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第23話①

少し気持ちの悪い話が含まれています。

苦手な方は注意してください。

 本当の父親の事を知りたいと思った事は無かった。

 母は私を愛してくれていた。

 頭を撫でてくれるし、学校の参観日なんかも休みを取って見に来てくれた。

 一緒に歩く時は手を繋いでくれたし、頑張れば褒めてくれた。

 父親が居なくたって、幸せだった。

 10歳の頃、些細な事で言い合いになった。

 理由なんて思い出せないくらい小さな事だった。

 母が仕事で居ない間に、家出をした。

 行く宛ては無かったけど、母が自分に何かあった時に頼りなさいと教えてくれていた住所を思い出し、電車に乗って向かった。

 3時間程で着いた場所は、母の実家だった。

 初めて来た祖父母の家を前に、緊張と喜びが同時に押し寄せてきた。

 インターホンを押すと、中から青年が顔を出した。

 その青年は私を見て、「どこの子?迷子か?」そう聞いてきた。

 

 「は、初めまして!花野井 みさきの娘の花野井 みゆうって言います!」


 震える声で自己紹介をした。

 その瞬間、青年は優しかった笑みを消し、青ざめた顔をした。

 あとから知った話だ。

 青年は当時21歳の大学生で、私の従兄に当たる人であり、私の父親だった。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 夏休みが終わり、二学期が始まった。

 最初の1週間は、三者面談の期間となっており、昼までで授業が終わる。

 面談のない生徒は、部活動に行くか帰宅するかの二択で、教室に残る事は出来ない。

 二学期が始まって3日、今日は俺と彩華の面談の日だ。

 時間になるまで、俺と彩華は図書室で待機することになった。


 「あー、面談嫌だー」


 机に突っ伏しながら彩華が気だるげに言う。


 「そんなにやばい成績だったのか?」


 「そこまでじゃないけどー、夏休みの生活態度を知られるのがなー」


 「部活も行ってたし、そこまで問題はなかっただろ。」


 「家の中での事だよー、私学校ではいい子だから、だらけてた事とか知らたくないんだよー」


 今図書室で現在進行形でだらけている姿を見る限り、学校でも大差ないんだろう。

 何の心配もいらない。

 だらしないという点において、注意しなければならないのは冬咲の方だ。

 未だに部屋は汚部屋なのだろうか。

 昔見た部屋の風景と共に、冬咲の顔が思い浮かぶ。

 それと同時に、海での一件の事を思い出し、少し顔が熱くなる。


 (マジでどういうつもりだったんだ…)


 あれ以降、冬咲とは少しぎこちない。

 そもそもクラスメイトは俺と冬咲がよく話していることにすら気づいていないので、変な誤解の心配はないのだが…

 考え事をしていると、彩華がこちらをじーっと見ていることに気づく。


 「・・・なんだよ」


 「別に。なんか顔がやらしいと思っただけ。何考えてんの?」


 「・・・別に」


 あまり詮索されたくなくて、素っ気なく返す。


 「・・・キッモ」


 久しぶりに聞いた悪態だが、本当にキモい奴なので何も言い返せない。


 「・・・飲み物買ってくる。」


 変な沈黙に耐えられず、俺が席を立つと、何故か彩華もついてくる。


 「何でついてくるんだ?」


 「奢ってもらおうと思って」


 「このやろう」


 「兄は妹に奢る義務があるんだから。」


 聞いたこともない理論を言ってのける彩華に呆れる。

 言い合いは面倒なので、100円くらい奢ってやろうとそのまま2人で自販機に向かう。

 1階に降りようと階段についたその時、その女は階段から上がってきた。

 女はこちらに目を向け、俺を見つける。

 

 「絢士郎?」


 蛇に睨まれたかのように動かなくなった俺を見て、彩華が首を傾げる。


 「久しぶりね。絢士郎君。」


 そんな彩華を横目に、女は話しかけてくる。

 突然俺の名前を言った女に彩華は戸惑いを隠せない。


 「・・・お久し、ぶりです。」


 自分でも分かるくらいに震えた声だった。

 少しずつ息が荒くなっているのも分かる。


 「大きくなったわね。2年ぶりくらいかしら?あの頃より、ずっと大人に見えるわ。でも─」


 女は口元に弧を描く。

 それが不気味で仕方がなかった。


 「でも、心はあの頃のままね。弱々しくて、愛おしい。」


 言いながら、女は1歩前へ出てくる。

 その足音に、俺はビクッと体を跳ねさせる。


 「あ、あの!」


 不穏な空気を察した彩華が、ここで前に出る。


 「絢士郎、体調悪いみたいなので。し、失礼します!」


 それだけ言って、彩華は俺の手を取って走り出す。

 背中から、嫌な視線を感じる。

 狂気の笑みを浮かべた女、花野井 みさきは、笑顔を崩さず俺を見つめていた。

 


 


 

 


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