第21話③
「そういえば、みゆうっていつから金髪なの?」
朝、薫と黄名子と私の3人で薫の家に集まり、夏休みの課題の追い込みをしている時、薫が言い出した。
「言われてみれば。私達と話すようになった頃はもう金髪だったよね。小4くらい?」
「当時もすごい目立ってたし。」
2人の質問に私は思い出しながら答える。
「2人と話すようになる少し前からだと思うけど。」
「なんで小学生で金髪にしようと思ったの?」
「たまたまテレビで見たハリウッド女優に憧れたんだよね。お母さんにお願いしたら全然良いよって言って貰えて。それ以降は定期的に染めてる。」
「中学の時とか注意されたんじゃない?」
「初めの頃はね。その内先生達も諦めたよ。」
中学は校則も厳しく、入学初日から怒られた。
それでも黒染めしなかったのは、思春期特有の反抗心からなのかもしれない。
当時は、ケンも私を説得するよう言われていたらしい。
「・・・黒髪のみゆう見たくない?」
そんな薫の発言に黄名子が目を輝かせる。
嫌な予感がした。
その予感は当たっていて、薫がタンスから黒髪のウィッグを取り出した。
「懐かしー!中学の文化祭で使ったやつだ!」
「何か使えるかと思って取っといたんだよね~!はい、みゆう」
「いや、つけないよ。」
そう言うも、2人は何かを期待するような目で見てくる。
「つけてくれないと、課題に集中できないな~」
黄名子がわざとらしく言う。
私は呆れながらも、1回だけつける事にした。
それが間違いだった。
「・・・これでいい?」
つけてみせると、2人して「お~!」という歓声を上げる。
「めっっっちゃ可愛い!」
「うん!髪色変わるだけ超清楚!」
「満足した?じゃあ早く課題やろ。」
「え~!もうちょっとだけ~」
黄名子がしがみついて抗議する中、薫は手を顎に当てて何かを考えている。
しばらくして、手をぽんと叩く。
「そのウィッグつけて、ケンティーに会いに行ってみよう!」
「はあ!?」
薫の発言に思わず声を張り上げる。
「な、何言ってんの!?そんなのすぐにバレて笑いものにされるだけじゃん!」
「私の見立てだと、ケンティーは清楚系がタイプだと思うんだよね。」
「ちょ─」
「それは分かる。多分、1組の冬咲さんみたいなのがタイプだよ。」
「今のみゆうなら、勝機が一気に上がる!」
「2人で勝手に話を進めんな!」
そう言っても、話は聞いてくれず、私の意見を無視して2人はせっせと準備をし、これまた薫が何故か持っていた純白のワンピースを着せられ、普段履かない高めのサンダルを履かされ、無理やり放り出される。
「んじゃ、頑張ってね。」
「惚気話待ってるから。」
ここまでした以上、手ぶらで帰ってきても2人は認めてくれないだろう。
仕方なく、気乗りしないがケンの家に向かい、緊張していたせいか、痴漢に気づかず助けてもらい、さらに助けてくれたのが偶然ケンで、思わずお茶しようなんて誘って、そして、地雷を踏んで…
「何してんだろ。私」
数分前、ケンの口から出た言葉を思い出す。
家族だって所詮は他人。
その気持ちは、私には分かる。
私だって、母の事は理解出来ないし、お義父さんは血の繋がりがない。
本当の父親は…。
違いがあるとすれば、そうなったきっかけだろう。
私は悟り、ケンは実感した。
そのケンの実感いうものを植え付けたのは間違いなく私の母親だ。
ケンをあんな風にしてしまったのは、私達だ。
「私じゃあ、無理なのかもしれない。」
ケンの辛さを受け止める覚悟が、私には無かった。
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夜、黄名子とみゆうが帰った後、私は部屋で久しぶりに出したウィッグとワンピースを片付けていた。
あの後、帰ってきたみゆうはどこか元気がなかった。
少し強引だったかもしれない。
何があったのかも話してはくれず、ケンティーと会ったかも聞けていない。
「今度、何かお詫びしなきゃね。」
そう独り言を言いながら、片付けを続けていると、机の上のスマホが鳴る。
手を止めて確認すると、ケンティーからのメッセージだった。
開いてみると
『海の家でバイトしないか?』
そんなメッセージと共に、住所と日付も送られてくる。
そういえば、今年は海に行けていない。
「こんなの、一択でしょ。」
私は行くウマの連絡をして片付けを再開した。