第20話②
「あんなもの二度と乗らない」
コースターを終えて、俺と笹川は飲み物を飲みながら休憩していた。
陸斗達は2人で別のアトラクションに向かった。
結果的に2人きりにすることができたので良しとしよう。
「だから無理するなって言ったんだ。安い挑発に乗って。子供かよ。」
「あれは黄名子の言い方が悪いわ。私がムカつくようにわざとやったのよあれ。」
笹川と和道は付き合いが長い分、お互いの良いことも悪いことも、それこそ弱点すらも知っているというわけだ。
「親友ってのも大変だな。」
「他人事みたいに言ってるけど、ケンティーだってまこっちゃんと親友でしょ?」
「まこっちゃんって誠の事か?まあ、親友と言えばそうだが…」
笹川達ほど付き合いが長い訳ではないので、何もかも知っている訳では無い。
「まあ何にせよ、しばらく休憩しないと動けない~」
机にぐったりとする笹川を横目に、手元の飲み物を飲む。
かなりの値段がした割には、誰でも作れそうな安い味がした。
「割高だな。このジュース」
「うわぁー、ケンティーってそういう事言っちゃうタイプ。デート中に言うと嫌われるよー」
「別にいいよ。デートする予定もないからな。」
「今は?」
「子守りの間違いだろ。」
笹川がにんまりとしてくるので、鼻で笑って返すと、一瞬で頬を膨らませた。
「そんなんだから、ケンティーはデートのひとつも出来ないんだよ。」
「バカにするなよ。俺だってデートくらいある。」
元妹とだけど。
「そうなの?彼女?」
「違う。」
「だよねー。ケンティーに彼女は出来なさそう。」
それは言い過ぎだろと言いたいところだが、実際にモテた事が無いため反論できない。
「そういう笹川は彼氏居たことあるのかよ。」
「それは秘密でーす」
元気になってきたのか、無駄に語尾を伸ばしたりと鼻につく言い方をしてくる。
「前にも聞いたけどさ、彼女欲しいとか思わないの?」
「今は思わないな。」
「それは何で?」
「何でって…」
トラウマのせいだと言えばいいのだが、どうしてそうなったかを説明したくない。
少し考え、無難な回答を口にする。
「先が想像出来ないんだよ。付き合ってから何かするところとか。」
言ってから本心に近いものだと気づく。
女子に興味がない訳では無い。
けれど、もし付き合ったとしてもその先が想像できない。
誰かが俺の隣に彼女として並んでいる景色が思い浮かばない。
「そんなの、経験してみないと分からなくない?」
「それはそうだが…」
「もしかしてケンティー、性欲ないの?」
「人並みにはある。」
「え」
「なんだよ」
「いや、正直すぎて…若干引く」
自分から聞いておいてその反応はないだろうと思ったが、女子に性欲の有無を言うのは新手のセクハラな気がする。
「・・・悪かった。」
「別に謝らなくてもいいけど。そっか、じゃあみゆうにもまだチャンスはあるのか。」
「花野井?何であいつが出てくるんだ?」
今の話の流れで花野井が出てくる場面はなかった。
「それが分からないんじゃ、ケンティーはダメダメだね。」
勝手に笹川の中だけで完結され、モヤモヤが残る。
問いただそうとも思ったが、これ以上恋バナを続けたくはなかったので呑み込む。
「よし!元気になってきたし、私らも行こっか。」
「そうだな。」
笹川の顔色が良くなったので、2人で席を立った時だった。
「お兄ちゃん…」
か細い声がどこからか聞こえた。
笹川も聞こえたらしく周りを見渡している。
しかし、声の主らしき人物はおらず、首を傾げていると、ズボンがぐいっと引っ張られ、下を見ると、小さな女の子潤んだ目で俺を見上げていた。
「えっと、お兄ちゃん?ケンティーの妹?」
「いや、全く知らない子だ。」
知らない子だが、小さな子を放っておく訳にもいかず、俺はしゃがんで女の子に話しかける。
「えっと、お母さんとお父さんは?」
そう聞くと、女の子は今にも泣き出しそうな顔をする。
どう対処すればいいか分からず慌てていると、笹川が言う。
「全く、ケンティーは本当にダメだね。」
言いながら笹川もしゃがみこむ。
「お名前は?なんて言うの?」
「・・・心春」
笹川が優しく聞くと、女の子は小さな声で言った。
「そっかー心春ちゃんって言うんだね。私は薫よろしくね。こっちのお兄ちゃんはケンティーだよ」
心春ちゃんも少し安心したのか、涙は引っ込んだようだ。
俺は素直に笹川に感心した。
「随分と手馴れてるな。」
「従兄弟の相手とかしてるからね。とりあえず、心春ちゃんのご両親を探さなくちゃね。」
そう言って笹川は心春ちゃんに手を差し出す。
心春ちゃんはそれをギュッと握ると、空いた方の手を俺に差し出してきた。
「えっと…」
「繋いであげなよ。お兄ちゃん。」
ニヤニヤと見てくる笹川はムカつくが、ここで拒否をしてまた泣かれても困るので、俺は心春ちゃんの手を握る。
「自力で探すよりも、迷子センターに行った方が良くないか?」
「それもそうだね。じゃあ自力で探しつつ迷子センターに向かおっか。」
俺達はトラブルに巻き込まれ、心春ちゃんと手を繋ぎ彼女の両親を探すことになった。