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第17話②

 オープンスクールで体育館を使うため、バスケ部や陸斗達バドミントン部なんかは、その期間中は走り込みやらウェイトなどの練習をするらしい。

 さっき陸斗が向かったのも、食堂が開放されていないあたり、その近くのウェイトルームに向かったのだろう。

 舞台の下からパイプ椅子を取り出し、均等に並べていく。

 参加する中学生の数が多く、その分準備することも比例して多くなり、思った以上に時間がかかる。

 昼前に終わる予定だったのが、オーバーしそうということで、各々昼食を摂るように言われた。

 食堂は開いていないので、外に食べに行くことを決め、体育館を出る。


 「ちょっと待って」


 すると花野井に引き止められる。


 「なんだ?」


 「私も今からご飯なんだけど、一緒に行く?」


 どういう風の吹き回しだろうか。

 確かにラーメンは食いに行ったが、頻繁に食いに行く仲でもない。

 

 「・・・何か企んでる?」


 「何言ってんの?行くの?行かないの?」


 「まあ、じゃあ行くか。」


 「ん」


 断っても良かったが、そこまで嫌だと言う訳でもないので、ご一緒することに決める。

 昔のように喧嘩する訳でもあるまいし。


 「そういえば、テストまた2位だったね。」


 無言で歩くのかと思ったら、花野井が話しかけてきた。

 

 「まあな。あの日は腹痛が酷くてな。あれが無ければ1位だった。」


 つまり、全ては彩華のせいだ。

 それを言うと、花野井はふっと笑う。


 「何それ。ただの言い訳じゃん」


 「ぐっ!・・そういうお前も今回は名前載らなかったな。」


 「前のは偶然だし。知らないの?私元々頭悪いんだよ。」


 「生粋の馬鹿だもんな。・・いって!」


 そう返すと、足の先踏んできた。

 

 「何すんだよ!」


 「別に。ムカついただけだし。」


 「このやろう…」


 ちょっとばかしの喧嘩をしながら、並んで歩く。

 喧嘩と言っても、以前のような険悪な雰囲気ではなく、むしろ…。

 あの日以降、花野井が丸くなった気がするのは気のせいだろうか。


 「ちょっと待ったーーー!」


 門を出ようとした時、後ろから叫び声が聞こえ、思わず振り返る。

 するとそこには、息を切らした彩華とその横に爽やかイケメンが居た。


 「彩華?何だよ。」


 「2人で、何してんの!?」


 「今から飯食いに行くんだけど?」


 「わ、私も行く!」


 「はあ?部活は?」


 「今日は午前練で、今から食べて帰ろうと思ってたの!何?嫌なの?」


 「嫌ではないけど…」


 気まづいのは違いない。

 今の妹と前の妹とご飯なんて、どこの主人公だろうか。


 「こら、彩華。あんまりお兄さんを困らせるもんじゃないだろ?」


 隣のイケメンが彩華を宥めている。

 口ぶりからして彩華とも友好な関係を築いているようだ。

 そんなイケメンは俺達の方を向き、自己紹介をする。


 「初めまして。2年の梅木 昌磨(うめき しょうま)だ。彩華の陸上部の先輩。よろしく。」


 そう言って手を出してくるので、俺は握手をして名乗る。

 それに倣って、花野井も名乗る。


 「三井 絢士郎です。」


 「花野井 みゆうです。」


 絵に書いたような爽やか笑顔を向ける梅木先輩はどこか胡散臭さを感じる。


 「2人は、付き合ってるのかな?」


 「違います!ただの他人同士です!」


 質問に答えたのは彩華だった。


 「えっと…そうなの?」


 困ったような顔を梅木先輩がしている。

 この人も苦労してそうだ。

 胡散臭いなんて思って申し訳ない。


 「友達ですよ。ただの。」


 「え?」


 そう言うと、花野井がこちらを見て目を丸くする。


 「なんだよ?」


 「いや、別に。そっか、友達か…。」


 どこか嬉しそうな表情を浮かべる花野井を見て、怪訝な顔をするのは彩華だ。

 

 「彩華が一緒するなら、俺もいいかな?」


 「もちろんいいですよ。」


 彩華の相手は疲れるので、引き受けてくれそうな先輩が同席するのは、こちらとしてもありがたい。

 4人で学校を出て、近くのファミレスに向かった。

 道中、彩華はずっと俺を睨んでいたが、関わりたくないので、無視をした。

 



 平日ということもあり、待つことはなく席についた。

 各々注文を済ませると、話題は部活のことになった。


 「梅木先輩は、陸上の成績とかどうなんですか?」


 「どうかな。エースではないけど、そこそこはイケてると思うよ。それに比べて彩華はすごいよ。」


 そう言って、彩華の頭にぽんと手を乗せる。

 そういう行動を素でできるのはモテる男だからだろうか。

 彩華は嫌そうにしているが…


 「彩華はうちの期待のエースだよ。この前のインターハイ予選だって、1年生ながらに県大会の出場を決めたんだ。」


 「へー」


 「見た目によらずやるのね。」


 「もっと興味を持ちなさいよ!てか、絢士郎はなんで知らないのよ!」


 そんなことを言われても、興味のないことは右から左に聞き流しているので、仕方がない。


 「えっと、絢士郎君は何か部活はしてるのか?」


 話を逸らすように梅木先輩が聞いてくる。


 「いえ、何も。」


 「そうなのか?勿体ない。運動神経いいのに。」


 「どうして先輩が絢士郎の運動神経知ってるの?」


 彩華の疑問に梅木先輩はニコッと笑って答える。


 「絢士郎君と後、唐沢 誠君は入学当初話題になったんだ。体力テストで全種目満点取った奴が居るってね。」


 「え!?そうなの!?」


 彩華は知らなかったのか大袈裟に驚いている。

 花野井は特に驚いた様子はない。


 「さらに言えば、ひとつひとつのタイムや記録も全国でも上位だったって聞いた。」


 その情報にさらに彩華が仰け反る。


 「だから、勿体ないと思うんだけど。どうして何もしないんだ?」


 心底不思議と言う顔で梅木先輩が聞いてくるので、本心で答える。


 「バイトしたいですし、そもそも部活に興味ありません。それと、全部満点では無いです。俺も誠もボール投げは9点でしたよ。」


 「そっか、まあ、考えは人それぞれだしな。でも、才能があるのに、本当に勿体ない。」


 「才能なんかじゃありません!」


 そう否定したのは俺ではなく彩華だった。


 「絢士郎が運動神経がいいのも、勉強ができるのも、人一倍努力してるからです!才能なんて言葉で片付けないでください。」


 そう言う彩華の目は、怒っているように見えた。

 

 「彩華、熱くなりすぎ。周りに迷惑かかってる。」


 静かにしていた花野井が注意すると、ハッとした彩華は「すみません」と周りと先輩に謝った。


 「いや、こっちこそごめん。そうだよな。絢士郎君の努力の結果だよな。ごめん、絢士郎君」


 お人好しな先輩だ。

 気にする必要などないのに、こちらにも謝罪してくる。


 「いえ、気にしてません。ただの自己満足なんで、他人の意見はどうでもいいですし。」


 「てか、彩華って絢士郎が運動出来ること知ってたのね。驚いてるから知らないと思ってた。」


 「そ、それは!?まさか、体力テスト満点までとは思ってなくて…。てか、あんたは知ってたわけ?」


 「そりゃそうでしょ。同じ中学なんだから」


 何故か誇らしげな花野井に「ぐぬぬ!」と悔しそうにする彩華を見て、俺は首を傾げた。

 



 ファミレスを出た後、彩華は梅木先輩に任せて、俺達は学校に向かって歩き出した。

 彩華も戻るとうるさかったが、邪魔になりそうなのでどうにか説得した。


 「あの子、本当にうるさいよね。よく毎日相手してるね。」


 花野井がこめかみを抑えながら言う。


 「いや、適当にあしらってるだけだけどな。花野井こそ、随分と仲良く見えたけど?」


 「別に、この前泊めてもらった時に、普通に話すようになっただけ。実際喧嘩ばっかだったでしょ。」


 確かに、食事中も小さなことで言い合っていた。

 俺は慣れているからいいが、先輩は若干引いていた。


 「喧嘩するほど仲が良いって言うだろ?」


 「だったら、私達は仲良かったの?」


 そう言われるとNOだと即答できる。


 「こりゃ1本取られたな。」


 「馬鹿じゃん。でもまあ─」


 みゆうは絢士郎に聞こえないような声で呟く。


 「今は、友達だけどね。」


 「ん?なんか言ったか?」


 「別に、ほら、早く戻るよ。」


 そう言って花野井は急に走り始める。

 慌てて俺は後をついて行く。

 花野井のテンションが珍しく高かった理由が、俺には分からなかった。

 

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[一言] みゆうさんかわいいー
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