第1話②
食堂を出て、教室に戻っている道中、3人のギャルが壁にもたれながら楽しそう話している。
その真ん中に居るのは花野井だ。
「あれ?みゆう、何してんの?」
それに気づいた誠が花野井に話しかける。
両隣のギャルはニヤニヤとし始めた。
顔立ちの整っている誠と友達が話し出して、関係を誤解して面白がっているのだろう。
俺は特に話すこともないので、スマホをいじりながら待っていたが、隣の陸斗は絶望したような顔をしている。
話が終わったのか、誠がこちらに戻ってくる。
「わりぃ、ちょっと連絡事項でな。行こうぜ。」
「お前!あんな可愛いギャルの友達がいたのか!?もしかして…彼女じゃないだろうな!」
陸斗が誠に血涙を流しながら問い詰めている。
「ちげーよ!?中学が同じで仲良いだけだ。」
「え?そうなのか?てことは、ケンも知ってるのか。」
誠の話を聞いて、陸斗がこちらに話を振ってくる。
その質問を俺ではなく誠が答える。
「知ってるも何も、花野井はケンの妹だぜ。義理の」
「貴様!義妹だと?羨ましすぎる。」
「今はもうちげーよ。中2までそうだったってだけだ。」
「それでも一度は妹になった子だと言うことだろうが!?」
「いや、一度も妹だと思ったことは無いよ。」
妹どころか、家族と思ったこともない。
花野井母子は、俺達が関わるような人間じゃない。
「ん?でもお前、3組に妹いたよな?その子は?」
「そいつは今の妹だよ。1年前に親父が再婚してできたんだ。」
「なんて羨ましい奴だ!2人も義妹がいるなんて。くっそー!一体前世でどれだけ徳を積んだんだ!」
正確には3人だが、冬咲もそうだというのは誠も知らないことなので、黙っておく。
「別に羨ましがる事なんてねえよ。それに、形上妹ってだけで、俺は他人だと思ってるよ。」
今までの3人を妹だと実感したことも、思ったこともない。
母親たちも、母さんと呼んだことは無い。
俺の家族と呼べる人は、俺を産んだ女と父親だけ。
その父親はろくでなしで、女の方はあれから一度だって会ったことは無い。
顔ももう覚えていない。
そう考えれば、俺に家族と呼べる人間は居ないのかもしれない。
「そんな冷たいこと言うなよ。彩華ちゃんは意外とお前のこと慕ってるかもよ?」
「それは100ぱーないな。」
誠の言葉を俺はそう一蹴した。
放課後、今日はバイトも休みなので、中間試験に向けての勉強を図書室でしていた。
高校に入って初めてのテストなので、ここで結果を出すことは大事だ。
俺は要領が悪いので、早い段階から勉強しないと遅れをとる。
集中して勉強していたせいで、気がつけば午後6時を回っていた。
スマホのRINEに彩華の母親からメッセージが来ている。
[今日の夕飯はハンバーグ!早めに帰ってきてね。]
そんな母親ヅラしたメッセージ
[ありがとうございます。ですが、今日は外で食べて帰ります。]
俺はそう返信して画面を閉じる。
机に並べている教材を鞄に詰めて、図書室の鍵をかけて、職員室に鍵を返す。
靴を履き替えて門に向かう途中、ふとグラウンドを見ると陸上部の練習中の彩華が見えた。
彩華も学年での人気は高く、今も何人かの男子から話しかけられている。
それを同学年か先輩かは分からないが、女子達は鋭い目をして見ているのが分かる。
「彼女、嫌われてますね。」
話しかけられ、隣を見ると、冬咲が居た。
気配が全くしなかった。
「そりゃな。あいつぶりっ子だからな。」
俺にはあんな態度だが、周りの奴には猫を被って可愛い女の子を演じている。
男が好み、女が嫌う。
そんな性格をしている。
「助けてあげないんですか?兄として。」
「冗談だろ。」
「薄情な人ですね。」
一体冬咲は何を考えているのだろうか。
元家族のそれもほとんど関わりの無かった俺と話をして、何の意味があるのだろう。
(まあ、どうでもいいか。)
冬咲について考える方が時間の無駄だと感じ、俺は歩き出す。
その後ろを冬咲が着いてくる。
「何で付いてくるんだ?」
「帰る方向が同じなだけです。自意識過剰ですね。」
一々言い方がムカつくが、俺は無視をする。
そのまま一言も話すことなく、俺達は学校を出た。
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「あれ?あれって、三井さんのお兄ちゃんじゃない?」
絢士郎と麗奈が縦に並んで帰っているのが、グラウンドから見えた。
それを1人の男子生徒が口にした。
「あれって、冬咲さん?もしかして、そういう?」
1年生の女子は「キャー!」と黄色い声を上げている。
「・・・ムカつく。」
2人の姿を見て、彩華はポツリと呟く。
「三井さん?どうかした?」
1人の男子生徒が彩華に聞く。
そこで、ハッとした彩華は、いつもの可愛い笑顔を向けながら言う。
「ううん!何でもない。」
「そう?あ、練習再開だって、行こ。」
そう言われ、彩華は練習に戻る。
最後に門の方を見たが、2人の姿は既に無かった。