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第19話①

 「弟が最近生意気なんだけど、どうすればいいと思う?」


 黄名子の家で2人で夏休みの課題を写しあっている時、突然そんなことを言い出した。

 みゆうは1人でやるとのことで集まりには不参加だ。


 「1発殴るとか?」


 「薫は発想が怖いよ~」


 そんなことを言われても困る。

 私には弟どころか兄弟がいないのだから。


 「私には普通なんだけどさ~、お母さんにはきつく当たるんだよ~。」


 「弟って何歳だっけ?」


 「小6~」


 「それくらいの年頃の男の子なら普通でしょ。」


 「それもそうだけど~」


 思った以上に悩んでいるようだ。

 仕方がない。

 ここは私が一肌脱ぐとしよう。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




 夏休みと言えど、毎日予定がある訳では無い。

 暇な時間というものは必ずある。

 そんな時こそバイトをして、お金を稼ぐ。

 これも自立への1歩だ。

 

 「う~ん…」


 俺の隣には、同じくバイト中の笹川がいるのだが、出勤してからずっと何かを考えながら唸っている。


 「どうした?何か悩み事か?」


 解決出来るかは分からないが、誰かに話すことで楽になることもある。

 

 「私のことでは無いんだけど~」


 「じゃあ誰の?」


 「黄名子の」

 

 その名前を聞くと、一瞬ドキッとする。

 数日前に言われた言葉を思い出してしまうからだ。

 あの日以降、彩華とは若干気まづい。

 まあ、元々仲が良かった訳では無いが…。


 「和道がどうかしたのか?」


 「なんか、弟の態度がきついらしい。年齢的に普通のことだけど、黄名子は悩んでてさ~」


 他人の悩みにここまで真摯になれる笹川はやはり聖人である。

 そのせいで仕事が遅れるのはやめてもらいたいが…。


 「ケンティーは家族仲良い?」


 「親父とは悪いな。」


 「お母さんとは?」


 「母親の事は知らん。」


 義母とは普通だが、本当の母親はもう顔も覚えていない。

 写真も残っていなくて、思い出すこともできない。


 「彩華ちゃんとは?」


 その質問は即答できなかった。

 高校に入学してすぐの頃なら、迷わず不仲だと言えただろう。

 だが、最近はどうだろう。

 悪態は変わらずつかれるが、以前ほど鋭くないし、会話も増えた気がする。

 

 「・・・可もなく不可もなく?」


 結論は出ず、中途半端な答えになった。


 「変な答えだね。てか、母親は知らないってどういう意味?」


 「今の母親は義母なんだよ。形式上でのな。」


 「え!?そうなの!?」


 別に隠しているわけでもないので、間柄を言うと、心底驚いている。


 「だからまあ、母親としては見てないけど、別に嫌な人でもないから正直興味無いな。」


 「ひぇー、ケンティーって意外と苦労人なんだね~」


 そこまで苦労はしていないのだが、まあ母親が3回も入れ替わるというのは、苦労してることになるのだろうか。


 「彩華ちゃんは?母親の連れ子だったりするの?」


 「そうだな、形式上は妹って言ってるだけだ。」


 「さっきからその形式上って何?」


 「そのままの意味だよ。形式上妹ってだけで、実際は他人だろ。」


 そこの一線は引いておかなければならない。

 

 「ふーん。それにしては、仲良いよね。」


 「そう見えるだけだ。」


 そう。見えるだけ。

 彩華は知らないが、俺は彩華に本音で話した事などほとんどない。

 どこまでいっても他人なのだ。

 理解し合えるはずがない。


 「本当の母親に会いたいとか思わないの?」


 「思わないな。」


 昔は考えたりもした。

 けれど、覚えてもいない母親に愛情などない。

 それに気づけば、自然と知りたいという気持ちは無くなっていた。


 「てか、何でこんな話をしてるんだ。俺達は。和道の弟の話だろ。」


 「そうだったそうだった。」


 「何がどうおかしいんだ?」


 「黄名子が言うには、態度が冷たいのもそうなんだけど、よく遊びに行ってから帰ってくるのが遅かったり、毎日のように友達の家に泊まったりしてるんだって。どこの家か聞いても教えないらしくて。けど他の子も一緒みたいだし、翌朝には帰ってくるから心配ではあるけど事件とかではないと思うって言ってた。」


 それを聞いた時、嫌な予感がした。

 鼓動が早くなり、あの女の顔が思い浮かぶ。

 根拠なんてない。

 けれど、その顔がチラついて仕方がない。


 「ケンティー?顔色悪いよ?」


 「・・・大丈夫。和道の弟には1度きつく言った方がいいだろうな。ごめん、ちょっと気分悪いから休んでくる。」


 「う、うん。」


 マスターにも許可を取り、俺はスタッフルームで横になる。

 その間もあの女の不敵な笑みが頭にこべりついていた。

 

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