第15話②
陸斗からお願いされたので、俺と誠はとりあえず協力をすることにする。
とは言っても、できることなど特になく、俺はテスト前日にも関わらずバイトに励んでいた。
前日に無理をしても意味がないので、お金を稼ぎに来てる訳だが、ここで思わぬチャンスが巡ってくる。
俺と同じ考えなのか、最初から諦めているのかは分からないが、笹川もシフトを入れており、和道の事を聞くチャンスである。
「なあ、笹川」
「なんだねケンティー」
「和道って彼氏居るのか?」
そう聞くと、笹川は目をキランと光らせて、俺に詰め寄り、勢いよく話し始める。
「なになに!ケンティー黄名子の事好きなの!分かるよー!黄名子可愛いもんね!」
「いや、別にそういうわけでは─」
「隠さなくたっていいよ!恋することは恥ずかしいことじゃないんだから!あ!でも、それだとみゆうが…」
「だから違うって!話を聞け!」
少し大きな声が出てしまい、マスターに睨まれる。
俺達は少し声の音量を落としながら続ける。
「じゃあなんで黄名子の彼氏の有無を?」
陸斗には極力内緒だと言われているが、背に腹はかえられない。
俺は笹川に事情を話すと、納得したようで、何度も頷いている。
「そっかー、りっくんがねー。見る目あるなー、りっくんは。」
「それで?和道に彼氏は?」
本題に戻ると、笹川はすんなりと教えてくれた。
「彼氏は居ないと思うよ。出来たらあの子、絶対私達に自慢するから。好きな人も居ないんじゃないかな。」
「その根拠は?」
「女の勘!」
その言葉は妙に説得力を持っていた。
「なるほど。それなら、陸斗にもチャンスはあるか?」
「少なくとも、0では無いね。あの子、嫌いな子には話しかけないから。よく喋るってことは、友達とは思っているはず。」
「よく知ってるんだな。和道のこと。」
「そりゃー小中一緒だからね。みゆうもその予定だったんだけど、あの子の親が再婚してさ。それで中学は離れたんだよね。」
その再婚相手は俺の親父なので、何だか申し訳なくなった。
ともかく、笹川からの情報はかなり有力なものだ。
これなら陸斗の恋路の協力をした事になるだろう。
「ありがとう。助かったよ。」
「全然いいよ。ケンティーはどうなの?」
「どうって?」
「りっくんは黄名子が好きなんでしょ?ケンティーは?好きな子居ないの?」
ここぞと言わんばかりに恋バナを始める笹川。
面倒だが、こちらから始めた話題なので拒絶できない。
「今は居ないよ。」
誠達に言ったように答えると、笹川も同じような反応を見せる。
「え!ケンティーにも昔は好きな子居たんだ!意外~」
本当に失礼な奴が多い。
「昔はな。今は本当にいない。」
「ふーん。まあ私も特に居ないから、嘘だとは思わないけど。でも、友達の協力してる暇あるの?」
「と言うと?」
「高校生になって初めての夏休みだよ?彼女欲しくない?」
「別に。笹川こそどうなんだ?」
「私も、願望はないかな。」
それこそ意外だと思ったが、口に出すと怒られそうなので、言葉を呑み込む。
「でも、りっくんの事は気になるね。そうだ!夏休みに背中押してあげようよ!」
笹川の目がさらにキラキラと輝き、そんな提案をしてくる。
「どうやって?」
「前に勉強会した6人で遊ぶんだよ!それで、りっくんと黄名子を2人っきりにしてあげるとか!」
「それはお節介が過ぎないか?」
「そんなことないよ。私の見立てでは、りっくんはああ見えてヘタレだと思うんだよね。これくらいしてあげなきゃ、絶対何も起きない。」
居ないところで、散々な言われようだが、笹川の言いたいことは何となく分かる。
それに、陸斗の恋路を本気で応援したい気持ちもある。
「まあ、そうだな。それくらいしてやるか。」
「決まり!じゃあ、夏休みにちゃんと予定空けといてよ。」
「6人だからな。合わせるのは大変だな。」
「そこは何とかなるでしょ。ほら、約束の指切り」
そう言って、以前のように笹川は小指を前に出してくる。
俺もそれに応えるが、気になったので聞いてみる。
「笹川って、指切り好きなの?」
「好きっていうか、おまじないみたいな物だよ。昔よく、お父さんとしてたんだけど、その癖が抜けなくてさ。」
思った以上に可愛らしい理由だった。
とりあえず、今年の夏休みは忙しくなりそうだ。
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数日後、期末テストの全教科が終わり、順位が張り出される。
俺の順位は変わらず2位で、1位は冬咲だった。
テスト中の腹痛がなければ、1位には俺の名があっただろう。
過ぎた事を悔やんでも仕方が無いので、切り替える。
ちなみに、花野井の名前はなかった。
どうやら、今回は順位が下がってしまったようだ。
代わりに、誠の名前が6位にあった。
今回は相当頑張っていたので、結果が出たようで俺も少し嬉しかった。
陸斗は知らん。
「2位おめでとうございます。」
冬咲が近づいて来て、どこかで聞いた事のあるセリフを言う。
「・・・1位に言われると、嫌味にしか聞こえないな。」
「ご心配なく。嫌味のつもりですから。」
以前と同じように返してみると、全く同じ返答が来た。
自分の持ちネタにでもするのだろうか。
「今回は途中でトイレで退出していましたね。あれがなければ負けていたかもしれません。」
「そうだな。言い訳にしか聞こえないだろうが。」
「まあ、そうですね。」
冬咲はクスクスと笑っている。
「何はともあれ、テストも無事終わった訳ですし。明日は楽しみましょうね。」
「・・・明日か。本当に初日から行くのか?」
「はい。早い方が三井君も助かるでしょ?」
「・・・分かった。」
「では、明日駅に集合で。楽しみにしていますね。」
そう言って、ニコッと笑い冬咲は立ち去った。
陸斗の恋路を応援する前に、俺には夏休み初日から試練が待ち受けている。
以前、彩華のいじめ騒動の解決の際、協力する代わりに、冬咲から出された条件。
夏休みにデートをする。
明日が、そのデートの日である。
他の奴が聞けば、羨ましいと思うことなのだろうが、俺は憂鬱な気持ちでいっぱいだった。