第22話③
「あ、彩華!?なんでここに!?」
「彩華さん!?なんでここにいるんですか!?」
居るはずのない人物を前にして、2人同時に言葉が出る。
慌てまくりの俺達とは違い、彩華は落ち着いた様子で、終始笑顔で答える。
「部活の合宿所がこの近くなんだよね。今日は最終日でオフだから遊びに来た。」
「そ、そうか。他の人達は?」
「向こうで唐沢君達と話してる。」
「それなら、俺達も行かないとな。待たせちゃ悪いし。な、冬咲!」
「そ、そうですね!さあ、戻りましょう!」
そう言って歩き出そうとすると、彩華が落ちていた木を拾い上げて、バキバキに折る。
その奇行に俺達の動きは止まる。
「で?何してたの?」
どうやら逃がしてくれそうにない。
(何してた、か。)
何と答えるのが正解か俺にも分からなかった。
冬咲は何をしようとしていたのか。
ある程度予想はできても、それはあくまで予想だ。
(繋がりが羨ましい、か。)
冬咲の顔を見ながら、彼女の言葉を思い出す。
確かに、2人に比べれば兄妹としての繋がりは極端に薄い。
けれどその分、友人という形であれば、花野井よりも強い繋がりだ。
ふと和道の言葉を思い出す。
今考えることではないと、すぐに首を横に振る。
「ちょっとした実験だ。それ以上でも以下でもない。」
冬咲が何も言い出さないので、俺はあからさまな言い訳をする。
「何の実験?」
「お前に話す必要ないだろ。」
少し強めに拒絶すると、彩華の笑顔がようやく崩れた。
何か言う前に、俺は続ける。
「俺の行動の全部を教える義務も必要もない。」
より明確に拒絶すると、彩華は黙り込んだ。
少し言い過ぎたかとも思ったが、この程度で傷つくたまでは無い。
「・・・分かった。詮索はやめる。でも、変なことするのやめてよね。」
少し怒った様子で彩華はその場を立ち去った。
俺達の間に重たい空気が流れる。
さっきまで顔がくっつくほど近かった距離は、今は人1人分離れている。
「・・・戻るか。」
「は、はい…」
気まづい空気を残したまま、俺達は笹川達の居る方に戻った。
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海の家のバイト2日目
泊まった宿は、意外にも寝心地が良く、体は軽かった。
早朝から今日の準備をしているのだが、昨日からケンと冬咲の様子がおかしい。
昨日の昼頃、甲真の陸上部の合宿先が近くという偶然があり、彩華達と合流することになった。
その頃から、2人が妙にぎこちない。
普通に話しているようで、から回っている。
「絶対に何かあった。」
「何かって?」
ついこぼれた独り言を誠に拾われる。
「あの2人。妙に意識し合ってるっていうか…」
「そういや、あの2人って仲良いのか?」
「なんで?」
「いや、トラウマがあるケンが気にせず話しているイメージがあるなと思って。」
言われてみればそうだ。
入学当初から、冬咲に対してはケンも気にせず接していた。
元妹だからなのか、それとも・・・
「あの2人、小学校が一緒なんだよ。だから仲良いんだって。」
誠には元妹ということは言わずに説明する。
本人が言っていないのだから、私から言うのはお門違いだろう。
「なるほど。トラウマ前からの知り合いか。なんというか、絵になる2人だな。」
誠の言うことには同意だった。
冬咲は言わずもがなの美少女で、スタイルも抜群だ。
ケンに関しても、今日は前髪を上げており、素顔がはっきりと見える。
早めに海に来ている女の人がチラチラと見るくらいには美形のケンと冬咲が並べば、お似合いと言わざる得ない。
「どうした?」
黙り込んだ私に、誠は不思議そうにしている。
「別に。きっとああいう子がケンと合うんだろうなって思っただけ。」
清楚な冬咲と爽やかなケン。
正にカップルのお手本のような性格だ。
「そうか?」
私の意見に、誠は反対だと言った。
「そうでしょ。なら、誠はケンの横に立つ子はどんな子だと思うの?トラウマは抜きにして。」
「みゆうだろ。」
「え?」
予想外の答えに、つい疑問の声が出てしまう。
「変な冗談やめてよ。」
「冗談じゃねえよ。」
誠は割と真剣な表情をしている。
「俺は、ケンの隣はお前しか居ないと思ってたけどな。」
それだけ言い残し、誠は厨房の方に行った。
「・・・そんな事、あるわけないでしょ。」
1人残された私は、言い聞かせるように呟いた。