第3話①
「え?お前この1週間誠の家に泊まってんの?」
「親父が帰ってきてるからな。」
「なんで誘ってくれないんだよ!?俺も友達だろ!?」
体育の時間のバスケの最中、世間話の途中で陸斗に誠の家に泊まっている事を話すと、急に涙を流しながら言ってきた。
「いや、陸斗の家遠いだろ。理由もなく泊まるような場所じゃないぞ。」
「おいケン、それは俺のセリフだろ。」
誠の家の事を俺が説明すると、誠にツッコミを入れられる。
「そんなの関係ねえよ~友達とお泊まり会とかしてえよ~」
「お前は女子か。」
陸斗がくねくねと動きながら嘆く姿は、微妙に気色悪い。
「次のチーム入ってー」
体育の先生が笛を鳴らし、試合が終わる。
次は俺達の番なので、準備をする。
「よっしゃ!いつも通りやるかケン」
「俺が回して誠がゴールだな。」
そうやって2人でグータッチをする。
ここでも陸斗は敵チームだった。
試合は俺達の圧勝で終わった。
「三井、バスケうめーな!部活に入んねーの?」
クラスメイトの1人がそう聞いてくるので、「部活には興味無いかな」と返しおいた。
「ケンって運動神経いいのに、なんで部活やらないんだ?」
その会話を聞いていた陸斗が俺に質問をする。
それを俺ではなく誠が答える。
「こいつ、自立するために全部1人でできるように努力してんだよ。勉強も運動もな。だから、部活とかはやらねえんだとよ。」
「全部1人で?それは出来たらすげーな。」
「引くレベルで実践してるぜ。勉強、運動、バイト、全部やってるからな。」
「そこまでやる必要あるか?まだ高校生だろ?」
「もう高校生だ。親父と他人が住んでる家からさっさと出ていきたいんだよ。」
「こいつ、親父さんと仲悪いんだよ。」
「ふーん。なんかケンって立派なんだな。俺も見習おーっと」
そう言っているが、陸斗はきっと変わらないだろうと俺と誠は思っていた。
「来週は高校生になって最初のテストだ。しっかりと勉強しておくように」
担任のその言葉を最後に、ホームルームは終わった。
陸斗は部活、誠はバイトで先に帰った。
親父は昨日単身赴任先に戻ったため、俺も今日は自分の家に帰る。
「三井君、少しいいですか?」
帰り支度をしていると、冬咲に話しかけられる。
最近、こいつはこのタイミングでよく話しかけてくる。
「なんだよ。俺は帰って─」
「勉強ですよね?」
「・・・・」
言うセリフを言い当てられて、何となくムカつく。
「来週からテストだからな。当然だろ。」
「私もそのつもりなんです。ですから、今日私と勉強しませんか?」
冬咲の言ったことに、俺は首を傾げた。
「なんで?」
「誰かと勉強した方が、苦手な科目を教え合えるじゃないですか。」
「いや、1人の方が集中できるだろ?」
「そうでしょうか?誰かとやることでお互いが監視し合う形になり、より一層集中出来ると思うのですが?」
冬咲の言っている事も一理あるのは分かる。
けれど・・・
「俺とじゃなくていいだろ。友達としろよ。」
「いえ、三井君じゃないとダメなんです。」
「はあ?なんで?」
「そんなの…言わせないでください…。」
恥じらうように冬咲は言う。
普通なら、可愛いと思う場面なんだろうが、仮にも妹だった相手にそんな気持ちは湧かず、むしろ嫌な予感ばかりが過ぎる。
「とにかく!一緒に勉強しましょう!ね?」
首を縦に振るまで帰らせてくれそうにないので、俺は仕方なく同意した。
先に行って靴箱で待っていてくれと言われたので、それに従う。
今から他の子達も誘うのだろう。