第2話①
(なんだったんだ?結局)
あの後、冬咲に学校から駅までついてこられたが、結局何も話すことはなく、改札に入ったところで冬咲は自分の友達と合流し帰って行った。
昔もそうだったが、何を考えているのか分からない女だ。
(やめやめ。俺には関係ないことだろ。)
冬咲の思考を考えても得はないので、思考を放棄する。
歯を磨きながら鏡を見ると、前髪が随分と伸びていることに気づいた。
目が隠れてしまっているので、人と話す時失礼になるかもしれない。
「ねえ、いつまでそこに突っ立ってんの?どいてくんない?」
前髪をいじっていると、彩華がいつも通りのきつい口調で言ってきた。
「分かったよ。」
彩華と話すと疲れるので、俺はさっさと口を濯ぎ部屋に戻ろうとする。
「ちょっと」
すると彩華が呼び止めてきた。
面倒くさかったが、無視をするともっと面倒なので、一応振り向く。
「今日、冬咲と帰ったの?」
「なんで知ってる。」と言おうとしたが、こちらがグラウンドの彩華を見たんだ。
向こうから見られていても不思議では無い。
「別に。駅まで一言も喋らず、ついてこられただけだよ。」
「・・・本当に?」
嘘など言っていないのだが、彩華は妙に神妙な面持ちだ。
そんなに気になるものなのか。
「嘘だと思うなら、冬咲にも聞いてみろよ。」
その言葉を最後に俺は洗面所を出て部屋に戻った。
「何なのよ。バカ」
彩華の小言は絢士郎の耳には届かなかった。
翌日、俺は風紀委員の仕事で、朝校門前で挨拶をしなければいけなかったので、早めに家を出る。
風紀委員になったのは単純にジャンケンで負けたからだ。
それでもなったからには半端にはしない。
8時に門に集合で、5分前に行くと、俺ともう1人以外の1年生の委員は集まっていた。
1年生しか居ないのは、学年毎に当番制だからである。
8時になっても、もう1人が来ることはなく、待っている意味はないので挨拶を始める。
行き交う生徒に挨拶を続けていると、8時15分頃にそのもう1人である花野井 みゆうが登校してきた。
「花野井、今日は挨拶当番の日だぞ。」
「すみません。忘れてました。」
先生が注意をするも、誰でも分かるような嘘をついている。
3週連続で来ていないのだから、サボりで確定だろう。
「あ、あの、花野井さん、来週はちゃんと来てくれない、かな?」
花野井と同じクラスの風紀委員の男子が恐る恐るといったように言う。
「覚えてたらね。」
それは絶対に来ないと言っているようなものだ。
男子の方も見た目がギャルの花野井にビビってそれ以上言おうとしない。
「花野井、来週は絶対来い。」
「は?」
さすがに他の奴に迷惑がかかっているので、俺は口をだす。
「お前が仕事ない分、もう1人が苦労すんだよ。委員になったんならちゃんとしろ。」
そう言うと、花野井は顔を顰めて言う。
「あんたに迷惑かけてないからいいでしょ。こっちのクラスの問題だから。」
「回り回って風紀委員全体の迷惑になってんだよ。それに、お前だけサボっていいなんて不公平だろうが。」
「だから?私には関係ないし!」
「関係ないわけな─」
そこで気づく。
少しづつ言い合いになっていることに。
他の風紀委員もおろおろとしている。
俺は少し冷静になった。
「・・・関係ないなら、他の奴に変われ。出来ないなら、やらなくていい。」
「は?何それ。」
花野井は静かに言った。
「私の気も知らないで。」
そう残し、花野井は立ち去った。
「悪かったな。でしゃばって」
「ううん。三井君はすごいね。僕は花野井さんと言い合うなんてできないよ。」
花野井のクラスの男子に謝罪し、周りの人にも謝罪する。
(あいつと話すと、いつもこうなるな。)
花野井とは中学の頃から喧嘩ばかりだ。
一生分かり合う事は出来ないだろう。
結局、花野井は校門に来ることはなく、俺達は予鈴前に教室に戻った。