第27話④
「えーっと……冬咲さん?怒ってます?」
グラウンドから2人で離れ、食堂と校舎を繋ぐ廊下まで来たところで冬咲が止まる。
ここまで来る数分、ずっと黙っているので、相当怒っているのかもしれない。
「さっきの、どういう意味で言ったんですか?」
さっきのとは、俺が徳松にしてしまった宣言の事だろう。
どういう意味だと聞かれても、俺も無意識に発した言葉なので、分からない。
「えっと、つい言ってしまったっていうか……」
「じゃあ、特別な意味もなく、あんな事を言ったんですか?」
より語気を強めて聞いてくる。
「いや、ほら!お前、徳松に告白されたろ?」
「されましたけど、お断りしました。なので、この話と繋がりません!そもそも、どうしてその事を三井君が知ってるんですか!」
「それは…まあ、今更隠してもしょうがないよな」
俺はここ数日の事を冬咲に話した。
徳松が俺が冬咲を弄んでいると勘違いしていること、その理由で決闘を申し込まれたこと、冬咲は聴きながら少し徳松に対しても怒りを覚えていた。
「まさか、そんな事に……そもそも、告白した事を他人に言うなんて……」
「それでまあ、さっきの発言に繋がるんだが……」
「納得できません。さっきの発言がどういう意図で出たものか、自分で思い返してください」
「ま、そうなるよな」
俺はさっきの事を思い出しながら考える。
あの時、何を考えていただろうか。
「まあなんだ、いいなって思ったんだよ」
「いいな?」
考えがまとまらない状態で、言葉を続ける。
「さっきの昼休憩の時間だよ。冬咲も環奈さんの前では、気張ってなかっただろ?そういう安心できる空間っていうのが、いいなって……」
「それとさっきの発言に何の関係が?」
「だからその、そういう空間に徳松がいるイメージが出来なかったというか……すまん、俺もよく分からん」
考えてみても、どうしてあんな発言をしたのか分からなかった。
ただあの時は、徳松に負けたくないって気持ちと、冬咲と徳松が一緒にいる姿を見たくないという気持ちが強かった、のかもしれない。
「……今の話方だと、安心出来る空間は三井君にとって、というふうに聞こえますけど?」
冬咲の言葉に俺はハッとして、数秒前の言葉の言い方を思い出す。
確かに、俺の主観的意見になっているような……
「いや!そういう意味じゃなくでだな!?えっと、だから……」
慌てて訂正しようとするも、焦って言葉が浮かばない。
そんな俺を見て、冬咲はくすくすと笑う。
さっきまでの怒りはどうやら無くなったらしい。
「ふふっ、訂正しなくても大丈夫ですよ。私も、三井君の居る空間はとても安心ですから」
「お前それ─」
「さ、早く戻りましょう。いつまでも抜けていると、クラスの人達に勘ぐられますから」
そう言いながら、冬咲は嬉しそうに歩いて行く。
(お前こそ、どういうつもりで言ってんだ……)
そんな言葉を呑み込み、俺は冬咲の後に続いた。