第12話②
「お前ら、何か喋ったらどうなんだ?」
店長が出来上がったラーメンを2杯俺達の前に置きながら言う。
「いや、特に話すこともないし。」
「適当な話題で話せよ。お前らが並んで黙ってるとこっちの調子が狂うぜ。」
「ほんとだ。ラーメンもいつもよりまずい。」
「おい嬢ちゃん。それは絶対にない!ちゃんと評価しろ。ちゃんと!」
花野井があまりに真顔で言うので、店長も本気にして抗議する。
「ったく。昔はそんなに喧嘩するかってくらいうるさかったのによ。」
「端と端に座ってるのに言い合って、周りの人達も呆れながら笑ってたな。」
「そうそう。その内、それを楽しみに見に来る奴まで現れたりしてな。ほんといい迷惑だよ。」
「でもお店の売上上がったでしょ?良かったじゃん。」
悪びれることなく言う花野井に少し笑ってしまう。
聞こえたのか、花野井がこちらを睨んでくる。
その目から逃れ、話を逸らす。
「まあなんにせよ、お互い本気で喧嘩する歳でも無くなったってことだよ。」
「つい2年前の話だけどな。」
店長の言葉に「確かに」と同調し笑い合う。
花野井は何かを言いたげにこちらを見たが、口には出さず、黙々とラーメンを食べた。
店を出る頃には、夜9時を回っていて、人通りはより一層無くなっていた。
「そろそろ帰るか。家まで送る。」
さすがにこんな夜に女子を1人で帰す訳にもいかないのでそう言うも、花野井は浮かない顔をしていた。
「・・・なんだ?まだ帰りたくないのか?」
そう尋ねると、花野井は小さく頷く。
俺は頭を掻きながら考える。
「私のことは、気にしなくていいから。ケンは帰っていいよ。」
困っているように見えたのか、花野井は静かに言った。
あまりに元気の無い彼女を置いていく選択肢は、俺には最初からないのだが…
「・・・仕方ねえか。」
良い解決法とは言えないが、緊急事態だ。
許してくれるだろう。
「花野井、今夜うち泊まれ。」
「は!?」
花野井は夜だと言うのに、とてつもなく大きな声で驚きの声をあげる。
「な、何言ってんの!?」
「仕方ねえだろ。放ってく訳にも行かねえし。」
「いや、いいよ!迷惑になるし!」
「大丈夫だよ。今日は親居ないし。」
「余計ダメでしょ!?同級生の男子とお泊まりとか、ハードル高いから!」
「いや、元兄妹じゃん。」
「今は違うでしょ!」
「それもそうだが…」
だからといって、他に案がない以上、そうする他ない。
「ま、まさか、あんた…」
花野井が虫を見るような目で俺を見てくる。
腕で自分を抱えながら1歩下がる。
「私に、変な事しようって考えなんじゃ!?」
「するわけねぇだろ!何考えてんだ!」
その誤解は色々とまずいので、全力で否定する。
それでも信じていないのか、花野井の表情は変わらない。
俺はため息をついて、考えを話す。
「俺は今日誠の家に泊まらせてもらうから。お前はうちに泊まれ。彩華も居るけど、女同士だし問題ないだろ。」
「あ、そうなんだ。」
俺が家から出る事を言うと、少し安堵した。
「でも、やっぱり迷惑なんじゃ?」
「彩華は色々と言ってくるかもしれねえけど、干渉さえしなければ大丈夫だ。一応瞳さん、今の義母には連絡しとくし。」
話がまとまると、最後まで渋っていたが、他の方法が思いつかず、花野井は俺の家に泊まる事になった。
夜も遅いので、自転車の後ろに花野井を乗せて家まで漕ぐ。
警察に見つかればアウトだが、無事家までたどり着いた。
俺は家の鍵を開けて、もう一度自転車に乗る。
「それじゃ。お前は俺の部屋使っていいから。嫌だったらソファとかでもいい。お前が使ってた部屋は彩華の部屋になってるから、気をつけろよ。」
「あ、ありがとう。誠の家は大丈夫なの?」
「さっき連絡したら問題ないってよ。だから気にするな。」
「じゃあまあ、お言葉に甘えます。」
「ああ。じゃあおやすみ。」
「おやすみ。」
そう交わし、俺は誠の家に向かった。