第28話②
色々とあった体育祭だが、いよいよ残り競技もわずかとなり、今行われている女子スウェーデンリレーが終われば、後は男子スウェーデンリレーと借り物競争のみだ。
既に入場門で待機していた俺は、隣で震えている陸斗を見ながら呆れていた。
「お前、何をそんなにビビってるんだ?」
「そりゃビビるだろ!相手は誠だぞ!」
陸斗が言うように、誠もかなりの運動神経を持っている。
短距離に関しては俺よりも速い。
けれど、俺の相手に比べればマシだと言いたいが、ここで言い合いをしても得がないので黙っておく。
「三井 絢士郎、少しいいか?」
ストレッチをしていると、徳松が真剣な表情で話しかけてきた。
「何だ?また煽りにでもきたか?」
「いや、もうそんなことはしない」
そう言うと、徳松は頭を下げる。
「お、おい!」
「数々の無礼な発言、すまなかった。お前を見ていれば分かる。お前は人をおちょくるような奴では無い」
分かって貰えたようで良かったと思う反面、勝負を意識していた身としては、少し拍子抜けである。
そう思ったが、上げた徳松の顔は諦めた顔ではなかった。
「勝った時の件は無かったことにしてくれ。自分勝手だが済まない」
「いや、それはいいんだけど、決闘はやめないのか?」
そう聞くと、徳松は口元を緩める。
「それは俺のプライドの問題だな。お前に負けたままではいられん。最後のリレーは意地の勝負だ」
「そっか。OK、なら俺もただお前に勝つために走るよ」
「ありがとう。お互いいい勝負をしよう」
俺達はその場で握手をして和解した。
徳松は変な奴だが、悪い奴ではない。
ただちょっと真っ直ぐすぎるだけだ。
ただ……
「でもお前、告白12回はやりすぎだと思う」
和道から聞いた告白魔伝説である。
「む!仕方ないだろ。好きになったらすぐに告白してしまうんだ」
そんな徳松とは上手くやっていけそうだが、これ以上仲良くなりたいとは思わなかった。
リレーの結果は、3走の誠が他クラスを寄せ付けない圧倒的な走りを見せ、1年4組が優勝した。
俺達は4位という結果で幕を閉じた。
俺の出場する種目は全て終わり、残すは借り物競争のみとなった。
俺のクラスからは、冬咲が出場メンバーに入っている。
さっきの事でクラスの男子共が何か言っているが、面倒なので適当にあしらいながら観戦していた。
借り物のお題は比較的簡単なようで、生徒会の人だったり、定番のメガネだったりと次々と競技が進んでいく。
そしてついに、冬咲の番がやってきた。
スタートと同時に、選手が30m先にあるお題の書かれた紙が置かれている机に走っていく。
冬咲は足が遅く、机についた時点では最下位だったが、周りのお題は運悪く難しいのかまだ誰もゴールしていない。
冬咲も紙を取り、お題を確認した所で俺と目が合った。
そのまま目を合わせた状態で、俺の方へと走ってくる。
(おいおい、まさか!)
「三井君!一緒に来てください!」
嫌な予感は当たり、俺は冬咲のお題の解答として選ばれた。
さっきの俺の発言も相まって、クラスの女子からはキラキラした目で見られ、男子からはブーイングを浴びせられ、他クラス他学年も興味を持っている者も居る。
俺はいたたまれない気持ちになりながら冬咲と共にゴールする。
冬咲が係の人にお題の書かれた紙を渡す。
「それでは!お題の発表です!1年1組のお題は─」
(……好きな人、とかじゃないろうな…)
それはあってはならないと思いながらも、何故か心臓がうるさい。
「クラスの男の子!これは全お題で一番簡単なお題ですね!1年1組はラッキーです!」
グラウンドには、歓声と残念そうな声が両方聞こえる。
俺達は指示に従い、1位の旗の前に座る。
(クラスの男子、ね)
望んでいた展開のはずが、少し残念と思ってしまっている自分がいる。
「残念そうな顔ですね、何か期待してたんですか?」
俺の顔を見て察したのか、冬咲が言う。
「ま、少しな。どうせなら、一番カッコイイ男子とかなら良かったのにな」
「ふふっ、安心してください、そのお題だったとしても三井君を連れてきましたよ」
からかおうと言ったはずなのに、冬咲は動揺することも無く逆にからかわれてしまった。
「て、てか、クラスの男子なら他にもっといただろ?何で俺?」
話を逸らそうとありきたりな質問をする。
「……そうですね、確かに他にもたくさん居ました。でも─」
冬咲が俺の方を見て、しっかりと目を合わす。
「どうせなら、好きな人と一緒に居たいじゃないですか」
ゴールテープの方では、他クラスの人がお題の物を持ってゴールし、グラウンドには歓声が響いている。
それなのに、この瞬間、俺の時間だけが止まっている気がした。