表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/95

第14話①

 先日、花野井 みゆうに醜態を晒し、あの女が絢士郎と2人で食事をしたという事実に取り乱したが、考えてみれば焦る必要はない。

 花野井は食事をしただけだ。

 私は1度デートをしている。

 1時間程度で帰ってきたが、2人で出かけたことは変わらない。

 それはそれとして、食事に行くという行動が羨ましいのも事実。

 なので、私はとある作戦を決行する。

 リビングのテーブルの上には、ママが作った私のお弁当と、その横にもうひとつ置いてある。


 「ふふふ。これであいつもイチコロよ!」


 私はそのふたつを持って家を飛び出した。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 期末テストが終われば、午前授業になり、1週間で夏休みに入る。

 テスト前日の今日は、一学期最後の昼休みである。俺はいつもと変わらず、購買に向かう。

 おにぎり2つと菓子パンひとつ。

 これもいつもと変わらない。

 バイト代は入ったが、ほとんど貯金しているので、贅沢はできない。


 「ちょっと、絢士郎!」


 会計を済ませ、誠と陸斗の待つ食堂に向かおうと廊下に出ると、彩華が何故か居て、眉間にシワを寄せながら近づいてきた。


 「なんだよ。でかい声出さないでくれ。」


 ただでさえ高い声なのに、音量まで上がると、耳に響く。


 「もっとちゃんと食べろって言ったでしょ!死にたいの?」


 何をそんなに怒っているのかと思えば、俺の食生活に対してらしい。

 別に関係ないことだろうに。


 「彩華には関係ないだろ。」


 「あるわよ!私の兄貴がそんな質素なご飯食べてたら、私まで貧乏人扱いじゃない!」


 質素とは失礼な奴だ。

 最近の購買のおにぎりはレベルが上がって、ひとつひとつの材料にこだわっているし、企業が出す菓子パンだって美味しい。


 「し、仕方ないから、私のお弁当分けてあげるわよ!」


 そう言って彩華は弁当箱を2つ出してきた。


 「・・・なんで2つ?」


 「こ、これは!?作りすぎたのよ!」


 「え?お前が作ったのか?」


 「そうよ。だから安心しなさい。」


 安心出来るはずがなかった。

 彩華が料理をできるかは知らないが、家でしてるところを見たことがない。

 瞳さんからレクチャーを受けていれば話は別だが、教わっているところも当然見たことがない。


 「・・・いや、俺はこれでいいや。陸上部の男子共にでもやれよ。」


 あいつらなら、不味くても美味しいと言って食べるだろう。

 そう言って立ち去ろうとすると、袖をガっと掴まれる。


 「何?私の弁当じゃ不満?」


 先程とは違う理由で眉間にシワを寄せ、冷たい視線を浴びせてくる。


 「いや、そもそも俺達は一緒に飯を食ったり、弁当作ってもらったりの仲じゃないだろ。」


 「そ、そんなの当たり前!何想像してんの、死ね!」


 「なら、なんで作ってきたんだよ!」


 「作ったんじゃなくて、作りすぎたの!」


 「だから、陸上部の奴らに食べてもらえよ!」


 そう言うと、急に黙って下を向く。

 さすがに傷ついたのだろうかと顔を覗くと、ブツブツと何かを言っている。


 「何だって?」


 聞き取れないので、正面から聞くと、少し恥ずかしそうに顔を上げて、もじもじとしながら彩華は言う。


 「・・・せっかくなら、好きな人に食べて貰いたいじゃん。」


 言ってから急に恥ずかしくなったのか、赤かった顔をさらに紅潮させる。

 なるほど。

 つまりは、あの陸上部の男子の中に好きな人が居るということだろう。

 前は笹川の事が好きなのかと思ったが、どうやら違ったようだ。

 確か、彩華の言いなりの男子は4人くらい居たはずだ。

 その内の誰かか、それとも別の誰かか。

 そんな意中の相手に、不味い物を食べさせたくないという気持ちがあるのか。


 「・・・分かったよ。食ってやる。」


 俺は心の中で納得し、仕方なく協力してやることにした。


 「ほ、ほんとに!」


 「ああ。他に犠牲者が出る前にな。」


 「・・・まじで殴るよ?」


 そんな物騒な事を言って、俺達は人目のつかない校舎の裏手に向かった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ