表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/95

第25話②

 お礼をする当日、俺は彩華よりも早く家を出て電車に乗り、待ち合わせ場所で待機していた。

 なぜ一緒に出ないのかと言うと、彩華が「待ち合わせをしてみたい!」と言ったからである。

 めんどくさいと思ったが、彩華へのお礼なので、出来ることは叶えてやろうと承諾した。

 髪の指定もされ、冬咲と出かけた時のように前髪を分けて、顔が見えるようにしている。

 なぜわざわざ指定してきたのかは不明である。

 行き先は公園の予定だったが、どうにか説得し普通にショッピングをすることになった。

 彩華の一言のせいで、公園を見る度にあのシーンを思い出してしまう。


 「……お待たせ」


 スマホを見ながら待っていると、彩華が集合時間5分前に姿を現した。

 そして、その姿に俺は驚愕した。


 「何?」


 「いや、その格好…」


 彩華は普段、女の子らしいヒラヒラとした格好をしているのだが、今日はやけにボーイッシュな格好だ。

 どこかで見たことある服で、親父のお下がりだろうか。


 「いいでしょ、たまには。ほら、行くよ」


 どこかツンとした声でそう言って歩き出す。

 俺もその後を黙ってついて行く。

 



 「これ、どう?」


 「ああ、似合ってるよ」


 「これは?」


 「うん、いいと思うよ」


 「なんか、飽きてない?」


 「…別に」


 店に入って早1時間、店に入っては彩華が試着し、それの感想を求められる。

 ただそれだけが続いていた。

 服にあまり興味がない俺は、正直退屈である。

 彩華自身は楽しそうに見ているので、いいのだが…

 

 「うーん、次の店に行ってから考えよ」


 まだ続くのかと少しため息が出る。

 彩華が着替えている間に店内を見回す。

 以前は夏の服が並べられていた場所には、長袖が並べられており、店頭に半袖などが安売りされている。

 その安売りコーナーの前で、顎に手を当てながら何か考え事をしている知的な少女を見つける。

 眼鏡をかけ、髪を一本に結ったその姿は優等生そのものである。


 「おまたせー」


 試着室から出てきた彩華は試着した服を買わずに戻していく。


 「何も買わないのか?お礼だから俺が出すぞ?」


 「ここではいいかな、次の店にいいのがなかったらまた戻ってくる」


 服を全て戻し終え、次の店へと向かう。

 その後も彩華が試着しては次の店へを繰り返し、結局服を買うことはなく、俺達は別の階にあるアニメグッズが売られている店にたどり着く。

 店の前に立つと、彩華がカバンからサングラスとマスクを取り出し装備した。


 「何してんだ?」

 

 「変装に決まってるでしょ!クラスの子とかに会ったらどうするの!」


 「別にどうもしねえだろ」


 「するよ!クラスではThe女の子の私が、どぎついBL本買ってたらどんな顔されるか!」


 その光景を想像したのか、彩華の顔はマスク越しでも分かるくらい青ざめている。

 確かに、猫を被っている彩華にとっては注意すべきことなのかもしれない。


 「で?服は買ってないけど、本は買うのか?」


 「本も買うけど、まずはグッズかな」


 「んじゃ買う時に呼んでくれ、俺も適当に見とくから」


 そう言うと彩華は店に入り、自分の推しのグッズが並べられている棚に一直線に向かう。

 何度も来ているのか、場所を把握しているらしい。

 俺は初めて来るので、どこに何があるかは分からないが、入ってすぐに漫画の新刊が置かれた棚があり、それを眺める。

 昔見ていた漫画の続編を見つけたりと、意外にも楽しい時間を過ごしていると、


 「お兄ちゃん!」


 突然、そう呼ばれ、周りを見回す。

 彩華が呼んだのかと思ったが、あいつは俺をお兄ちゃんとは呼ばない。

 だが周りにそれらしい人はおらず、別の人かと思ったところで、ズボンがぐいっと引っ張られる。

 それに反応し下を見ると、いつかの遊園地で会った少女が俺のズボンを掴んでいた。


 「こ、心春ちゃん!?」


 「やっぱり!お兄ちゃんだ!」


 キャッキャとはしゃぐ心春ちゃんを見て、つい微笑んでしまう。


 「って!一人!?まさか、また迷子!?」


 そう思い慌てるが、心春ちゃんは首を横に振る。

 すると、一人の少女が走ってくる。


 「心春、あんまり先に行かないでよ~」


 その少女は、さっきの店で服を見ていた知的な少女だった。


 「お姉ちゃん!この前言ったお兄ちゃんがいた!」


 「この前?遊園地で会ったって子?」


 「うん!」


 心春ちゃんにお姉ちゃんと呼ばれた少女は、心春ちゃんを抱き上げ、俺を見る。

 見た目からして、俺と同い年くらいに見える。

 

 「えっと、心春がお世話になってます?いや、ちょっと違うか……」


 どう挨拶すればいいのが迷っている様子なので、俺は自分から自己紹介をする。


 「どうも、心春ちゃんと遊園地で遊んだ三井 絢士郎っていいます」


 「え!?三井 絢士郎!?」


 名前を言うと、突然少女は目を見開き、顔を近づけてくる。

 俺はその勢いに後ずさる。


 「ほ、本当に!?本当に絢士郎?」


 少女はまるで俺を知っているかのように言う。


 「えっと、すみません、どこかで会いましたっけ?」


 少女に見覚えがないため、そう聞き返す。


 「あーごめん、はい」


 少女は眼鏡を外し、ウインクをする。

 

 「これで分かる?」


 残念ながら、思い出せない。


 「いえ、全く……えっと、名前は?」


 「本当に思い出せないの!仕方ない、私は内田 奏多(うちだ かなた)昔、よく遊んだでしょ?」


 「内田 奏多……どこかで聞いた気が……」


 そう、どこかで聞いた名前だ。

 でも、思い出せない。


 「ほら!あのでっかい公園で、白いトランポリンとかで!」


 「でかい公園……白い……あ!」


 そのワードで、うっすらと思い出す。

 親父が環奈さんと再婚してすぐの頃、親父と2人で週末になるとどこかの公園に行っていた時期があった。

 理由は分からなかったが、親父は誰かと話していて、その間俺は誰かと遊んでいた。

 

 (そうだ、思い出した!)


 内田 奏多

 子供の頃、一時期公園でよく遊んだ少年のような少女

 そして、俺の初恋の相手だ


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ