第15話①
中庭を後にし食堂に到着すると、「用事を思い出した」とか言って彩華は走り去って行った。
食堂に用事があると言っていたのは何だったのか…。
考えても意味はないので、俺は誠達の座っている席に合流する。
「悪い遅くなった。」
「別に構わねえけど。何してたんだ?」
「・・・ちょっとトイレに」
説明が面倒くさかったので、俺ははぐらかした。
それを察した誠は、それ以上は聞いてこなかった。
菓子パンは食べたが、口の中の炭の味が完全に消えてないので、おにぎりの袋も開ける。
誠はカレーを食っていたが、陸斗は食べ終わったのか、じっと待っている。
「陸斗、何ぼーっとしてんだ?」
暇なら携帯でも触ればいいし、何か話せばいいのに、黙っているなんて陸斗らしくなく、俺は気になり問いかける。
その問いに陸斗は、少し恥ずかしそうに頬をポリポリと掻きながら言う。
「あ、あのさ、和道さんって、彼氏とかいるのかな?」
「和道さん?なんだ突然?」
「いや!?別に!?深い意味は無いけど!?」
その反応で俺達は察した。
「何?陸斗、和道さんが好きなのか?」
誠がニヤニヤとしながらからかう。
「バッ!?そんなんじゃねえよ!ただ、ちょっと気になるっていうか…」
「反応ガチじゃねえか。でも、そんなに接点あったか?」
「ほら、この前一緒に勉強したじゃん?あれ以降、すれ違う時とか結構話しかけてくれてさ。それで、その…」
話している内に気になり始めたということか。
和道 黄名子と言えば、さっきも会ったが、言葉で表すなら天真爛漫が合っている少女だ。
花野井達と3人でいる時も、1番喋っている印象がある。
その点においては、陸斗も似たような性格なので、お似合いと言えばお似合いかもしれない。
「ヒュー!熱いねー!」
「か、からかうなよ!いいだろ別に!お前らだって、気になる奴くらいいるだろうが!」
陸斗が顔を真っ赤にしながら言う。
それに対して誠は、飄々とした態度で答える。
「別にいねぇーな。中学の時から。」
誠は体育会系イケメンだ。
入学当初も学年で話題になるくらいには。
それでも、今まで付き合ったという話は聞いたことがない。
本人に興味がないのかもしれない。
「くっ!イケメンが言うと真実味が増すな。ケンはどうなんだ?」
陸斗はほんの少しの期待を込めて聞いてくる。
俺も今は特にいないが、陸斗が可哀想なので、少し隙を見せておく。
「今は居ないな。」
そう言うと、2人して黙った。
目を細めてもこちらを見てくる。
「なんだよ。」
「いや、ケンって恋とかするんだー。と思って。」
「お前は本当に興味がないと思ってた。」
なんて失礼な連中だろう。
まあ、言いたいことは分かるが。
今でこそ、トラウマのせいで、恋愛感情というものが乏しいが、それでも俺にだって初恋の思い出くらいある。
いつだっただろう。
あれは確か、冬咲が妹だった頃だから…
考えてみたが、いまいち思い出せなかった。
明確な時期も、女子の名前も。
「・・・お前らの言う通りかも。」
どうやら、根が薄情な人間らしい。
俺は1人、自分に落胆した。