物競争のみとなった。

 俺のクラスからは、冬咲が出場メンバーに入っている。

 さっきの事でクラスの男子共が何か言っているが、面倒なので適当にあしらいながら観戦していた。

 借り物のお題は比較的簡単なようで、生徒会の人だったり、定番のメガネだったりと次々と競技が進んでいく。

 そしてついに、冬咲の番がやってきた。

 スタートと同時に、選手が30m先にあるお題の書かれた紙が置かれている机に走っていく。

 冬咲は足が遅く、机についた時点では最下位だったが、周りのお題は運悪く難しいのかまだ誰もゴールしていない。

 冬咲も紙を取り、お題を確認した所で俺と目が合った。

 そのまま目を合わせた状態で、俺の方へと走ってくる。


 (おいおい、まさか!)


 「三井君!一緒に来てください!」


 嫌な予感は当たり、俺は冬咲のお題の解答として選ばれた。

 さっきの俺の発言も相まって、クラスの女子からはキラキラした目で見られ、男子からはブーイングを浴びせられ、他クラス他学年も興味を持っている者も居る。

 俺はいたたまれない気持ちになりながら冬咲と共にゴールする。

 冬咲が係の人にお題の書かれた紙を渡す。


 「それでは!お題の発表です!1年1組のお題は─」


 (……好きな人、とかじゃないろうな…)


 それはあってはならないと思いながらも、何故か心臓がうるさい。


 「クラスの男の子!これは全お題で一番簡単なお題ですね!1年1組はラッキーです!」


 グラウンドには、歓声と残念そうな声が両方聞こえる。

 俺達は指示に従い、1位の旗の前に座る。


 (クラスの男子、ね)

 

 望んでいた展開のはずが、少し残念と思ってしまっている自分がいる。


 「残念そうな顔ですね、何か期待してたんですか?」


 俺の顔を見て察したのか、冬咲が言う。


 「ま、少しな。どうせなら、一番カッコイイ男子とかなら良かったのにな」


 「ふふっ、安心してください、そのお題だったとしても三井君を連れてきましたよ」


 からかおうと言ったはずなのに、冬咲は動揺することも無く逆にからかわれてしまった。


 「て、てか、クラスの男子なら他にもっといただろ?何で俺?」


 話を逸らそうとありきたりな質問をする。


 「……そうですね、確かに他にもたくさん居ました。でも─」


 冬咲が俺の方を見て、しっかりと目を合わす。


 「どうせなら、好きな人と一緒に居たいじゃないですか」


 ゴールテープの方では、他クラスの人がお題の物を持ってゴールし、グラウンドには歓声が響いている。

 それなのに、この瞬間、俺の時間だけが止まっている気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ