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第27話②

 体育祭での徳松との決闘は、俺の敗北で開幕した。

 残る対決は、個人200m走とスウェーデンリレーだが、リレーに関しては3学年18クラスで6チーム3組にくじ引きで分かれ予選を行い、上位2チームが午後の部の決勝に進出する形になっている。

 俺のクラスと徳松のクラスは、予選で当たることは無く、それぞれ別の組で1位を取り、決勝に駒を進めたのだが……


 (タイムで負けてるな)


 予選の時点で、俺のクラスは全体3位、徳松のクラスが2位となっている。

 1位は3年生のクラスである。

 負けている理由のひとつが、俺の隣で一緒に得点表を見ている誠にある。

 スウェーデンリレーでは、1走者目が100m、2走者目が200m、3、4走者目がそれぞれ300、400mを走っていくリレーだ。

 そして、俺と徳松はアンカーなのだが、徳松のクラスの3走が誠である。

 俺のクラスの3走は陸斗だが、走力では誠に分がある。


 (誠もマジで走ってたしな……)


 ここで手を抜いてくれと言っても抜く男ではない。

 それは以前カフェでも言っていた。


 「なんだケン?緊張してんのか?」


 視線に気づいた誠が話しかけてくる。


 「まあそれなりにな、次は200mだ、徳松の得意分野だろ」


 「まあ、あいつは短距離で1年生ながら県大会に出場したらしいからな」


 短距離を専門にする相手に、どこまで対抗できるだろうか。

 そんな悩みを残しながら、午前の部が終わった。





 (さて、昼飯をどうするかな……)


 昼休憩の時間となり、生徒達は思い思いに昼食を取る。

 保護者と食べる人は、シートを広げて食べていたり、中庭のベンチに座って食事している。

 かく言う誠も両親が来ているそうで、誘われたが邪魔するのも悪いので遠慮した。

 陸斗は部活のメンバーで食べると言っていたし、食堂も開いていない。

 朝はギリギリだったため、コンビニに寄る時間もなかった。


 (万事休すかな。まあ、食べなくても……)


 と考えていると、肩をポンポンと叩かれる。

 何かと振り向くと、そこには予想外の人が居た。


 「久しぶりね!絢士郎君!」


 「か、環奈さん!?」


 俺の一人目の義母であり、冬咲 麗奈の実母冬咲 環奈(ふゆさき かんな)が優しい笑みを浮かべていた。


 「お、お久しぶりです……よく俺だって分かりましたね?」


 「分かるわよ!息子の背中くらい!」


 そうは言っても、普通5年以上見ていなかったら分からないと思うのだが……

 掴みどころのない点は変わらないようだ。


 環奈さんの事は嫌いじゃない。

 花野井 みさきと出会う前だったし、本当に小さい頃だったからか、むしろ好印象だ。

 母親というよりは、叔母の感覚に近い。


 「それで、何か?」


 「久しぶりに会ったから驚かせようと思って、絢士郎君は?絢也君を探してるの?」


 「親父は来てません。今の義母も」


 親父は言わずもがな、瞳さんも仕事があると言っていた。


 「それじゃあ、お昼はどうするの?見たところ何も持っていないけど?」


 「まあ、お昼くらい抜いても大丈夫かなと」


 「ダメに決まってるでしょ!まさか、普段から食べてないんじゃないでしょうね?」


 「いえいえ、普段はちゃんと食べてますよ……」


 やはりと言うべきか、環奈さんとは他の義母よりも接しやすさというのを感じる。

 子供の時に出会っているのが大きいようだ。


 「それならいいけど……でも、今日はどうするの?」


 「それは……まあ、適当に?」


 「宛もないんでしょ?」


 「それは……」


 「仕方ない!私達と食べましょ!」


 「え!?それはさすがに……」


 「いいじゃない!久しぶりに3人で団欒しましょ!」


 そう言って、環奈さんは俺の腕を引っ張って歩き出す。

 抵抗する暇もなく、俺は引っ張られるだけだった。



 環奈さんに連れられ、到着した場所は、部室棟の近くで、周りに人が少ない場所だった。

 既にシートを引いて、その上で冬咲が食事をしていた。


 「麗奈~お待たせ~」


 「お母さんトイレ長かった、ね!?」


 「ばったり会ってね!連れてきちゃった!」


 「連れてきちゃったじゃないでしょ!三井君も!」


 「いや、断りきれず……すまん」


 環奈さんの強引さを1番知っている冬咲も黙るしか無かった。

 俺は促されるままシートに腰掛け、3人で環奈さんが作った弁当を食べる。

 傍から見れば、どういう繋がりか分からない。


 「さ!たくさん食べてね!」


 環奈さんは楽しそうに笑っている。


 「えっと、お母さんがごめんなさい」


 「いや、俺も昼飯なかったし、助かるよ」


 こうして冬咲とちゃんと話すのは、あの海での一件以来なので、かなり気まずい。

 そういえばあの時、冬咲は何をしようとしていたのだろう……

 もし本当に、俺の予想通りならば、どんな気持ちでいたのだろう。

 俺は自然と冬咲の唇を見る。

 

 「あの、何か?」


 視線に気づいた冬咲が頬を赤らめながら言う。


 「あ、いや、悪い。なんでもない」


 俺も少し恥ずかしくなり、目を逸らす。


 「なんだか、2人とも仲良くなったわね」


 俺達のやり取りを見ながら、環奈さんが感慨深そうに言う。


 「そう、ですかね……」


 「久しぶりに会ったからかな、絢士郎君は大人っぽくなってるし、麗奈も知らない間にしっかり者になってるし、お母さん寂しいな~」


 「もう!そういうの恥ずかしいからやめてよお母さん!」


 「ふふっごめんごめん、さ、まだまだあるからね!じゃんじゃん食べてね!」


 「ちょ!そんなに食べられないから!」

 

 いつもはきっちりとした敬語を話す冬咲が、環奈さんに対して子供らしい口調で話すのが何だか可愛らしかった。


 (なんか、いいな。この時間)


 そして、俺の中で答えが出た。

 俺にとって冬咲がどういう存在なのかを



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 「ご飯、美味しかったです。久しぶりに環奈さんの料理が食べれて良かったです」


 「お粗末さま、いつでも食べに来ていいからね。2人とも、午後からも頑張って!」


 絢士郎君からの感謝の言葉を聞いて、私は2人を手を振りながら見送る。

 2人が見えなくなってから、トイレに行き、保護者席に戻ろうと歩いていると、マスクに帽子、サングラスをかけたいかにも不審者な男が柱からグラウンドを覗いている背中が見えた。

 そして、そんな変装をする人を私は知っている。


 「その変装、不審者に見えるからやめた方がいいって言わなかった?」


 そう声をかけると、男は肩を跳ねさせて振り向く。

 私の姿を確認してから、マスクとサングラスを外す。


 「よ、よく、気づいたな……」


 冷や汗をかきながら、絢也君は言う。


 「そんな変装する人、他にいないでしょ」


 「いやいや、世の中には結構いると思うぜ?」


 「少なくとも、子供の体育祭を見に来る親の中には居ないわよ」

 

 そう言うと、絢也君は肩を落として黙る。


 「……久しぶり、絢也君」


 「……ああ、久しぶりだな、環奈」


 私が笑みを浮かべながら言うと、絢也君も優しく返してくれた。

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