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第26話①

 「なんだ、これ?」


 朝、学校に登校して靴箱を開けると、中に白い封筒が入っていた。


 「何それ?ラブレター?」


 隣の彩華が覗き込みながら聞いてくる。


 「どう見たって違うだろ。差出人も分からん」


 とりあえず中を見てみると、一枚の紙が入っている。

 その紙には、

 『体育館裏で待つ』

 とだけ書かれていた。


 「体育館裏って、やっぱりラブレター?」


 「こんなラブレターがあってたまるか」


 関わりたくないので、俺は無視して教室に向かった。


 


 「えっと、何か?」


 昼休みになり、食堂に向かおうとしたのだが、教室前に屈強で大きな男が仁王立ちしており、教室から出られない。

 男は黙って俺を見下ろし、睨んでくる。


 「……三井 絢士郎だな?」


 「そうですけど、何か?」


 「話がある。ついてこい」


 それだけ言って男は歩き始めた。

 無視することもできたが、その後が面倒くさそうなので、黙って後ろをついて行く事を決める。


 体育館裏に到着したところで、予想が確信に変わる。

 目の前の男が朝の手紙の差出人だと。


 「それで?話って?」


 長居したくはないので、早速本題を聞く。


 「……お前は、冬咲さんと付き合っているのか?」


 「はぁ!?なんでそんな話になったんだよ!?」


 何を言われても反応する気はなかったが、冬咲の名前が出て動揺する。

 それを男は見逃さない。


 「その反応、付き合っている訳ではなさそうだな……」


 「……ああ、別に付き合ってない。友達だよ」


 「友達?ただの友達か?」


 「?そうだけど?」


 聞き返された意味も分からず、事実だけを答える。

 すると男は肩を震わせ始め、次の瞬間、俺を鋭い眼光で睨みつけた。


 「やはり、貴様は冬咲さんを弄んでいる悪党だ!」


 「弄ぶ?どういう意味?」


 言っている意味が分からず、話が見えてこない。

 しかし、男は勝手に話を進める。


 「貴様のせいで、冬咲さんは囚われてしまった!だから、あの時も……」


 嫌な事でも思い出したのか、涙を流しながら唇を噛んでいる。


 「えっと、冬咲と何かあったのか?」


 「そこまで知りたいならいいだろう。教えてやる」


 そして男は語り出す。

 話は夏休み直前まで遡る。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 俺の名前は徳松 翼(とくまつ つばさ)

 甲真高校に通う高校一年生だ。

 俺は今日、一人の麗しき女性に思いを伝える。


 覚悟は決めた。

 思いを込めたラブレターに記載した時間の5分前、麗しき女性こと、冬咲 麗奈さんが姿を見せた。

 まずは来てくれた事に安堵した。


 「えっと、4組の徳松君ですよね?私に何か?」


 話したことは選択授業での一度しかないのに、名前を覚えてくれていた。

 その事が嬉しく、涙が出そうになった。

 しかし、今泣く訳にはいかない。

 俺は一度深呼吸をして、心を落ち着かせる。


 「冬咲さん、まずは来てくれてありがとう」


 「いえ、お気になさらず」


 俺の感謝の言葉に、笑顔で返してくれた。

 正に女神だ。


 緊張のあまり、言葉が続かない。

 だが、待たせる訳にもいかない。

 俺はもう一度深呼吸をして言う。


 「冬咲さん!あなたに惚れました!俺と、付き合ってください!」


 頭を下げて、手を前に出す。

 しっかり伝えた。

 一泊置いて、冬咲さんが答えた。


 「ありがとうございます。でも、ごめんなさい。私、好きな人が居るんです」


 その言葉は、玉砕を表していた。

 俺は顔を上げて、冬咲さんの目を見て言う。


 「……分かりました。気持ちを伝えれただけで十分です!(おとこ)徳松、縋り付くつもりはありません!」


 「本当にありがとうございます。私を好きになってくれて」


 俺達は握手を交わし、その場を別々に去った。

 この時、俺の恋は終わったのだ。



――――――――――――――



 話を聞き終えた俺の頭の中から、?が消える事はなかった。

 冬咲が告白をされていた事には驚いたが、元々モテていたのだから、考えてみれば当然だ。

 だが、この徳松という男がフラれたことで、俺が冬咲を弄んでいるという考えにいきついた理由が全く分からない。


 「えっと、その話と俺に何の関係が?」


 「焦るなよ。話はまだ続く」


 徳松は拳を握りしめ、怒りを滲ませながら語る。


 「俺だって、諦めるつもりだったさ!だが、夏休みの初日、見たんだよ!お前と冬咲さんがデートしてるところを!」


 「な!?」


 和道のみならず、徳松にまで見られていたとは思わず、嫌な汗が出る。


 「いや、あれは俺じゃな─」


 「とぼけても無駄だ!俺の視力は2.0だぞ!」


 「くっ!なんて説得力!」


 前髪を分けた変装も意味を持たず、俺は認めざる得ない。

 さらに徳松は続ける。


 「見かけた時、ショックではあったが、冬咲さんが幸せならと負けを認めた!だが、お前を見ていて気づいたよ。お前は、冬咲さんをキープしてるだけだと!」


 「はぁ!?キープなんてしてねえわ!」


 「俺は騙されない!冬咲さんが惚れた男がどんな奴かと、この夏休み徹底的に調べた!これが証拠だ!」


 徳松は数枚の写真を提示する。


 「6組の花野井とのランチデート、5組の笹川との遊園地デート、謎の清楚美女との密会、これだけの証拠があるんだ!」


 写真はどれも鮮明に写っており、誤魔化しが効かないレベルの腕だ。


 「お前!これ盗撮だろ!」


 「愛の前にそんな反論無意味だ!」


 「なんだその暴論は!」


 「うるさい!極めつけはこれだ!」


 そして徳松は最後の一枚を見せてくる。

 そこには、俺と冬咲が二人で海を歩く姿が写っていた。


 「な、なんでお前がそれを!?」


 「複数の美女と関係を持っていながら、冬咲さんにまで手をかける。これが弄んでいないと言えるか!」


 「そこまで飛躍しないだろ!てか、冬咲が惚れた男が俺じゃないかもしれないだろ!」


 「ええい黙れ!貴様のような悪党を野放しにはしない!」


 そう言って、徳松は俺に一枚のハンカチを投げつけてきた。


 「三井 絢士郎!貴様に決闘を申し込む!次の体育祭で勝負だ!貴様が勝てばもう何も言うまい。だが、俺が勝てば……冬咲さんを解放しろ!」


 ビシッと俺を指さし、徳松は叫ぶ。


 「勝手に話を進めんな!俺に何の得もねえだろ!やんねえよ!」


 得どころか、損しかない申し出だ。

 馬鹿正直に受ける意味は無い。

 そう言ってハンカチを返し、その場を去ろうとすると、


 「逃げるのか?」


 その言葉に、俺の足が止まる。


 「自信がないようだな。まあ無理はない。俺とお前では、体格の時点で差がある。怖気付いても仕方がないか」


 いつもなら、そんな言葉に乗せられたりしない。

 だが、徳松の妙に鼻につく言い方が、俺の沸点を限界まで下げた。


 「・・・等だ」


 「ん?」


 「上等だ!お前の決闘、受けてやるよ!後で泣いても知らねえからな!」


 「ふん!度胸だけは褒めてやる!だが、泣くのは貴様の方だ!」


 こうして、俺と徳松の冬咲を賭けた?決闘が決まった。

 


 

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