第16話③
気まずい空気は続いていたが、4階のフロアに来たところで、それも終わる。
4階にはアザラシやペンギンが泳いでいたり、陸上で歩いていたりと賑やかだった。
運がいいことに、ちょうど食事の時間らしく、ガラスの前には他のフロアよりも人集りができていた。
俺達も近くまで行くが、人が多すぎて中々見れない。
「運がいいような悪いような。」
「悪いんじゃないでしょうか。見れないんですし。」
結局、人が散り始めた頃には、食事も終えており、ペンギン達は可愛かったが、俺達は肩を落とす。
「う〜見たかったです。やっぱり平日にするべきでした。」
今日は休日ということもあり、家族連れが多い。
「また来ればいいだろ。夏休みはまだあるんだから。」
そう言うと、冬咲は目を丸くして俺を見る。
「また、一緒に行ってくれるんですか?」
「いや、俺とじゃなくても、友達とか家族とか。」
「いえ、三井君としか来ません。」
そんなセリフを言われると、ドキッとしてしまう。
(こいつ、どんな気持ちで言ってんだ!?)
元兄で、家族だった男に言うセリフではないと思う。
まあ、俺も冬咲に対して可愛いとか思ってしまうあたりおかしいのかもしれない。
4階を一通り見終わった後、シャチのパフォーマンスを見るために別館に移動する。
1時間後のショーの席予約は意外にも空いており、あっさりとできた。
時間があるので、同館にあるレストランで昼食を済ませる事にした。
「どれにするか迷います。」
レストランはバイキング方式で、色んな食事が並んでおり、キッチンにはリアルタイムで料理をするシェフが忙しそうにしている。
「食べたいなら全部取ればいいだろ?何に迷ってるんだ?」
「・・・三井君、女の子には色々と気にしなくてはいけない事があるんですよ。」
「あーなるほど。」
何となく察した俺は、無意識に小さな声で呟いてしまった。
「体重か。」
その瞬間、冬咲が般若のような表情で睨んできた。
背中から黒いオーラが見えた。
「何か言いましたか?三井君」
「いや、なんでもないです。」
いつも温厚な人が本気で怒ると何よりも怖いというのは、どうやら事実だったようだ。
冬咲が悩んでいる内に、俺は食べたいものを皿に乗せていく。
ある程度乗せたところで冬咲の所に行くと、結局全ての料理を皿に乗せていた。
「結局食うのかよ!」とツッコミたかったが、怖かったので呑み込んだ。
「あれ、凄いですね。」
空いている席を探しながら、レストランにある水槽を見る。
そこには、ショーをするであろうシャチが2匹泳いでおり、圧巻だった。
「せっかくだし、水槽の近くで食うか?」
「いえ、怖いので遠いところにしましょう。」
俺も別にシャチの近くがいいというわけではないので、冬咲の意見を尊重し、水槽からは離れた席を確保する。
学校の事なんかを話しながら食事をする。
口に食べ物を含む度に、「ん~!」と美味しそうに食べる冬咲を見て、俺は思った事を口にする。
「昔は無愛想だったのに、色んな表情を見せるようになったな。」
そう言うと、少し顔を赤くして恥ずかしそうな表情をする。
これも昔は見せなかった表情だ。
「あの頃はその、苦手だったんです。男の人が。」
「苦手だった?」
そう聞き返すも、冬咲は食事を再開した。
まるではぐらかされたような感じだ。
気になるが、問い詰める訳にもいかず、俺も食事を再開する。
楽しい時間に聞くような事ではなかったのかもしれない。
俺は少し反省し、気持ちを切り替えた。