第22話①
「青い海、白い砂浜、照りつける太陽。これぞまさに、夏だーーー!!」
夏休みも残り1週間となった今日、陸斗の従兄さんが経営している海の家で臨時のバイトをすることになり、俺達は車で3時間ほど離れた海に来ていた。
目の前に広がる海にテンションが上がっている和道が早速叫んでいる。
「黄名子声でかすぎでしょ笑」
「元気なのはいいことですよ。」
「元気過ぎるのも困りものだよ…。」
「周りに見られて恥ずいんだけど…」
「ま、まあ、海だし、大目に見ようよ。」
「テンションが爆アゲの和道さんもいい!」
「本当に騒がしい奴らだな。」
参加者は、俺、誠、陸斗、冬咲、花野井、笹川、和道、加瀬、根塚の9人だ。
できるだけ人数を集めて欲しいという要望があったため、俺達はできうる限りメンバーを集めた。
彩華は部活の合宿中で不参加である。
その代役が根塚だ。
意外にも乗り気で、快く引き受けてくれた。
俺達は荷物を持って、砂浜にある海の家に入る。
「いやー悪いな。せっかくの夏休みに手伝いなんてお願いして。」
陸斗の従兄さんは気さくな人で、顔つきはやはり陸斗に少し似ている。
「いえ、こういう機会でもないと、海に来ないので。」
冬咲の言葉に、他のメンバーも頷く。
その反応を見て、従兄さんは安堵したように笑う。
「これだけ人数が入れば、交代ごうたいで回せるぞ。」
「てことは、遊びの時間があるってことか!」
「元々その時間も取るつもりだったけど、想定よりも多めに取れそうだな。」
「よっしゃーー!」
「おや~?そんなに喜んで、陸斗ちゃんは私達の水着がそんなに見たいのかな~?」
あからさまに陸斗がはしゃいでいると、和道がからかうように言う。
いつの間にか呼び方があだ名でもなく名前になっているのが、ちょっとした進展を表している。
その事に加瀬はピクリと眉を動かしている。
「い、いや!?べ、別に?」
「てことは、見なくてもいいか~」
「そ、そうは言ってませんけど!?」
もう付き合っていると言われても違和感ないくらいに仲が良い。
2人をぬるい目で見ていると、視線を感じる。
その方を見ると、花野井が睨むような目で見てきていた。
「なんだよ。」
「別に」
なんだが以前のような態度に戻ってしまっていた。
何か気に障ることでもしただろうか。
話し合いの結果、最初のシフトは、俺と冬咲、笹川に根塚の4人になった。
その間、残った5人は自由な時間だ。
「よし!陸斗ちゃん、まずは泳ぐよ!」
「負けないぜ、和道さん!」
陸斗と和道が先陣をきり、その後ろを加瀬が慌てて着いていく。
さらに後ろから花野井と誠がゆっくりと歩いている。
「なんて言うか、子供を見守る親みたいだね。」
後ろの2人を見ながら、笹川が呟く。
「まあ、元々落ち着いてる2人だしな。」
「唐沢君はともかく、花野井さんは落ち着いてますかね?」
「・・・まあ、昔よりは?」
「変な間がありましたよ。」
くすくすと冬咲は笑っている。
何がそんなに楽しいのだろう。
「・・・2人って、仲良いの?」
俺達のやり取りを見て、笹川が聞いてくる。
「私達、小学校が一緒なんです。」
元妹ということは言わず、冬咲が答える。
「へー、そうなんだ。やっぱケンティーは隅に置けないな~」
「からかうなよ…」
「よーし!じゃあ、そろそろ開店するぞー!」
従兄さんの言葉を聞いて、俺達も準備に入る。
用意されたTシャツを着て、下は水着になる。
男性陣は一足先に準備を初めて、しばらくしてから着替え終えた女性陣が顔を出す。
下に水着を着ているのだろうが、Tシャツが大きめで、その姿は隠されている。
「あー!ケンティー、今ちょっとガッカリしたでしょ?」
「・・・は?してないけど?なあ、根塚」
「え!?いや、僕は…」
「ねづっちを巻き込むな!」
どこぞの芸人の話をしているのだろうか。
「ほら君達、仲が良いのはいいけど、手も動かす!」
女性の従業員さんにそう言われ、それぞれ配置につく。
「・・・エッチ」
冬咲にボソッと言われて、俺はガクッとコケそうになった。
開店と同時に、海に来ていたお客さんが次々と入ってくる。
笹川と俺は接客、根塚と冬咲は厨房の手伝いで、詰まるかと思ったが、元々喫茶店で接客をしている俺達は難なくこなし、冬咲も手際が良く、1番不安だった根塚は接客じゃないことが功を奏し、上手く回っている。
しかし、めんどくさい客というのは存在するものである。
「ねえ、後で俺らと遊ばね?」
いかにもな見た目をした男3人組が、笹川をナンパしている。
見た目は派手な笹川は軽く見られがちなのだろうか。
助けに入ろうと近づくと、俺が何かを言う前に、笹川に腕を掴まれる。
「ごめーん。私は、この人のものだからー。」
「なんだよ、そうだったのか!悪いな兄ちゃん、彼女ナンパしちゃって。」
「いや、俺は─」
「悪いと思うなら、もっとたくさん注文してね♥」
「よーし、ビールおかわりだ!」
笹川の口車に乗せられた男達は、次々と注文していく。
「俺はいつからお前の彼氏になったんだ?」
男達から少し離れ、笹川に問い詰める。
「堅いこと言わないでよ。ナンパ対策に使っただけじゃん。」
「まあ、そうだけどさ…」
お前は大丈夫でも、俺は大丈夫では無い。
さっきから厨房の方から殺気を感じているのだから。
「てことで、今日は1日よろしく、彼氏君♥」
笹川はからかったつもりだろうが、厨房からの殺気は強まった。