第17話①
夏休みに入っても、部活動をしている人間は学校に行かなくてはならない。
そうでない者も、長期休みに関係なく学校に登校せねばならない時がある。
俺もその1人である。
今日は、夏休み中に行われるオープンスクールの準備をするために、風紀委員は学校に行かなくてはならず、朝から制服を着て学校に向かっている。
相変わらずの暑さで、こんな中部活をしている人は本当にすごいと思う。
普通よりは遅い時間の登校なので、電車の中は涼しいが、外に出た瞬間の熱気は計り知れない。
炎天下を足早に歩き、学校に到着後は集合場所の教室に向かい、エアコンが効く中で扇風機の前で涼む。
「おはよう、三井君」
行儀悪く涼んでいると、同じクラスの風紀委員である加瀬 梓が話しかけてきた。
「おはよう。加瀬も当たるか?」
「女の子は人前でそんな風に涼む事はしないのだよ」
人差し指を上げながら加瀬は説明する。
「別に誰も気にしないだろ。」
「そういう問題じゃないよ…」
加瀬が呆れたような表情をする。
どうも彼女にはダメな奴だと思われている節がある。
「2人とも、朝から元気だね。」
そんなやり取りをしていると、花野井のクラスの風紀委員根塚 蓮太も話に合流する。
花野井が委員の仕事をしていなかった時、フォローなどをしている内に話すようになった生徒だ。
気弱なため、花野井に今でも少しビビっている。
「おはよう根塚。元気に見えるならお前は疲れているな。」
「まあ疲れるのも分かるよ~。暑い中学校来るのはしんどいし、何より夏休み中だしね。」
「あはは。でも、部活がある人はみんな来てるしね。」
「部活は自分の意思でするものだよ~。私達のは強制労働じゃん。」
俺と同じくジャンケンで負けて委員になった加瀬は、今日の仕事のモチベが上がらないらしい。
「だったら、終わった後の事でも考えたら?」
そこに花野井が突然乱入してくる。
俺と加瀬は驚き、根塚は悲鳴を上げている。
「お、おはよう、花野井さん。脅かさないでよ…」
「そんなつもりはなかったんだけど。なんかごめん。」
「う、ううん!こっちこそ!」
加瀬が謝る必要はないのだが、花野井の迫力に反射的に謝罪の言葉が出ている。
見た目が派手な花野井が怖く見えるのも分かるが、過剰な気がする。
いつの間にか根塚は場を離れているし…。
「遅刻もせずに来たんだな。」
花野井に慣れていない加瀬に変わって、俺が話す。
「・・・まあ、家に居てもって感じだし。」
花野井の家も色々とある。
長期休みにもなると尚更。
あまり深くは追求せず、世間話を続けた。
時間になると委員会の顧問と風紀委員長が来て、今日の仕事の説明を始めた。
内容は、体育館に備品を運んだり、訪れる中学生の案内などをするらしい。
「案内って…生徒がやることか?」
「まあ、先生達も忙しいからじゃない?」
小声で文句を言うと、加瀬も小声で「仕方ないよ」と言ってくる。
確かに、学校の先生は顧問などもしているし、そういった仕事では給料が出ないと聞く。
使える者は使いたいという気持ちが強いのかもしれない。
「とりあえず今日は、備品の準備をする。1年生は体育館に向かってー」
顧問の先生が学年ごとに仕事を割り振っていく。
1年の風紀委員は体育館で仕事が決まる。
俺達は教室を出て、ぞろぞろと体育館に向かう。
「あれ?ケンじゃねえか。」
道中、体育館に繋がる廊下で陸斗と会う。
陸斗は他の部活の生徒に何かを言って、こちらに向かってくる。
他の生徒は食堂の方に向かって歩いて行った。
「おっす!ケン、それと加瀬さんも!」
「暑苦しいほど元気だな。」
「お、おはよう!冨永君!」
加瀬の声が裏返る。
「?おう、おはよう加瀬さん。」
加瀬の反応に首を傾げながら陸斗は挨拶を返す。
それが嬉しかったのか、加瀬は表情を少し緩ませる。
(おや?これは?)
つまりはそういうことである。
「それで?ケン達はなんでいるんだ?」
鈍感な陸斗は気づかなかったようだ。
こんなにも分かりやすいのに。
とは言え、口に出すことでもないので、俺は普通に会話する。
「風紀委員の仕事でな。陸斗は部活か?」
陸斗はバドミントン部に所属している。
夏の練習は地獄だと嘆いていた。
「まあな。窓も開けらんねえからサウナみたいだ。お前らも熱中症とか気をつけろよ。ほれ」
そう言って、陸斗は塩分入りのタブレットをくれた。
「ほい、加瀬さんも」
「あ、ありがとう!大事にするよ!」
「いや、さっさと食べな!?」
なんというか、陸斗と接している時の加瀬は乙女の顔をしていて、ぬるい目で見てしまう。
「んじゃ、俺はそろそろ行くわ。またな2人とも」
陸斗は食堂の方に走って行った。
そんな背中を加瀬はじーっと見つめている。
「・・・陸斗の事好きなの?」
「は!?な、なんのこと!?」
まさか、あれで隠せているつもりなのだろうか。
誰が見たって分かるほどだ。
気づかないのは陸斗くらいだろう。
「・・・まあ、頑張れ。」
「・・・三井君デリカシー無さすぎでしょ。モテないよ。」
「・・・そうっすかね。」
陸斗が和道に惹かれている事を知っている身としては、若干気まずい空気だった。
(まあ、当人次第だし。)
俺は何も言わずに、体育館の中に入った。