第26話②
(どうして、あんな話を受けてしまったのだろう……)
放課後、誠と陸斗の二人と一緒にカフェで談笑しながら俺は今日のことを後悔していた。
つい熱くなってしまい、徳松の提案に乗ってしまった。
「なんだよケン、さっきから浮かない顔しやがって、なんか悩みか?」
陸斗が茶化すように聞いてくるので、俺は昼休みにあったことを二人に話した。
「はっはー!決闘って、何時代だよ!」
「なんか、徳松らしいわ」
「誠は知ってんのか?」
「同じクラスだからな、てか校内でも結構有名だぜ。変な奴だけど根はいい奴だし、体もでかくて目立つ。陸上部でもいい結果残してたしな」
「え!?あいつ陸上部なのか!?」
「そうだけど、そんなに驚くことか?」
まさか彩華親衛隊以外に同学年の陸上部男子が居たとは……
「てか、陸上部のくせに体育祭で勝負挑むって……卑怯じゃね?」
陸斗の言うように、甲真高校の体育祭には特殊な種目は借り物競争くらいで、他は全て走る競技となっている。
つまり、陸上部の独壇場である。
「まあ、リレーとかなら個人の力だけじゃないし……」
誠も卑怯という点は否定できないようで、苦しい弁明をする。
「てか、リレーなら誠に手を抜いてもらえばいいじゃん」
「悪いがそれはしないぜ、体育祭は真剣勝負の場なんだから」
「友達の危機とクラスの勝利、どっちが大事なんだよ!」
「それは答えづらい質問だが、今回に限っては徳松の意見に賛成だな」
誠はニヤリと笑い、俺の顔を見て言う。
「俺も、お前と冬咲さんは怪しいと思ってたんだ。とやかく言いたくはないが、いい加減はっきりさせておこうと思ってな」
「怪しいって……別に普通のクラスメイトだろ?」
「いや、確かに冬咲さんのケンに接する距離感って、他の奴とは違うような……ケン、お前まさか!」
「お前まで徳松みたいな事言わないでくれ……」
誠の意見に賛同する陸斗の想像を呆れながら否定する。
「まあ何にせよ、お前と冬咲さんの関係は周りから怪しまれるくらいには近いって事だ。そこのところどうなんだ?」
「どうって……本当にただのクラスメイトだ。良くて友達、じゃないか?」
思っていることをそのまま口にしたのだが、誠はまだ続ける。
「じゃあ、なんで徳松からの挑戦を受けた?いつものお前ならすぐ断っただろ」
「だからそれは、売り言葉に買い言葉っていうか─」
「本当に、それだけか?」
俺の言葉を遮り、誠はまっすぐ俺を見ながら言う。
「周りだけじゃなくて、自分の気持ちにも向き合えよ」
そう言って誠はコーヒーを飲む。
「……今日はやけに喋るな」
「やってみたかったんだ。親友の背中を押すの」
そう言って俺達は笑いあった。
「お前ら、俺の事忘れてねえか?」
そんな陸斗の言葉は俺達には届かなかった。
翌日のホームルームで、俺と徳松の対決する種目が個人200m走、スウェーデンリレーのアンカー、ハードル走の3つに決まった。
ベッドの上で、昨日誠に言われた事を思い出す。
最近は、自分の環境が変わっていた。
トラウマがなくなって、クラスの女子とも交流をする機会が増えたし、夕飯を外で食べず瞳さんと彩華の3人で食べるようになった。
なら、環境の変化によって、俺の気持ちは変わったのか?
(俺は、どうしたいのだろう……)
俺は冬咲とどうなりたいのだろう。
兄妹になりたい?
友達になりたい?
それとも……
(自分の気持ちが、分からない……)
俺にとって冬咲はどうでもいい存在だろうか?
どれだけ見つめ直しても答えが出なかった。
そして、答えが出ないまま体育祭当日を迎える。