第13話①
ケンを見送った後、私は玄関を開けて家の中に入る。
最初に浮かんだ感想は、人の家だ。だった。
見慣れた間取りで、つい2年前まで住んでいた家なのに、漂ってくる匂いや、並んでいる靴が違うだけで、「ただいま」とは言えなかった。
よく見ると、ローファーが脱ぎ散らかされている。
ケンが家を出る時は居なかったと言っていたので、彩華が少し前に帰ってきたのだろう。
私はローファーを綺麗に並べて、階段を登る。
登ってすぐの部屋の前で私は1度立ち止まる。
ここに住んでいた時、私の部屋だった場所だ。
扉の隙間から明かりが漏れているので、彩華がいるのだろう。
(ちゃんと言っとかないとね。)
そう思い扉をノックするが、反応がない。
明かりがついているなら、寝ていることは無いと思うが…
(また後でこよ。)
ずっと扉の前で待つ訳にもいかないので、私は隣のケンの部屋に向かう。
そこで気づく、ケンの部屋の明かりもついていて、少し扉が開いていることに。
(消し忘れかな?)
そう思ったが、何となく覗き見るように扉の隙間を見ると、1人の少女がベッドにうつ伏せで横たわり、枕に顔を埋めていた。
「スー…ハー」
微かに荒れた呼吸音も聞こえる。
そう。変態である。
(何やってんだろ?あの子。)
変態こと、彩華は顔を埋めながら、たまに気持ちの悪い奇声を上げている。
(家ではあんななの…)
学校での彼女は、可憐で小悪魔的で、男子からも人気がある。
もちろん、裏があることは知っていたけれど、ケンへの態度は悪いと聞いていたのだが、そうは見えない。
どういう事か考えていると、体勢をそのままに彩華がナニかを始めようとしていたので、さすがに私は乱入する。
「何やってんの。あんた。」
声を聞いた瞬間、彩華の動きがピタリと止まる。
数秒止まり、首だけがこちらを向く。
ギギギという効果音が鳴りそうだ。
「・・・なんで居んの?」
彩華が聞いてくるので、私はできるだけ平静に答える。
「色々とあって、今日はここに泊まることになった。ケンからの提案。」
「へーそう。」
彩華との間に沈黙が続く。
私とて、いけない現場を見てしまった自覚はある。
ここはお互いに触れずに済ませるべきだろう。
「・・・えっと…何か見た?」
彩華が恐る恐る聞いてくる。
その目は何かを祈るような目をしている。
ここで私が言うべきセリフは決まっている。
「何が?何の話?」
そう言えばいいのだ。
そうすれば、この話はここで終わる。
うん。これが1番良い案だ。
私は彩華の目をしっかりと見て言う。
「・・・全部、見た。」
無理だった。
あの光景を無かったことにできるほど、私は出来た女では無かった。
そう言った瞬間、彩華の顔が真っ赤に紅潮し、ベッド上で飛び跳ねて叫ぶ。
「い、いやぁああああ!!」
その姿を見て、私はいたたまれない気持ちになった。