第18話②
(あれは…)
図書室に入りいつも座っている席に向かうと、そこには彩華が座っていた。
何かを必死にやっているようで、俺の存在に気づいていない。
近くまで行ってみると、夏季課題をしているのが分かる。
「今日は雪でも降るかもな。」
あまりに珍しい光景につい話しかけてしまった。
彩華は一瞬驚いた顔を見せて、すぐに険しい顔に戻る。
「何?私が宿題やるとそんなにおかしい?」
「少なくとも、俺は見た事なかったからな。」
言いながら、俺は彩華の向かい側に座る。
「いきなりどうした?中学の時なんかは、ギリギリまで残してただろ。」
あの頃は親父が再婚してすぐの頃だった。
リビングで瞳さんに怒られながら徹夜していた彩華を思い出す。
「別に、ただの気まぐれだし。」
「てか、部活は?」
「今日は終わった。家帰ってもやる気出ないから、ついでにやってるだけ。」
「・・・本当に雪降りそうだな。」
真面目なことを言う彩華は本当に珍しい。
何か心境の変化でもあったのだろうか。
「で?絢士郎は何しに来たの?」
「あ、そうだった。俺も宿題だ。」
俺は筆記用具と課題を取り出し、彩華に倣って黙々と進めて行く。
しばらく黙ってやっていると、彩華がうねり始めた。
分からない問題にでもぶち当たったのだろう。
「どれが分からないんだ?」
こういう時は大体「余計なお世話!」と返ってくるので、ダメ元で聞いてみる。
「ここの問2。解き方すら分からない。」
「え!?」
素直に答えた彩華につい声が出てしまった。
「何?」
「いや、いつもなら俺から教わろうとしないのになって…」
「背に腹はかえられないでしょ。」
照れながら言う彩華を見て、少し笑ってしまう。
俺は彩華に解き方を教えていく。
理解していくにつれて、彩華の顔がどんどん明るくなっていく。
「で、これを代入すれば解ける。」
「すっご!ありがとう!絢士郎!」
最後まで教えると納得し、満面の笑みで言った。
今日はやけに素直だ。
「・・・まじで何かあったのか?急に勉強しだすなんて。」
さすがに気になった俺は、問いかける。
彩華は黙っていたが、また照れながら言う。
「私も、絢士郎のこと、ちゃんと知ろうと思っただけ。」
「私も?」
「ほら、この前花野井があんたの事詳しかったから。それが、なんか悔しくて。勉強すれば少しは理解できるかなって…」
「お前、本当にどうしたんだ?」
「は!?」
さすがに心配になるレベルだ。
俺の事を知りたいだなんて、嫌いな奴に言うセリフでは無い。
ふと和道の言葉を思い出す。
もしかすると、彩華も…
「なあ彩華」
「何?」
「お前、俺の事好きか?」
「は、はぁ!?」
彩華は立ち上がり、悲鳴のように叫ぶ。
周りにいる数人がこちらを睨む。
「な、ななななな何言ってんの!?」
「いや、俺の事知りたいなんて言い出すから。」
「す、好きなわけないでしょ!?てか!私達兄妹でしょ!」
「いや、でも形の上ではだろ?実際は他人なわけで─」
「だからって!そんな発想にならないわよ!」
彩華は道具を鞄に詰めて、図書室を出ていった。
「・・・確かに、ちょっとキモかったな。」
仮とは言え、妹に対して俺の事好きかはキモすぎるし、痛すぎる。
「やっぱ、変なこと考えるのはやめだ。冬咲の話だって、和道の意見にすぎないんだし。」
俺は静かになった図書室で黙々と課題を再開した。