第22話④
海の家でのバイトも終わり、帰りの電車では俺と誠以外は疲れ果てて眠りについていた。
俺達も疲れはあったが、眠る程ではなく、何を話すでもなく外の景色を眺めながら電車に揺られている。
「夏休みもあっという間だったな。」
しばらく続いた沈黙を破ったのは誠だった。
「大した事してないからな。旅行行ったりとかすればもっと感慨深いものがあったかもな。」
「そんな金ないだろ。」
「それもそうだな。」
俺のバイト代は基本貯金だし、誠も多くバイトに入っている訳では無い。
手元にあるお金はせいぜい一般家庭のお小遣い程度だろう。
「二学期は忙しいよな。文化祭に体育祭。」
「始まって直ぐに三者面談もあるぞ。」
「そういやそうだな。変な時期にやるよな、うちの学校」
誠の言うように、甲真の三者面談は、夏休み明け最初の1週間で行われる。
保護者との対話に重きを置いているようで、夏休みの生活も加味するそうだ。
「ケンは親父さんに来てもらうのか?」
「いや、多分瞳さんだな。彩華と同日にしてもらうつもりだ。」
「大丈夫なのか?その人で」
「まだ1年だし、そこまで深い話もないだろ。」
多少進路の話しはあるだろうが、せいぜい進学か就職のどちらを希望するか聞かれる程度だろう。
瞳さんでも十分に対応出来る。
親父が出てくれば、喧嘩になりかねない。
「みゆうの母親は?会うことはないのか?」
誠には触り程度に事情を話しているため、心配してくる。
ありがたいことだが、少し申し訳ない。
「そこは何とかするさ。日にちが被らないようにするとか、花野井と連絡を取り合って。」
「まあ、何かあったら言えよ。」
「ああ」
誠は本当に良い奴だと思う。
ここまで真摯に向き合ってくれる友人は生涯で何人いるだろうか。
「話変わるけどよ、今ケンとみゆうってどういう付き合い方してんだ?」
「どうって?」
「そのまんまの意味だよ。もう兄でも妹でもなくただの同級生だろ?距離感とかどうなのかと思ってな。」
「ただの友達って感じかな。深くは踏み込まず、関わりは絶たずってところ。」
中学時代の荒れていた時期を知っている誠からすれば、俺と花野井の事は気になるところだろう。
特別なことは何も無い。
今はただの友達として接している。
「そっか。まあ、落ち着いてるならいいや。」
そう言って、また沈黙が流れる。
「・・・暑いな。」
「夏も終わりなのにな。」
そんな独り言のような会話をして、俺は瞬きをする。
夏休みが終わって、新学期が始まる。
電車から見える空では、大きな飛行機雲が消え始めていた。
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「あの頃は、何も知らない子供だったんです。」
絢士郎達が、夏休みを満喫している頃、若い男ととある善人が喫茶店で話している。
「だから、あの子を拒絶してしまった。怖くなったんです。自分の責任になるんじゃないかって。」
「それは当たり前の感情だよ。話を聞いても、君は悪くないと俺は思うよ。」
「・・・皆、そう言うんです。君は悪くない。被害者だ!って。」
「客観的に見れば、それが正しいんだ。君が背負うことでは無い。」
「・・・でも、僕が背負わなければ、あの怪物をあの子だけに擦り付けるのは、違うと思います。」
若い男は善人を見て言う。
「もう、責任から逃げるのはやめます。」
覚悟を決めた宣言に続ける。
「子供だったなんて言い訳はしない。ちゃんと、叔母さんと向き合います。あの子の父親として。」
その言葉を、絢也はしかと受け止めた。




